「うわ、雨だ」

名前がそう言ったのを耳にして雨が降っていることに気付いた。
まあまあ激しく降ってる。さっきまで降ってなかったのに、通り雨か?…どうでもいいけど。

「五条傘持ってる?」
「持ってるわけねーだろ」
「だよねぇ」

はあ、と名前が気怠げにため息を吐いた。俺に傘とか必要ない。雨だろうと槍だろうと無下限で弾くし。

「五条の無下限バリア入れてよ」
「は?ヤダ。濡れて帰れよ」

俺がそう言うと名前は「意地悪!白髪!」と俺に悪態をついた。白髪関係ねぇだろ。てか白髪じゃなくて銀髪だっつの。

さて、次はどう出るかとチラリと見下ろすと、名前は昇降口に突っ立って変わらず空を眺めている。
授業終わって傑も硝子も用事があるとか言ってまだ校舎に残ってるし、今傘を貸してくれるような奴はコイツにはいない。
止むまで待つか、濡れて帰るか。

「何で五条ずっといるの?」
「は?」
「無下限あるから別に一人で帰ればいいじゃん。私のことは入れてくれないんでしょ」

いじけたような顔で名前が俺を見上げた。
確かにその通り。別に俺は本心で濡れて帰れとか思ってるわけじゃない。
寧ろ濡れて帰るな、とは思ってる。
無下限を自分以外の人間に付加するには身体の一部が触れていなければならない。

「俺の好きにさせろ、俺の都合だし」
「どうせこの後何もないでしょ?私が困ってるの見て面白がってるくせに」

あー、名前から見たらそうかもな。
面白がってはない、ただもう少しお前といる口実を作りたいだけ。
1秒でも二人で長く居たいだけ、とは口が裂けても言えない。だって俺は名前のことが好きで、名前は俺のことを何とも思ってないから。

「ここで一人で雨止むまで突っ立ってんの、気の毒だから付き合ってやってんだろ?感謝しろ」
「だから無下限バリア入れて寮まで一緒に戻ってくれたらいいじゃん」
「それは無理」

何でよ!とまたむくれる名前が可愛い。
別に入れてやっても全然いいけど、そしたら俺達は手を繋がないといけないし、名前は嫌がるだろ。
…俺は繋ぎたいけど。

「…はー、硝子か夏油傘持ってないかな」

通り雨にしては長い。
全然止む気配がないので名前はとうとう諦めて校舎に戻ろうとした。
反射的に俺の手が出る。

「…なに」
「……」

何してんだ俺。
不思議そうな顔をして俺の手と顔を交互に見た名前。

「傑も硝子も持ってないって言ってた」
「…何で知ってんの?」

二の句が繋げず、俺が黙ると名前も黙る。
俺が掴んだ名前の手を離さないので、名前はどうすべきか悩んでいるようだった。

「五条、なんか変。お腹壊した?」

仕方なく俺の隣に来た名前は、また退屈そうに雨を眺める。

「壊してねぇ」
「手、離してよ」
「ヤダ」
「…何で?」
「まだお前といたい」

無意識に口をついて出た言葉にあ、と俺は自分の口元を手で押さえた。名前は心底驚いたという顔で俺を見上げている。

「…五条って私のこと好きなの?」
「好きだけど」

あー、なんか勢いで言ってしまった。終わったな。フラれる。フラれるとわかってたから言わないでいたのに。
はー…クソだりぃ。

まだ握っていた手が離せないでいる俺は名前の顔が見えない。絶対呆れられてる。そしてキモがられる。

「…じゃあ、まだいる?二人で」
「…え」

でも返ってきたのは予想外の言葉だった。
はたと名前を見下ろすと、頬を赤くして上目で俺を見ている。
は?何その顔。

「でも私寒いしもう帰りたいから」
「…帰ったらお前といれないじゃん」
「…別に二人でいればいいじゃん、帰ってからも」

名前はそう言うと、俺の腕を剥がして自ら手を絡めてきた。
俺はその手を握ったまま、名前の体を抱き上げると男子寮の自室へ連れ込んだ。

「何で五条の部屋?」
「まだ俺といるんだろ」
「…うん」

勢いでベッドに押し倒すと名前は目を見開いた後、ゴンとおれの頭を小突いて「そういうところだよ?」と笑った。




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