私は知らなかったんだけど、恵の同級生の虎杖悠仁くんという子が少し前に亡くなっていたらしい。
というのも特級呪物、両面宿儺の指を飲み込んで彼の中で受肉してしまったものの、要約すると任務で死んだと。
しかし本当は死んでなくて(厳密に言うと一回本当に死んでたらしいけど)、悟くんが囲って修行をしてましたーピース!ということらしい。
「…人が悪いね」
故人の虎杖悠仁くんです!と言われて登場した彼は明るいムードメーカーという感じで、亡くなったショックを引き摺っていたらしい釘崎ちゃんがちょっと泣いている。恵はそれにびっくりしていたし、京都校の面々は虎杖くんに全然興味がなく、悟くんが海外出張で持って帰って来たお土産に夢中だ。
あ、東堂こっち見た。…見てない見てない、目は合ってない。無視しよ。
虎杖くんの復活にワイワイしているのを遠巻きに見ながら、私は悟くんに話しかけた。
私はこの件、一切何も聞いてませんけど?
恨みがましく悟くんの隣で声をかけると、本人は楽しそうだった。
「学長から頼まれてた話、聞いてくれた?」
「一応ね」
「助かる!何もないことを祈りたいけど、保険は必要でしょ。僕1年の担任だから今回下手に動けなくてね」
虎杖悠仁は呪術規定によれば死刑になるはずの人間。悟くんの一存(恐らく恵の大好きな善人タイプだから恵の意思もある)で生かしたせいで保守派の京都側から表沙汰にはなってないものの、不満が噴出しているらしい。
本当にややこしいことしてくれたな。
「…京都の学長とか超保守派じゃなかった?虎杖くん目の上のたんこぶだよ」
「僕もそう思う」
驚愕で目を見開いている京都校の楽巌寺学長の表情が全てを物語っていた。
おじいちゃんびっくりし過ぎて死んじゃうんじゃね?
つまり楽巌寺含め虎杖くんを狙って殺そうとする保守派の面々がいるはずってことか。
最悪の場合それを止めろってこと?私に?
「でも私必要?虎杖くんは死んでも両面宿儺の力で生き返られるんでしょ」
「どういう縛りかわからない。次も必ず生き返る保証はないよ」
誰が何を目論んでいるかわからないから。こそこそと悟くんに耳打ちすると、恵からの視線を感じる。露骨に不機嫌そうな顔をしてる……何?私なんかした?
「そういや恵、昨日葵にボコされたんだってさ」
「…ふーん」
悟くんも恵の視線に気付いたのか私にこっそり耳打ちした。
ああ、それであんなに機嫌悪そうなのか。確かに東堂と恵って性格的に絶対相性良くないし……ってか恵、東堂に好みのタイプ聞かれたのかな?何て答えたんだろう。
え、私?私のこと言っちゃった?!きゃー!だとしたら!!!面白すぎる!!
私がジェスチャーで必死に恵にアピールするが「は?」と言う顔で「は?」と言われただけだった。急に冷たい。
じゃあもしかして、交流戦は東堂と恵が当たる感じ?
「名字!そこで何をやってる、俺はお前が出ないことにまだ納得いってないからな」
「名字で呼ばないで」
悟くんと二人でコソコソ話していると、東堂が私に向かってまた叫んできたので、みんなが一斉にこっちを向いた。やめてよ。目立つじゃん。
「あ、あれ名字さんだ」
「アレが名字名前カ…」
「昨年東堂さんとまともにやり合ってたんですよね」
「ふん…相変わらず可愛くない」
ざわざわするなそこ!京都校2年と西宮!静かに!!あ、あれもしかして噂のメカ丸か!?本当にロボットっぽいな、傀儡術とかかな?
「ないでしょ。追加メンバーも発表されたし、人数も合う。私は出ない」
「何?」
「東堂こそ、ウチの1年と2年をナメすぎじゃない?つまんないことグチャグチャ言ってないで、実際試してから判断しなよ」
私の言葉に東堂はがっかりした表情のままだった。
「言うほどか?…退屈だったぞ」
その瞬間、恵がすごい顔で東堂を睨みつけているのを見て私は内心笑ってしまった。バチバチだ。まあムカつくよね、いくら先輩とはいえそんなことみんなの前で言われたら。
「先入観で火傷したらダサいけど大丈夫そ?」
「ほざけよ名字」
「だから名字で呼ばないで。いい加減ムカついてきたし一発殴っていい?」
「はいそこまでー!」
東堂が他の学生を押し退けて一歩前に出る。
私も肩を回しながら東堂の元へ進んだ。
悟くんは面白そうにニヤニヤしていた。でもさすがに交流会前にマズいと思ったのか歌姫先生が仲裁に入ってくる。
「良いとこだったのに…」
歌姫先生を見てぼそっと呟くと、張り詰めていた空気が少し緩んだ気がする。
東堂も同じことを思っているのか、黙っていた。
「名前、アンタは出場もしないのに出張りすぎ」
「えーだって東堂が昨日からずっとずっとずーっと私に喧嘩吹っかけてくるから東堂が悪いです」
のらりくらりしてる私だけど、頑張って修行してる可愛い後輩達をここまで馬鹿にされると気分悪い。
「えーじゃない!可愛く言ってもダメ!」
「でも歌姫先生、私より弱いじゃん」
「名前!今それ関係ないでしょ!!」
私が歌姫先生をニヤニヤして揶揄うと、背後で悟くんがお腹を抱えて爆笑していた。
「はははは!!!!歌姫言われてるよ!超ウケる!」
「五条後で絶対シメる!!!」
画して交流戦、始まりそうです。
『開始1分前でーす。ここで歌姫先生から有難いお言葉を…』
校内の指定された区域内は案外広い。ここで始まる団体戦は呪霊討伐猛レースだ。去年とルールは同じで、2級呪霊を先に祓ったチームが勝ち。日没まで決着がつかない場合、他に放たれた3級以下の呪霊を合わせて多く討伐したチームの勝ち。
それ以外ルールはなし。
「とは言ってもなぁー」
団体戦が始まってそこそこ時間は経ったかな。
私、特にやることないんだよね。出来ることって限られてるし。
冥さんの鴉で視覚共有してモニタールームは状況を把握できるみたいだけど、正直現場出てると何もわかりませんよ。何かあれば電話すると言われてるのでとりあえずスマホは持ってるけど。
私がいるって気付いた瞬間、東堂とか賀茂くん殴ってきそうだし静かにしとこー。
てかさっきの恵、東堂にめちゃくちゃキレてて面白かったなぁ。イライラが頂点に達した時ってあんな顔するんだ。昔もあんな感じでブチギレてた時あったけど、凄みが増してて良かったなぁ。2年のロングヘアの女の子とかビビって震えてたじゃん。面白すぎ。
「ん?」
私は校内の裏手に広がる雑木林の切り株に座り込んでいた。
今なんか呪霊の気配がしたような、しなかったような…。
「…」
気のせい、というのは勘の鈍い人間にはあるけど、私にはない自負がある。
「…何かいる」
何か…妙な気配を感じる。
多分みんなが交流会でぶつかり合ってるのは私のいる反対側だと思う。
私がいるのは蔵の近くだ。と言っても高専には蔵がめっちゃいっぱいあるのでなんの蔵かとかは全然知らないんだけど。
「……」
感じたことのない呪力。
本当に微かにだけど、目を凝らして見ていると本当に僅かな残穢が感じ取れた。
…これ、団体戦の指定区域内の端も端だし、スタート地点からかなり離れてるから流石にこんなところに討伐用の呪霊配備しないよね。
悟くんに連絡すべきか?
いや、別に私が倒せる相手なら私が倒して後で報告でいい。
問題は蔵の近くにその気配があるということ。本当に妙だ。
追うか。そう思った時だった。
「は…?」
背後で大規模な爆発…いや呪霊の気配がして振り返る。2級どころじゃない。…これ特級案件だろ。
その瞬間、帳が降りるのを確認。…これは誰が何の目的で下ろした帳?
その3秒後、私のスマホに悟くんから着信が入る。即座に出るといつもの悟くんの声だった。
『お前今どこいる?』
「スタート地点と一番反対の蔵の前」
『いいね、じゃあ名前が一番近いな。援護回ってくれる?特級呪霊の発生地点に恵と棘達がいる、死なないように助けてやって』
「悟くんは?」
悟くんの指示に従い、呪霊の呪力を辿り全速力で走る。
『帳見えた?お前もギリ帳の中だよね』
「うん」
『これ、僕だけを弾いて他の誰でも出入りできるようにする結界なんだよ。だから僕は現状入れないし、壊すのに時間かかる』
そんなこと可能なの?よほど腕の立つ呪詛師じゃないとそんな結界の運用って無理じゃ…。
まあいい、とりあえず今はそいつ祓うのと他の1〜3年が死なないように救出するのが先決ってことか。
「どれくらいかかりそう?」
『目標5分、無理なら10分以内に必ず突破する』
「10分もあったら私と東堂で祓っちゃうよ?」
『…頼もしいな』
そこで電話が切れて私はスマホをポケットにしまった。
これは私と悟くんが懸念してたこととはかなり違う展開になったな。
てか遠くない?私にどんだけ走らせるの?
恵と狗巻くん大丈夫ー?!
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