目が覚めたら、見慣れない天井が視界に映った。しばらくぼーっと考えた後、自分が旅館に泊まりにきたことを思い出す。
「ーーーあれ?」
そう思ったのだが、おかしい。私が宿泊したのは築何十年といった風体の和風旅館だ。部屋にはちゃぶ台や敷布団が置かれ、襖で部屋が区切られていた。けれど今私が寝ているのは黒いシーツのベッドで、部屋の家具は値が張りそうな洋風のアンティークだ。あの旅館にこんな高級感溢れるランプが置かれるような特別室があるとは思えない。
(此処は、一体どこだろう)
自分の恰好は見覚えのある洋服だから、行き摩りの男と間違いがあったわけじゃない、はず。
男・・・おとこ。そういえばやけにリアリティのあるおかしな夢をみた。旅館を出て、山奥まで行ったら変な男に血を吸われる、ゆめ。
ふと、視界に自分の姿が映っていることに気がついた。ベッドからほど近いクローゼットには、全身が映る姿見がついていて、ベッドの上からでも自分の姿が確認できた。いつもと何ら変わらないはずのその姿にみる唯一の違和感。首元に残る、2つの真っ赤な点のような跡。
それを見た途端、背筋にゾワッと悪寒が走った。夢だと思ったことは、すべて、現実。
それなら今自分がいる場所はーーーーー!
信じたくない状況に心底恐怖を感じながら、とにかくベッドから抜け出す。
ドアに一目散に駆け寄り、廊下に出て、出口がないか辺りを見回した。
幸い此処は厳重な警備の監禁施設でも怪しいオフィスビルでもなく、マンションの一室だった。廊下の先にある玄関を抜ければ、とにかく外に出れるに違いない。そう思って一歩踏み出した、その時。
「何処に行くんだ?」
突然背後から若い男の声が聞こえたと同時に、お腹の辺りに黒い手袋を付けた腕がまわされ、動けない。もしかしたら動けないのは、恐怖のせいかもしれないけど。
「挨拶もなしに出て行こうなんて、随分とつれねぇな」
ククッと喉で笑いながら、背後の男はそう宣う。きっと夢でみたーーーいや、認めたくないけど、現実であったあの出来事ーーーの、私の血を吸った張本人だろう。
身体が凍りついたように身動きがとれない私を置いてけぼりにして、男は続ける。
「あれだけ吸ったから貧血にでもなってるかと思ったが、見た目と違って案外丈夫みてぇだな?まさか起きた途端元気に逃げ出そうとするとは思わなかったぜ」
その言葉に、動けないはずの身体は無意識に震えた。起きた時、人の気配なんて全くなかった。でも、この男は私の一挙一動を見ていたんだ。それどころか、男は確かにいま自分の背後にいるというのに、声が無ければ存在していることに気づけないほど、気配が感じられない。
「ここは…どこ?」
絞り出した声は、自分でも震えているのがわかった。男の正体よりも昨日の悪夢よりも、とにかくこの場を逃げ出したいばかりの一言だった。
「俺の家」
簡潔な返事。でも違う、そんな答えを求めているんじゃない。一度小さく息を吐いて、再び尋ねた。
「貴方の家はーーーどこにあるの?」
「横浜だ」
(横浜!?嘘ーーー!)
この怪しい男は、自分と同じ横浜に住んでると言う。信じたくない現実がさらに増えたが、ここが外国や異界じゃないだけマシなのかもしれない。
「腕…はな、して」
「へぇ?なんで?」
「な、なんでって…帰る、から」
うまく回らない舌を叱咤しながら、男に自分の意思を伝える。心臓が飛び出るんじゃないかというほどドキドキしてる。勇気を振り絞って伝えた言葉が、男に届くことを心の中でひたすら祈っていると、首に柔らかいものが当たる感覚がした。
「この状況で、みすみす逃すと思ってんのか?」
「っやーーー!?」
慌てて離れようとしても、もう遅かった。つぷりと昨日と同じところに牙が刺さり、また血を奪われる。ただ、肌を強く吸われた昨日と違い、今は傷口から溢れた血を舐め取られているみたいだった。
それでも、やっぱり身体が熱くなり、じわじわと快楽に侵食されていく。
「あぅ、や、あっ…んん、ン!」
「…昨日も思ったが、唆るなァ手前の喘ぎ声」
「っん、ちがーーー喘いでなんか、ない…感じて、なんか」
「へぇ?ほんとか?」
男の、お腹に回っている手と逆の手が、膝まであるスカートの裾から侵入し、太腿を撫で上げる。咄嗟に足を閉じようとするが、いつの間にか男の片脚が間にあり、それは叶わない。
男の指が、下着の上から割れ目をなぞる。ヌルリとした感触が自分でもわかった。
「濡れてんなぁ?」
愉快そうに男が耳元で囁く。
顔から火が出そうなほど恥ずかしくて、必死に否定の言葉を並べる。
「違う!これは、違うの、わ、私は…」
「何が違うんだ?俺に血ィ吸われて感じてんだろ?」
「ちが、そんなわけっ…ない、ン、あっやだ、やめーーー」
長くて硬い無骨な指が、下着をずらしてナカに入ってくる。一気に根元まで差し込まれ、ヒクヒクと痙攣してしまう身体。こんな得体の知れない恐ろしい男が相手だというのに、感じてしまっていることが口惜しくて、力一杯男の腕を掴み止めようと試みる。
けれどまるでビクともしなくて、男の指が好き勝手に身体の奥を蹂躙していく。
「生意気な口とか違って、こっちは随分と素直じゃねぇか。イイトコロを触ってやると、きゅうきゅう吸い付いて強請ってきやがる」
「ひぁっあ、あ、やんッーーーも、やぁ、だめ、だめぇっ」
「イきてぇんだろ?我慢すんな」
くちゅくちゅと水音をたてながら、男が奥の方の、一番弱いところを指の腹で強く擦り上げた。
「ひゃうぅッあ、あーーー」
自分でも嫌になるくらい、情けなくていやらしい声を上げて、達してしまう。電流が走るような感覚の後は、もう身体に力が入らなくて、男にもたれ掛かる。完全に息が上がっている私と違い、平然とした様子の男は、楽しそうにニヤリと口の端を上げて笑った。
「続きはベッドでするか」
私が言葉の意味を理解する前に、男は軽々と私の身体を抱き上げて、先ほど私が逃げ出した部屋に足を向けた。
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