「ここが職員室ね。名前の勤務はここになるかな。最初は伊地知と新田に事務仕事を教わってね」

実際問題人手不足であるいう事務方とは話がトントン拍子に進み、本当に名前が高専で働くことになった。傑の月命日の墓参りから一週間と経っていないから、名前はびっくりしていたけれどいざとなるとやはり乗り気らしい。オーダーした黒いスーツに身を包む彼女は嬉しそうだった。

普段の彼女の振る舞いを見る限り、もっと僕を好きになりたいというのは本音だと思う。でも本当の本当の本音では、彼女は僕以外の他者と関わりたいんだと思う。確かに結婚してから家に半分軟禁状態だったからそれは良くなかったかもしれない。

でも僕にはよくわからないんだよ、愛し方っていうのが。大切なものを大切にする方法がわからない。僕に致命的に欠けている部分はそこだ。それは自分でも自覚している。……そのせいで傑があんな風になった。傑は強かったから、僕を置いていってしまった。
だから今度は、名前をそうさせないために何もかもから守ってあげる。強くなんかならなくていい。弱くていい。僕だけがいれば良い。そう思っていた部分が正直言うとある。
…でもそれじゃ、ダメらしい。

「わかりました。私、頑張ります!」

学長を始め補助監督の面々にも挨拶を済ませた名前はそれまで見たことない生き生きした表情をしていて、僕としては少し面白くなかった。…そんな顔、僕と二人の時にしたことないじゃん。
でもまあこれが愛し合う夫婦にとって必要なことならば仕方ない。何かあればすぐ辞めさせればいいし、僕の妻と知って手を出す馬鹿は高専にはさすがにいないはず。
…とは言え暫くは様子見だな。

「今日は顔合わせと書類関係の手続きだけだから、この後は…」
「失礼します、五条先生いますか。……あ」

職員室で僕が名前に帰るように促そうとしたときだった。書類を手に職員室にやってきたツンツン頭に僕はこの時ばかりは目を細めた。まあ目隠ししてるから誰にもその表情見られてないけど。

「恵」

よりにもよって恵か。…まあ良いけど。
恵、と言う僕の言葉に名前が反応した。僕が保護者として恵の後見人になっていることは結婚した時に話していたから、名前も名前とその存在は知っている。後見人ってことは実質僕が恵の父親代わりにいろいろしてるってことだから、どうしても妻になる名前にその辺りの事情を話しておく必要はあった。まあそれは別にいい。

僕よりも歳が近くて気が合いそうな恵と名前を近付けたくない、それだけのことだけど。

「あ、もしかして…」
「?…どちら様ですか」

名前と恵の視線が合う。そのもしかして、だよ。あーやだなぁ、そこ二人は仲良くならないで欲しいな。

「…紹介するよ、恵。僕の妻の名前さんです」

わざと名前の肩を抱きながら恵にそう言うと、恵は目を丸くした後ハッとしたように名前を一瞥して控えめに会釈した。

「伏黒恵です。…五条先生には、お世話になっています」
「五条名前です。初めまして。恵くんのこと、悟さんからお話だけはちょっと聞いてたんだけど…えっと…こちらこそ、夫がいろいろお世話になっているようで」

形式ばったぎこちない挨拶をする二人に僕は思わず吹き出してしまう。「何笑ってんですか」と恵が額に青筋を浮かべるのをまた笑っていると、名前が困ったように頬を掻いた。

「五条先生、マジで結婚してたんですね。奥さんのこと誰も見たことないから空想上の存在だと思ってました」
「それ硝子にも言われたんだけど」

恵は失礼なことを言いながらもう一度名前をじっと見た。めちゃくちゃ若いな、とか思ってるんだろうな。君と2〜3歳しか変わんないよ。どうせ僕のこと変態ロリコン野郎だと思ってるんだろ?別にいいけど狙うなよ。

「で、何で五条先生の奥さんが高専にいるんですか」
「来週から事務員として働くことになったから、今日は挨拶と手続きに連れてきたの。恵は狙わないでね、僕の奥さんだから」
「は?狙うわけないでしょ」

恵は興味無さそうに僕に言い捨てる。本当かな?恵が油断ならない男だって僕は知ってる。さすがに名前に手を出すような馬鹿な真似はしないだろうけどね。…でもなんだろうな、恵と名前が仲良くなってたらと想像するとそれだけでスゴい嫌なんだよね。

「よろしくお願いします」

そんな僕の気も知らずに名前はぺこりと丁寧に恵に頭を下げた。術師としての歴や実力を加味すれば名前の姿勢は当然なのだけど、恵は驚いていた。まともな人間が少ないこの世界に於いて、名前は比較的まともな方だ。

「こちらこそ。…俺と姉の事務手続き関係でお世話になるかもしれないので、ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
「いいえ、お気になさらず。そんなに畏まらなくていいよ。恵くんも、お姉さんのことに限らず何かあれば言ってね。私に出来ることなら何でも協力するつもりなので」

にこっと笑う名前に恵は固まった後、少し俯いて目を逸らしながら「…はい」と小さな声で素直に返事をした。
え?恵照れてる?照れてんの?思春期?

「五条先生、こんなまともな人と何で結婚してもらえたんですか?」
「恵さあ、さすがに僕に失礼すぎ」









「そういえば恵くん、初めて会いました。しっかりした子ですね」
「まあね。歳の割に苦労多いから」

僕が帰宅すると名前は既に部屋着に着替えていた。あの黒のオーダースーツもよく似合っていたけれど、やっぱり普段のリラックスした名前を見ると安心する。
僕が目隠しを外すと、いつものようにおかえりのキスをして彼女は夕食の支度に取り掛かる。いつもの日常。…大丈夫、今日も彼女はちゃんと僕のものだ。

「恵くん、仲良くしてくれるといいんですけど」

手を洗って僕も着替えてダイニングに戻ると、早速恵の話だった。夕食のお皿を並べながら嬉しそうに"仲良くしてくれるといい"なんて言われるとイライラする。
何それ。名前は恵と仲良くなりたいわけ?僕がいるのに?浮気じゃん?
抑えきれない腹の中の苛立ちを掻き消すように、反射的に名前の肩を掴むと無理矢理口付けた。固まる名前。それを良いことに僕が舌を絡めると、胸を弱く押されたので渋々口を離した。…ちぇ、もうちょっとしたかったのに。

「何、ですか急に…」
「帰ってきて早々に恵くん恵くんって恵の話ばっかりするから」

僕がわざと怒気を含んだ声でそう言うと驚いたように名前は僕を見上げた。名前が持っていたお箸と箸置きを僕がやんわり奪うと、じっと見つめられる。本当に可愛いな、今日も見つめられるだけでビリビリ来るよ。
…やっぱり僕だけいれば良くない?高専で働くのってそんなに良いこと?恵と仲良くなってどうするつもり?

「…やきもち?」
「そうだよ、ダメ?」

僕が即答すると、名前は困り顔のまま頬をかいた。ハーフアップにした髪が肩にかかっている。少し前につけたキスマークがその髪の向こうにある首筋から覗いて僕は目を細めた。今日もいっぱい付けてやろう。君は僕のだ。他の男になんか触れさせない。誰にも触らせない。恵だとしても君の心を占めるなら許さない。
君は僕の運命の人なんだから。

「私が悟さん以外の男の人とそんなことになるわけないです。だって結婚してるんですよ?」
「…名前がそう思ってても、周りがそう思ってるとは限らないよ」
「だって五条悟の妻に手を出そうなんて命知らずにも程がありますし…。ましてや恵くんは悟さんにとって息子みたいなものですよね?ってことは私にとってもそういう存在ですし…そういう意味で仲良くしたいっていうだけですよ?」

息子?まあそう言われてみればそうか。ってことは恵にとって名前は義理のお母さんみたいな存在ってこと?いやそれは違うけど。あくまで僕が保護者なだけで名前はあの件には関係ないし。

モヤモヤしながら僕が黙ると名前が困った顔で僕の顔を覗き込んだ。

「悟さん」
「何」
「私、悟さんにやきもち妬かれて嬉しいです」
「…ほんと?」
「はい。私も悟さんが思ってくれるのと同じくらい、悟さんのことちゃんと好きになりたいので。…とは言え確かに恵くんのことばかり言い過ぎました、ごめんなさい。今日はもうこの話はお終いにしませんか?」
「わかってくれたらいいよ♡僕もやきもち妬いてごめん」

ぎゅう、と誤魔化すように名前を抱き締めると名前も僕の背中に腕を回してくれる。シャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。…へえ、もうお風呂入ったんだ。僕より先に帰ってたもんね。

「ご飯食べましょう?」
「うん」

じゃあご飯の後すぐに抱こう。恵のことなんか忘れるくらい、僕でいっぱいになって僕のことだけ考えていればいい。君は僕の妻なんだから。









夕食を終えシャワーを浴びてリビングに戻ると、名前はまだ台所にいた。ちょうど食器を洗い終わったところだったらしい。水を飲もうと僕が冷蔵庫の扉に触れると、名前が振り向いてグラスを僕に差し出した。

「さすが僕の奥さん♡」
「いつも飲むでしょう」

ふふ、と微笑んで渡されたグラスを受け取り、ミネラルウォーターを飲み干す。名前はエプロンを身に付けて仕上げとばかりに調理台を布巾で丁寧に拭き上げていた。そんな後ろ姿を見下ろして僕の熱が燻る。

さっき嗅いだシャンプーの香りを思い出しながら僕はグラスの中に僅かに残った水滴を覗き込んで思案した。以前自分で言ってまだ実現していない"キッチンで立ちバック"というシチュエーションが頭を駆け巡る。……うん、今なら出来るな。
…いいかな。いいよね?だって僕達夫婦だもんね?

「名前〜」
「ん?」

名前を閉じ込めるみたいに調理台に両手を付くと、名前は驚いたように振り返って僕を仰ぎ見た。どうしたんですか?と微笑を浮かべる姿にも欲情してるって言ったら引く?

「ねえ、今すぐ名前としたいんだけど」
「…えっ、あ」

すりすりと撫でた頬に手を添えて、そのまま屈んで名前の唇に噛みついた。返事なんか待てない。すぐに舌を絡めて上顎をなぞると、控えめに名前も舌を絡めてくる。…やっば、えろ。僕の教育凄すぎ。

「悟さん、あの…」
「今日はこのままここでしよっか♡」
「え」

名前の唇を堪能するだけで興奮する。名前が涙目でふにゃふにゃになっているのを確認して唇を離した。
キスだけでとろんとした顔しちゃって本当可愛いなぁ。
頬を赤らめて目を細める名前に僕もスイッチが入る。てかこれさ…服上手く脱がせれば裸エプロンも出来るんじゃないの?何それ最高過ぎ!ヤろうヤろう!キッチンで裸エプロンで立ちバック!!男のロマン!!AVよりも生々しいスゴいやつやろう!!

名前は意味がわからないという顔をしていたけれど、僕がまた後ろから名前の唇に噛み付くとぴたっと固まる。それを良いことに背中のエプロンの紐を解いて中に着ているショートパンツを脱がせてスウェットからも手を抜かせた。顔を離してずるっとスウェットも頭から抜くとあら不思議、下着にエプロンの名前の出来上がりだ。

「さ、さとるさん?!」
「可愛い♡」

顔を赤くして震える名前。身体ごと振り返って僕を見上げるその目が涙目でうるうるしていて可愛い。背中に指を這わせて薄水色のレースのブラのホックを外せば「あっ…」と僕の服の裾を握っておろおろし始めた。
まさかこんなことになると思っていなかっただろうから、混乱しているんだろう。別にセックスなんてもう数え切れないくらいしてるのに、名前は慣れないシチュエーションに羞恥で動けなくなっている。それも可愛い。

「悟さん、こんな格好恥ずかしい…」
「本当だ、恥ずかしいね♡…でもいつもやってるみたいに、もっと恥ずかしいことしたいでしょ?」

わざと両手で頬を包んで僕がそう言うと名前は赤面したまま目を伏せた。
逃げられないように僕が足で名前をやんわりと挟んでいるから、調理台に背を預けて名前は動けないでいる。

「お返事は?」
「…あ……」
「…名前?」
「……っ」
「したいでしょ?…言ってよ」

名前の耳にぴったり唇をくっつけて、僕が内緒話みたいに小声で低く囁くと名前は小さく頷いた。

「…し、たいです」

内心で10000と書かれた札を勢いよく上げながら「よくできました」と僕が名前の頭を撫でると、彼女は僕の手に彼女の手を添えて俯いた。
名前だって何だかんだ言ってえっちなこと好きだもんね。年頃の女の子だもん、興味がないわけない。

「…良い子」

僕がまた耳元で囁くと名前は困ったようにまた頬を赤らめなら、自らショーツに指を引っ掛けた。





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