「西宮乗ーせて!」
「ギャアアアア!重い!!!って名前?!何でいるの?!!勝手に乗んないでよ!!」
「飛ぶのは西宮の専売特許でしょ。走るの飽きたのでよろしく」
「カワイくない!!超ムカつく!!!」
「いや私は可愛いよ」
「うるさい!黙って!」

私が全力で走っていると、騒ぎを聞きつけたのか京都校の魔女っ子西宮が箒で飛んでいたので、私の呪具の鎖を投げて絡ませるとぶら下がって勝手に乗った。
嫌がってるけど無視。箒折れたら後で謝ろう。今それどころじゃない。

「西宮って何か先生達から指示とか受けてる?」
「私は何も…」
「じゃあ倒れてる他の学生乗せてすぐ帳の外に逃げて。悟くん以外なら誰でも自由に出入りできる結界だから。…あ、そこに狗巻くんいるじゃん。ちょうど良いから西宮が運べば?」

数秒飛んでいると、下方に呪霊と恵、真希、倒れている狗巻くんが見えた。生きてる?狗巻くん生きてる?!

「いちいち命令しないでよ。私アンタのパシリじゃないから!」
「ここでいいわ。運んでくれてありがと。じゃーねー」
「人の話聞きなさいよ!!」

飛んだままの西宮の箒から鎖を切り離して降りる。うお、高い。上空15メートルくらいある?
しかし私は五条悟に鍛え抜かれ漫画の知識を実戦に生かす女、多少の高さなど大した問題ではないのです。
刃牙よろしく五点着地を決めてその足で校舎の屋根から落ちそうになっている狗巻くんを鎖で縛り付け、西宮の方へ思い切り投げた。

「だから重いって!」と叫ぶ西宮を無視して私も構える。呪具の鎖を取り出すと、即座に特級呪霊の首らしき場所に抱きついて鎖を背後から巻きつけて縛った。

「つーかまえた」
『!』
「名前さん!」
「名前!」
「ここ弱そー。触って良い?ねえこれ壊したらどうなるのかな?」

呪霊の顔についている木の枝の様な部分に触ろうとすると、ボコボコと地面から木の枝を丸めた鞠の様なものが刺を携えて顔と手に向かって飛んできた。呪霊の肩に踵を引っ掛けて逆さまになって避けると、その勢いでぐい、と鎖で強く縛る。

「やっぱここ弱いんだ♡大丈夫、優しくするね」

ま、嘘だけど。

『何を…』
「お、喋った」

そのまま全体重を乗せて思い切り引っ張って地面に着地しようとすると呪霊の足が屋根にぐぐぐっとめり込む。
うーんダメだな。私のこの呪具、せいぜい1級レベルだからこの呪霊と馬鹿正直に力比べしたら壊れる。まあ良いか。壊すか、寧ろ。

「恵ー!真希ー!私が来たからもう大丈夫だよー!あーこのセリフ一回言ってみたかったんだよねぇ、もしかして私かっこいい?」
「いや言ってる場合か!」

真希の鋭いツッコミを受けてそのまま呪霊の身体を縛る鎖を強くもう一度引っ張る。みし、と嫌な音が呪霊の首からした。少しだけ首が曲がった。…あんまり効いてなさそうだけど。
そこで真希が三節棍を取り出したのを確認。

『素晴らしいパワー…しかし力比べに耐えられる代物ではない』
「え?めっちゃ流暢に喋るね?私より日本語上手くない?名前とかある?聞いていい?」
『ここにいる術師の中で貴女が一番強い、だから貴女が嫌がることをします』

呪霊の言葉が頭に流れ込んでくる。ふーん、そういうのもあるんだ?特級クラスになると未知数だな、面白いなぁ。なんか楽しくなってきた。

「私ごとやっていーよ、真希」
「言われなくても!」

真希の特級呪具、游雲が身動きの取れない呪霊に直撃する瞬間、呪霊から離れて小さめの瓦礫を取ってポケットに入れてから屋根に降りる。
良いね、今のは流石に効いたんじゃない?でもこれで祓い切るのは無理だな。抱きついた感じ結構硬そうだった。
目の位置についてる小ちゃい樹は弱そうだし触られるのもすごく嫌がってたから、あそこバキバキに折ればなんかイケそうな気もする。

「悪ィ!お前の呪具壊した! !」
「全然OK、でも後でスタバのドリチケ2000円分私に送っといて、絶対にだからね」

恵は?いないな。隠れたか。
まあ普通の式神使いはそれでいい。

新たに武器を構築してくるくる回しながら呪霊が落下した森へ。川が流れている。
腕時計で時間を確認する。
向かってくる呪霊の攻撃を潰しながら真希と恵の動きを見る。

悟くんが結界を破壊してここまで来るのに早くてあと3分、もっとかかるなら7分。
東堂がここに来るのに2分かかるかかからないかくらい?
真希と恵はまあ健闘してるけど、京都校との戦闘と特級のパワーに押されて消耗気味。恵もあと何体式神出せるか…ちょっと微妙。この二人は東堂が来る前に撤退させるべき。
後はパンダと虎杖くん、釘崎ちゃんか。でもその三人に期待するのはねぇ。

東堂来るまで私一人で時間稼ぐか?
いっそ領域展開しちゃうか?
でも後輩達を私の領域入れたくないし、領域も見せたくないしなぁ。
うーんどうするか。
ここまでの思考、約3秒。

木の根を身体中から伸ばしながら攻撃してくる呪霊。一本ずつ破壊するがキリがない。

呪霊は私ではなく真希と恵に攻撃を仕掛けまくっている。私が嫌がることってそういうこと?卑怯だぞ、弱い方狙うとか。

真希と恵が何か狙っているようなので、私はなるべく派手に呪霊の木の枝の球みたいな攻撃をボコりながら、新たに別の鎖を呪霊の体に蛇のように這わせる。気付かれないように。

ちょうどよく恵の玉犬が飛び出してきたので、私がそのまま呪霊の足に絡ませていた鎖を引っ張った。僅かな隙が生まれる。

『あの女…!』

その隙に真希が恵の黒刀で呪霊を刺す。じゃあ游雲は?
背後から迫った恵が游雲で呪霊の頸を殴りつけた。
うん、良いんじゃない?でもちょっと入り甘いかな。

「真希さん!」

即座に二人は武器を入れ替えて、呪霊を真っ向から斬った。様に見える。…いや、ダメだ、やっぱこの二人は撤退させよう。

「二度と三節棍をアドリブで使わせないでください!」
「慣れると便…」

「恵、式神解除して!」
「え…」

私の声を聞いた瞬間、恵が血を吐いた。パシャ、と玉犬が姿を消す。
恵の腹に、何か刺さっている。真希も隙をつかれて肩に攻撃を受け、呪霊の腕に絡め取られ拘束されている。
私は呪霊の足を縛っていた鎖を切ると、恵の足元に転がっていた黒刀を即座に取って真希を拘束する呪霊の腕に呪力を流しながら斬りかかった。

「硬っ!」

文字通りこのレベルの呪具では歯が立たない。
斬りかかったと同時に呪霊の腕に新たに鎖を巻きつける。

『楔…?』

その瞬間、足の鎖を断ち切られた。やるなぁ、さすが特級。
ちらりと背後の恵を確認すると、息も絶え絶えで膝をついている。…ちょっとまずいかも。

「私の鎖はね、楔がついてるものとついてないのがあるの。これはついてるやつね。楔を刺した対象を支配する術式だよ」
『…術式の開示による威力の強化』
「知ってるんだ。賢いね。まあそれを知ったところでだけど」
『…!』

さて、では楔はどこに刺さっているでしょうか?

楔の支配対象は呪霊や人間だけじゃない。"名前のあるもの"なら、無機物も支配できる。支配できるかどうかは私との格の差にもよるけど、無機物であればほぼ100で支配可能。

「倍速で戻れ、"游雲"」

私が刺したのは川底に落ちていた呪具、游雲。
私の命令に従い、その三節棍は私の命令通り特級呪霊を刺殺せん勢いで戻り、私の手元におさまった。

『ぐっ…』
「効いたぁ?」

もう一度呪霊の頸を直撃したソレは、確実に後頭部にダメージを与えた。
はー…てか東堂遅くない?やっぱり私が領域展開すべきか?
手元に来た游雲を回しながらうーんと少しだけ考えていると、恵が起き上がる音がして私は振り向かずに声だけかけた。

「恵はもう術式使わないで」
「名前さ…」
「その芽、呪力を使おうとすると呪力を食うんだと思う。逆に言えば使わなければ怖くない」
『察しが良いですね』

ええ…さっき結構強めに入ったんだけどなぁ。この呪霊タフ過ぎない?もう立ち上がってるし。真希のことは解放してくれないし。ダルすぎ。
やっぱ頭潰すか。それともあの目の部分にある弱そうな枝みたいなとこ引きちぎってみるか。

「察しは良いんだよ。ついでに一個聞きたい。もしかして君は陽動?」
『…』
「はー、図星か。じゃあ私のミスだ」

一瞬動揺した呪霊を見逃さない。游雲で殴りかかると、もう一度鎖を構築させる。呪霊が身構えた瞬間、ポケットに忍ばせていた瓦礫を呪霊の頭上に投げた。

パンと手を叩く音が少し遠くでして私は即座に鎖を切った。游雲を少し離れた川底に投げ捨てて、立てなくなっている恵の腕を肩に回して支える。

『なに…?』

もう遅い。
…東堂が来た。

「俺待ちか?」
「まさか」

ドカッと派手な音を立てて"私が投げた瓦礫と入れ替わった"東堂、そして虎杖くんが呪霊の上に現れ、真希を縛る呪霊の腕を引きちぎったのだった。

「遅すぎてイライラした。私がぶち殺すとこだった」
「その割には手こずっていたようだが?さっさと領域展開しないからだ」
「恵と真希を私の領域に巻き込みたくなかったの」
「…だから言っただろう、"お前が交流会に出るべきだった"」
「でも私が虎杖くんの代わりに出てたら、つまんなかったでしょ?」

真希の身体を東堂が引っ張り起こして背後から来ていたパンダに投げる。東堂が私を見て少し笑った。

「…その意見、否定はしない」

それはさておき私が感心しているのは虎杖くんの方。午前中顔を合わせた時と全然違う。何ていうか、覇気?オーラ?まるで別人だ。
東堂に何かされたな?

「パンダ良いところに。真希と恵を連れて帳の外へ出てくれる?」
「了解。名前はどうする?」
「どうしようかな。東堂?」

私が東堂に問いかけると、東堂は腕を組んで頷いた。

「虎杖にやらせる」
「なっ…!そいつは俺達でどうこうできる相手じゃ…」
「伏黒」
「!」
「大丈夫」

恵も虎杖くんの変化に気付いたようだった。

「気付いたようだな。羽化を始めた者に何人も触れることは許されない。虎杖は今そういう状態だ」
「…っ次死んだら殺す!」
「そんじゃ、死ぬわけに行かねーな」
「それと名字、お前も戻れ。ここからは俺と虎杖(マイベストフレンド)の2人でやりたい」
「私邪魔ってこと?」
「そうだ、邪魔だ」

はっきり言うなぁ。まあ東堂と私が協力して何かするって難しいし良いけど。

時計をチラリと見ると時間はそんなに気にしなくても良さそう。悟くんから電話があってから4分11秒経過。まだ帳は破壊されていない。となると6分以内に来るはず。まあ東堂いればなんとかなるか。

「じゃあ我々はお暇しまーす!」

私がそう言うとパンダが恵と真希を連れて走り出したので、私も一緒に走る。

「流石の立ち回りだな」
「先輩だよ、もっと崇めな」

パンダの言葉にそう返すと、あの、と恵が私を見た。

「傷口開くからあんまり喋らない方がいいよ」
「……俺、強くなります」

恵の言葉にパンダが黙った。真希は気を失ったのか目を閉じている。

「うん、頑張れ」



top