断る余地無しの二つ返事
5
「それ、持っとっか?」
「大丈夫、ありがとう」
誘われて、すぐに親へ今日遅なる、と連絡をして花籠さんのバイト先へ向かった。
バイト先は、個人営業の小さな喫茶店と言っとたけど、この辺にそんな店あったか?と花籠さんの隣を歩いていると、こっちね、と小さな路地を指差して再び足を進めた。
「…はじめてこの道通った」
「普通はなかなか通らんよね〜、ここだよ」
そう言って、足を止めてた目を向けると、外装に懐かしさを感じた。俺はココに来るのは初めてだから、懐かしいと感じるのはおかしいな話。でも、全体に黒褐色で所々薄い色あって、趣があってええなぁと思った。
「あ、ゆりちゃん!おかえり、今日も余ったん?」
俺らより少し上ぐらいで感じのいい男性がエプロンをしたまま店の前に現れた。営業中と書かれた札をくるりッと裏返して、準備中に変えた。
「そうなの!さっき駅近くで腹ペコのクラスメイトに出会ったから一緒にええ?」
「ええよ、ええよ!大人数で食べる方が上手いもんな!中、入りぃ」
「…お、お邪魔します」
お店の入り口を入る時の言葉ではないけど、営業時間外なんやからな…中に入るとぶわーッと広がる珈琲の香りに食欲が増した。
別に珈琲が好きなわけじゃない。むしろ、得意じゃない。でも、匂いは好きや。あ、そうや、今朝もこの匂いがしたなぁ。
「ゆり、おかえり〜!今日はなに作った?」
お店に入ると女性がキッチンの奥から顔を出した。「唐揚げだよ」と言えば、女性はやったぁ!うちの子も喜ぶわぁ〜とガツポーズして、また姿を消した。
「かわいいやろ?オーナーのお嫁(お“よ“め)さんの、よーちゃんっていうよ!あ、オーナーは、アレな?」
「ゆりちゃん、アレは酷くない?」
「あはは、ごめんなさい。お手伝いするから許して〜」
花籠さんをまだ沢山知っているわけじゃ無い。学校で友達といる所をちゃんと見ていないから俺は知らない。でも、今この店にいる花籠さんは俺の知る花籠さんで一番、楽しそうや。
「俺も、手伝います」
普段、家におる時なら絶対言わん言葉が出てきた。自分でもびっくりした。肩にかけてあった鞄を下ろして、邪魔にならんように隅っこに置いた。
「ええよ!ゆっくりしとき、部活終わりやろ?頑張ったんやから、適当に座ってて」
「治くん、お茶冷たいの暖かいのどっちがいい?」
「…すみません…冷たいのがええなぁ」
「わかったよ」
適当にってどこに座ったらええんやろ…カウンターじゃない方がええよなぁ…と考えて止まっていると花籠さんが、こっち座ってっと4人掛けのテーブルを繋げてくれた。
「…そんな、人おる?」
四人掛けのテーブルを繋げんでも、オーナーとその嫁さんなら…と花籠さんに聞いたら「ちびっ子二人くるから」とニッコリ、微笑んだ。
「ゆり姉ー」「ゆりー」と叫び声とドタバタと足音が近づいてきて、花籠さんに飛びついた。
「二人とも元気だね」
「きょうねぇ、ほいくえんでね!「みて!これ、きれいないしひろったん」…いま、わたしがゆり姉とはなしてたんよ!!」
「しらん。おれがゆりとはなしてたんや」
「ちょっと、おねえちゃんになにそのたいど」
「はぁ?おねえちゃんじゃなくて、ふたごや」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すちびっ子を見え、どこって似たようなやりとりみたような…したような…ちび子は元気やなぁ。
「なぁ、ゆり、このひとだれ?」
花籠さんに飛びついた男の方が俺にやっと気づいた。「クラスメイト…友達だよ」と答えたら「かれしじゃないのー?」と女の子が言った。最近のちびっ子がすごいのか女の子だから凄いんか、分からんけどマセとるなぁ。
「ゆりのカレシは、おれや!」
「ゆり姉ぇー、またアホなこと、いってんでぇ」
「アホやない」
「じゃ、バカだね」
なんやろ…よう知ったやりとりで、思わず頬が緩んだ。花籠さんも嬉しそうに二人をみて、「ご飯だから、手洗っておいで」と言い合いの仲裁に入らなかった。
テーブルに、花籠さんが作ってくれた唐揚げ、味噌汁、サラダ。オーナーの奥さんが作ってくれた、漬け物、お浸し、フライドポテトと、白米。
「「「いっただきまーす!」」」
どれも食っても旨い。全部、家とは違う味付けなのに、旨い。さっきまで騒いでたちびっ子も嘘みたいに静かで、無我夢中でご飯を食べている。ツムが居らんから俺から競い合って食べる事ないで、じっくり味わった。
「ゆりー、おかわり!」
「んん、ゆり姉、わたしもー」
「二人ともゆっくり食べたよ?はい。オーナーはいる〜?」
「おう、よろしく」
花籠さんがお茶碗を受け取ったら、俺にも「いる?」と聞いてくれたんで、「お願いします」と空っぽのお茶碗を渡した。
「「「ごちそうさまでした」」」
あんだけあったモン全部、大人数やとあっという間に無くなってしまった。食器をキッチンに運び終わると、オーナーがちびっ子二人を抱き抱えて「悪ぃなぁ、後、頼んでええ?こいつら風呂入れないかんで…」と言った。
あれだけ騒いで、飯食ったら、眠なるよな…ちびっ子の気持ちがよくわかる。
「いいよ!おやすみ、二人とも」
「ありがとうございました」
「また、来てなぁ」
ちびっ子とオーナー達が消えて二人で食器を洗うため並んでキッチンへ入った。
「治くん、泡落としてくれる?」
「わかった」
ガシャ、ガシャと食器を洗いながら「ええなぁ、ここ」と俺が言ったら目をキラキラ輝かせて、「せやろ?!」と言った。
「最初は、なにこれ古ぼけた店と思ったんだ」
「失礼やな」
「でも、この古ぼけた感じが雰囲気あるんだなぁって気づいて、よーちゃんもオーナーも優しくて、ちびっ子可愛いくて、本当にいいお店だよね」
「…そうやな」
別に花籠さんを褒めたわけじゃない。
なのに、自分が褒められたかみたいにはしゃいでいる姿があまりにも幼く見えて、ふふって笑みが溢れた。
「えー、なに、笑ってるの?」
「なんでもあらへん」
「なにそれ、怖っ」
「よそ見してないで、ちゃんと洗い。ほら、ここ汚れとるよ、ゆり…っ!」
「あ、本当だ!ゴメン!」
「………」
オーナーや奥さん、ちびっ子が呼んでいるのを散々聞いていたから移ってもうた。でも、花籠さんは気にしとらんようで、黙りこくった俺に「どうした?笑ったり黙ったり、治くん忙しいな」と笑った。
「いやじゃないん?」
「何が?」
「名前で呼ばれるの」
「友達に名前で呼ばれて嫌がる人おる?」
治くんって変やな、とまた笑った花籠さ…ゆりに「そっちのが変やわ」と言い返した。洗い物が終わり、そろそろ帰ろうかなと鞄を持ち上げた時に「二人ともおまたせー、送っていくで、外で待っててなぁ」と奥さんが顔を出した。
「…ちびっ子ええのか?」
小さい声でゆりに聞いたら、ちびっ子のお風呂はオーナーのやる事らしいよ、と小声で教えてくれた。
「俺は電車で帰るんでいいすよ」
「何、言っとん?大事なお子さん預かったやから、乗せて帰るんが当たり前やろ?」
「よーちゃんの怒ると怖いんよ!ねぇー?治くん、家どのへん?」
「…こっから、二つ先の駅…です」
「ねー!ってなんや!怖ないわ、よし、じゃあ帰ろか」
奥さんに送ってもらって、わざわざうちの親にまで挨拶してくれた。「うちのゆりがいつもお世話になっております」って言っとたから、うちのオカンは勝手になんか勘違い起こしてそうやから、「クラスメイトね」と釘を刺した。
幸い、ツムが風呂入っとる時間だから、大騒ぎにならんでよかった。
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