"女子会をしましょう"
それは私にとって非常に魅惑的なお誘いだった。
高専に通い始めて三年目、上にも下にも同期にもいまいち気の合う女性に恵まれなかった私には無縁の会合。それが女子会。
「釘崎ちゃん!お菓子いっぱい買ってきたよ!」
「名前さんナイス!」
私が意気揚々と釘崎ちゃんのお部屋にお邪魔すると、既に真希が部屋着でそこに寝そべってスルメイカを齧っていた。おっさんか?
「ここ女子会の会場ですよね?」
「…私が男に見えるか?」
「いだだだだだ」
真希をみて私がそう言うと思い切りほっぺをつねられて悶える。
釘崎ちゃんは私が買ってきたお菓子を手早くお皿に移して飲み物などもローテーブルに用意してくれた。
「真希と女子会ってほぼ毎回ゴリラ会になっちゃうから…」
「誰がゴリラだブチ殺すぞ。格闘センス抜群の超人と言え」
「格闘センス抜群ゴリラ!」
「やんのか?」
「やりませんやりませんやめてよぉぉ!いだだだ!」
真希に素早く蠍固めをされて私はギブギブ!と叫んだ。
「…何やってんですか?二人とも」
「仕置き」
「じゃれてるだけ♡」
釘崎ちゃんの冷めた視線をたっぷり浴びて私は起き上がった。
真希も私を起き上がらせて座ってまたスルメイカを食べ始める。臭。女子会だよねこれ?女子会っていい匂いがするもんなんじゃないの?
釘崎ちゃんの渡してくれたコップを受け取りながら一枚ポテチを食べる。
「私女子会って憧れだったんだよねー!嬉しいよ呼んでもらえて!嬉しい嬉しい嬉しい〜!みんなで元彼の話しよ!」
「何で元彼縛りなんだよ」
「だって元彼って面白エピソードの宝庫やん!」
「…否定は出来ねーな」
「真希彼氏いたことないでしょ?」
「うるせー」
ゴンとまた真希に拳骨を食らいそうになり、私はすんでのところで避けた。
死ぬかと思った!
「女子会ですよね?暴れないでください、それとココ一応私の部屋!」
釘崎ちゃんに叱られて私はしゅんとなって正座した。
「すみません…じゃあえーと……釘崎ちゃん好きな人いる?」
「いません」
「だよね。真希は…いないよね」
「勝手に決めんな。いないけど」
シーン…。
「何で誰も私に聞かないの?」
「聞かないっていうか…」
「…見てたらわかるっていうか…」
「え?」
ニヤニヤする釘崎ちゃんと真希ちゃん。
あ、これは恐らく…
「伏黒と付き合ってますよね?」
やっぱりみんなもう気付いてるよなぁ、と私は微笑むことしかできなかった。
恵とは確かに付き合い始めたものの、彼の強い希望で「人前でベタベタしたくない」(と言う割に二人の時めちゃくちゃベタベタしてくるしやや欲求不満気味の恵が可愛い)というのがあり、私もそれを尊重しているつもり。
でもこの前のアル中事件や普段のやり取りでもう広く知られるようになっている気がする。
「だよねー」
まあ別に隠しているわけでもないので、私はいいんだけど。いずれわかることだし。
でも誰が気付いてるかとかは知らなかった。
「お前と恵見てたらすぐわかんじゃん」
「本当に?」
「名前さんはいつも通りだけど、名前さんといる時の伏黒の様子がちょっと面白いというか」
「面白い?」
「なんて言うか…明らかに優しいんですよ、声とか態度が。あと距離が前よりも近い」
そうかな?
「虎杖でも気付くレベルなんで」
「えっ、虎杖くんも知ってんの?」
「知ってるっていうかアイツは伏黒に直接聞いたんじゃないですか?ストレートに聞かれると伏黒も誤魔化せないし」
まあ男同士だもんね。
最近任務も落ち着いてきてるし、他の面々がいる学校や道場で恵とは顔も合わせることも多いけど、私はそんなに意識せず話しているつもりだ。
「そうなんだ。ふふ、可愛いね恵」
「うわ、惚気だ」
「ちが、そういう意味じゃなくて」
私が否定すると釘崎ちゃんはやや不服そうだった。
「伏黒のどういうところがいいんですか?」
「…どうって…まあそういうところかな」
「だからどういうところだよ」
「やだぁ真希のえっち!」
「は?私は何も言ってねーけど。それはそれとして、お前直哉のことどうすんの?」
「…ナオヤ?」
誰?
覚えのない名前の登場に私が首を傾げると、真希は「マジかよ」と呆れた様子だった。
「お前の許婚だよ。禪院直哉。私の従兄」
「……誰それ?」
「実家から何も聞いてねーの?」
「…いやもう3年くらい連絡取ってないから」
「相当折り合い悪いんですね」
釘崎ちゃんの言葉に頷いた。
そう、とても折り合いが悪い。この話をするのも嫌なくらい、実家に帰りたくないの、私は。
「去年の年末、京都に戻った日があったろ?」
「…あ、あったかも。戻ったっていうか、京都の偉い人をボコった金ちゃんを迎えに行った時かな?」
「それ。その時お前会ってるんだよ、直哉に」
「……」
いや知らん知らん知らん。そんなの今初めて聞くし!会ってたから許婚になるとかいうのも意味わからんし!
「お前を一目見て気に入ったらしいぜ。真依が言ってた」
「……一目見て?」
「ビジュアルが好みだったんだろ。あいつ乳デカい女好きだし」
いやそれこそ知らんけど。
てか何も聞いてないんだけど!さてはうちの親が勝手に話進めたな?!
乳デカい女、という真希のフレーズに露骨に釘崎ちゃんが嫌そうな顔をする。嫌だよねーわかるー…。
「認めたくねーけど、順当に行けば直哉は次期禪院家の当主になる。まあ順当にいくかは置いといて、そういう男だ」
「…ぜ、禪院家当主!?」
釘崎ちゃんが目を丸くした。
だとしたら間違いなくその直哉という人の希望に乗っかってうちの親が結婚にまで話を進めたに違いない、多分そう、いや絶対そう!!!
「…じゃあ将来安泰…ってわけでも無さそうですね。真希さんの話を聞くと禪院家って」
この前の交流会で学生にも広く知られるようになったけど、禪院家は確か相伝の術式を引き継いでいない者は術師であってもかなり厳しい待遇を受ける。
その中でも女性はスタートラインにすら立たせてもらえない、というのは有名だ。
それの最たる例が真希と真依ちゃん。
「あの家に入った瞬間、女が適切な待遇を受けることはない。相伝の術式を持つ子を産まなければ、人としても扱われない」
「……どんなに、名前さんが優秀な術師でもですか?」
「妻ってのは他所から呼んでるだろ。血の繋がりがない妻はどこまでいっても外様だ。禪院に嫁ぐってことは、地獄に嫁ぐってことなんだよ」
「…最悪」
釘崎ちゃんがあ、しまったと言うように口を押さえた。本当のことだからいいよ、と真希が首を振る。
「でも名前さんって確か五条先生の親戚ですよね?五条家と禪院家って仲悪いんじゃ…」
確かに仲悪い。
表面上はめちゃくちゃ仲悪い。それは過去の因縁と、現在の悟くんの振る舞いによるものが多いけど。
でも禪院家の中でも五条家との関係修復を望んでいる者は少なくない、という話はちらほら聞く。
「関係修復の足掛かりにもちょうど良いってことなんじゃない?いきなり悟くんに近い本家の人間は難しいけど、分家の私ならまあ"やりやすい"ってことじゃないかな」
「そんな…。それって五条先生は知ってるんですか?今の名前さんの保護者って五条先生でしょ?」
「知ってたらこんな状況にならねーだろ。名前が知らないってことは悟も多分聞かされてない。私が今聞いといて良かった」
真希の言葉に私も頷いた。
女子会のつもりが家騒動にまで発展する大きな問題を可視化する会合になってしまった。
私の親は悟くんと表面上は仲が良いが、本質的な考え方が違うからけして相容れない。そもそも保守的な考え方は御三家に共通しているし、悟くんに誰も逆らえないから五条家は今こんな感じになっているだけ。
「ってことは伏黒もこのこと知らないですよね?」
「もちろん」
「…二人にお願いがあるんだけど、このことは誰にも黙っていてくれない?」
「良いけど、どうするつもりだ」
「悟くんに話して、一度実家に帰ろうと思う。その禪院直哉って人と話をつけるよ」
「…難しいと思うぜ」
真希は伸びをして顎に手を当てた。
「直哉はクズだ。欲しいと思ったらあの手この手を使って手に入れようとするし、女は勿論自分以外の人間を下に見てる。自尊心と権威思考の高さは一級品だよ」
「…最悪な男に見初められたんですね」
ふむ、と私は真希の言葉を聞きながらイメージする。
@欲しいと思ったらあの手この手を使う
A自分以外の人間を下に見てる
B自尊心と権威思考の高さが一級品
「うん、厄介だね」
「厄介だ」
「でも、私の得意ジャンルの人かも」
← top