「恵ー?大丈夫?入るよ」
「あ、はい」

結局のところ団体戦で現れた帳は五条先生により破壊され、五条先生の茈によって会場がめちゃくちゃになり、特級呪霊が祓われた(かどうかは不明だが姿を消した)ことで事なきを得た。

「「名前さん!」」
「虎杖くん、釘崎ちゃん。二人とも元気そうだね」
「おっす!」
「大したことないです!」

俺はその特級呪霊に植え付けられた種のようなものを家入さんに取り除いてもらい、どうにか落ち着いたところだ。

部屋に戻った俺を出迎えたのは何故か虎杖と釘崎で、消化に悪いピザを買っておいたらしく二人は当たり前のように食い出した。

「わー…恵に友達がいる…!お見舞いに誰も来てなかったらどうしようかと思ってたからさ。よかったね恵!」
「…マジで俺のことなんだと思ってるんですか?」
「いや冗談じゃん。血吐いてたから流石に心配したんだよ?大丈夫そうだね」
「どうにか」

怪我で傷だらけの俺とは違い、名前さんは特に大きな怪我もなく、普段通りといった感じだ。さすが1級呪術師…。

「虎杖くんは大活躍だったらしいね。東堂が喜んでたよ」
「いやまあ…でも名前サンその話は勘弁…!」
「そういう名前さんこそ大活躍だったんですよね。名前さんに感謝しなさいよ伏黒」
「お前も真依さんにやられてぶっ倒れてただろうが」
「うるさい!思い出したら腹立ってきた!」

釘崎の言う通り、俺と真希さんでは正直危なかった。…ハッキリ言って俺も真希さんもあの現場では足手纏いだった。

「まあまあ、三人とも無事だったし今は一先ずいいんじゃない?」

俺のベッドにごく自然に腰掛けると、ん、と何か渡された。

「抗生剤。傷口治すのに飲めって」
「家入さんですか?」
「そうだよー。…あ、そう言えば五条先生が君達を呼んでたよ。交流会の個人戦のことで話があるみたい」
「まじ?」
「行くわよ伏黒」
「恵は私からちょっと大事な話あるから二人は先に行ってて」

俺も立ちあがろうとした瞬間、ぽんと名前さんに肩を叩かれた。

「…大事な話?」
「すぐ終わる」

虎杖と釘崎は「了解っすー」と何故かニヤニヤしながら部屋を出て行った。
二人の足音が完全に消えたのを確認して、名前さんは話し始める。

「…虎杖くんのことなんだけど」

名前さんは髪の毛の毛先を弄りながら何か考えるように喋る。
この人は普段ふざけているが、こういう心ここに在らずといった様子の時はものすごい勢いで何かを考えている時、だと思っている。少なくとも俺は。

「彼を取り巻く環境、結構厳しいね。敵も高専も」
「…はい」
「私の落ち度でもあるんだけど、呪物がいくつか盗まれてる」
「名前さんの落ち度?」
「陽動に釣られた。本当は私がいた蔵のそばに呪物の保管庫があって、敵はそれを狙ってたみたい。別の呪霊が恐らく特級呪霊を陽動にしてその蔵の呪物をごっそり持ってった」
「…それ、極秘事項なんじゃないんですか。何で俺に話すんです?」
「その呪物が両面宿儺の指だからだよ」

俺は目を見開いた。

「…じゃあやっぱり今回のは虎杖絡みですか」
「多分ね。…恵だけには話しておく。虎杖くんと行動を共にすることが多いでしょ」
「それはまあ…」
「ねえ、どうして恵は仙台で虎杖くんを助けたいと思ったの?」
「…」

少し責めるような名前さんの言葉に俺は黙った。

「ごめん、意地悪な聞き方だった。恵を責める気はないよ。でも人が死んでるからちょっとピリピリしちゃって」
「いえ。俺が虎杖を生かして欲しいと思ったのは…」
「善人だから?」

わかってるのに聞いてくるって、やっぱりわざとじゃないんですか。

「…うん、いいよ。それで良いと思う」
「名前さんは、虎杖のことどう思ってますか」
「どうって?男としてアリかナシか的な?ぶっちゃけアリよりのナシかな、本当申し訳ないけど」
「今ふざけないでください」

俺がそう言うと名前さんはふは、と笑った。笑うところかよ。そういうところが五条先生に似てるって言われてんのに。

「彼はとてもバカで良い子だと思うよ」
「…同感です」
「だから、もう少し強くならなきゃね、恵も。まあ私も、なんだけど」

髪を耳にかけながら名前さんは目を伏せてそう言った。

「…はい」

わかってる。今回の団体戦とその騒動でまざまざと見せつけられた。実力の差ってやつを。
東堂は気に入らないがやはり強いし、名前さんも俺と真希さんが何とか一瞬相手した特級呪霊とほぼ互角に一人で戦っていた。
俺達があの呪霊にやられたせいで名前さんは全力を出せなかった、というのが事実だ。

「…私は強い男がタイプなんだけど」

名前さんは手を伸ばすと俺の頬を手の甲で撫でた。嬉しいような情けないような複雑な気持ちで名前さんを見ると、今まで見た中で一番優しい顔で笑っていて面食らう。

「恵は今も十分強いから、きっともっと強くなれると思うよ」
「…名前さん、俺…」

思わずその手を取ろうとした瞬間、名前さんはぱっと立ち上がった。手が離れる。
ぱんと手を叩いて名前さんはいつもの笑顔に戻る。

「ハイ、この話終わり!じゃあ恵も行った行った!」











「恵、大好きな名前に励まされて元気出た?」
「…は?」
「ガラ悪ッ!」

五条先生の言葉に俺が露骨に不快感を表すと、五条先生は笑いながら「そんなに怒るなよ」と肩を叩いてきた。
珍しく目隠しではなくサングラスの五条先生に、京都校の三輪さんがときめいているのが遠目でもわかる。

「悠仁と野薔薇から聞いた〜♪いい感じらしいじゃん」
「…そういうのじゃないです」

クソ、あいつら…。

「で?名前とチューしたの?」
「してません」

キレ気味にそう言うと何だつまんなーいと五条先生はどっかに行った。すげームカつく。
大体お互いのチームで6人しかいないのに野球させるんじゃねーよ、あの人本当に適当だな。

「伏黒、勝つわよ」

配られたユニフォームを着込んで、グラウンドでバットを握った瞬間、釘崎がすごい形相で近付いて話しかけてきてゾッとした。
目が座っている。

「気合い入ってんな」
「当然。やるからには勝たなくちゃ。出塁して絶対あの魔女っ子と真希さんの妹にボールぶち当てるわ」
「そういう競技じゃないだろ」

この様子だとその二人と昨日何かあったな…多分。
釘崎がふん!ふん!とバットを振る様子を見て俺は噂の西宮さんに目を移した。箒で早速飛んでいる。

交流会が始まってからというもの、「名前って本当カワイくない!」とよくあの人が言っているのを耳にする。何を持って"可愛い"なのかは知らないが、聞いていて気分の良いものではない。…団体戦に託けて一発目で鵺でいきなり攻撃した俺も、釘崎と似たようなもんか。
五条先生は「名前のスタイルとおっぱいが桃は羨ましいんじゃない?」とか言ってたが多分違うと思う。

釘崎はそんな西宮さんを見ながらまだ素振りしていた。

「…お前、野球のルールわかってんのか」
「ド田舎出身バカにしないで。田舎の土日の娯楽は野球中継と競馬番組しかないのよ」

怖…くはないが、もうこいつに触れない方が良い気がする。関係ないけどバット似合うな。



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