「…何か頭痛い」
「マジ?名前さん大丈夫?」

任務帰り、補助監督の運転で帰る途中、うーんと頭を押さえながら車内でそう呟くと、虎杖くんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

今日は虎杖くんと二人で任務だった。まあ低級呪霊だったので普通に虎杖くんがパワーでボコってすぐ終わったんだけど。

交流会以来、彼は私を友達か何かだと思っているのかタメ口で話しかけてくるのだが、何故か許せてしまうので特に注意はしてない。東堂にもタメ口だし、まあ私もその枠に括られているんだろう。
…え?でも東堂と一緒の扱いは嫌なんだけど。

「まあそんなに酷くはないけど…」

嘘です。
後輩の前だから結構強がってるけどまあまあ頭痛い。熱かな。どうしよう。
今朝からなんか身体だるいなぁとは思ってたけど…。

「虎杖くん、悪いんだけど報告書自分で書ける?…てか字書ける?」
「名前さん俺のことすごいバカだと思ってる!?書けるよそんくらいは!」
「本当ー?じゃお願いするね、ちょっと私先戻るわ」
「おう!お大事に!」
「なんかわかんないことあったら…あー…五条先生…は今日いないか…。…恵に聞きなー」
「はーい」

まあ寝たら治るでしょ。
今日はこの後何もないし…。寝よう。
はー…それにしてもフラフラする。
頭痛い。こんなに体調悪いの久しぶりかも。

どうにか寮の自室まで来ると、私はそのままばたんとベッドに倒れ込んだ。










「…あ、起きた」

…ん?
あれ?私何してたんだっけ。あ、そうだ今日任務があって確か虎杖くんと帰ってきて、虎杖くんが字を書けることがわかって、頭が痛くてそれで……。とぼんやり考えていると、ベッドサイドにいる誰かと目が合った。誰かっていうか、

「めぐみ…」
「酷い熱ですよ。大丈夫ですか?」
「…なん……で」
「虎杖から報告書の書き方がわからないって俺に連絡があって、よくよく話してたら名前さんの体調が悪そうだったと聞いて、様子を見にきたらアンタがパンツ丸出しでぶっ倒れてました」

パンツ丸出しで……良かった、見にきてくれたのが恵で…と思いながら「ありがとう…」と言うと、恵は「別に」と言いながら私の額に手を当てた。
冷たくて気持ち良い。

「…まだ熱が下がらないですね。一応家入さんにも来てもらって薬貰ってますが、覚えてます?」
「……いいえ…」
「だろうな」
「硝子ちゃんは何て?」

恵は私の本棚から選んだ本を読んでいたらしい。本っていうか漫画だけど。私の部屋の本って漫画と卒論用の参考書しかないから。
私のお気に入りの漫画の5巻をそっとローテーブルに置くと、恵はスポーツドリンクと空のコップ、硝子ちゃんから貰ったであろう薬、そして体温計を取り出した。

「疲労と風邪だろうって。ウイルス性じゃないから2日くらい安静にしとけば落ち着くって言ってました」

確かに、最近毎日毎日任務で不規則な生活だったし、悟くんなみに働かされてるからしっかりと休息も取れてなかったかも。
ちゃんと休まなきゃダメだな…なんて思っていると、恵がスポーツドリンクをコップに注いで渡してくれたので、ありがたく何口か飲む。口がすっきりした。

「…これ何?」
「解熱剤と抗生物質。熱と頭痛が酷くなければ解熱剤は飲まなくて良いそうです」
「…熱測るか」

恵から体温計を受け取る。ん?そういえば何で私パジャマ着てるんだろ。

「…」
「制服のまま倒れてたんで着替えさせました」
「…ありがとう」

私の違和感に気づいた恵がそう言うので謎は解けた。
というか見つけてくれたのが恵で本当に良かったー!と内心泣きながら手を合わせる。
汗で少し気持ち悪いが、今はそんなことどうでも良い。ボタンを外して胸元を少し寛げて脇に体温計を差し込む。
その瞬間恵が顔を逸らしたので、可愛い奴ーと思ったけどそれ以上私も何も言わなかった。

「…38.6度」
「まだ結構熱ありますね。頭痛は?」
「…さっきよりはマシ。抗生物質だけ飲もうかな…」
「何か食えそうですか?ゼリー買ってきたんですけど。家入さんが空腹で薬飲むなって言ってましたよ」
「…恵が買ってきてくれたの?」
「…まあ、一応」

な、な、何だこの至れり尽くせりな状況!
恵、まさか私がパンツ丸出しでぶっ倒れてるのを見て心配していろいろ買ってきてくれたってこと?!
てか今何時?!一体いつから?
ずっと看病してくれてたってことだよね。う、嬉しいけど申し訳ない…。

「…ありがとう」
「なんで半泣きなんですか?」
「…恵が優し過ぎるから…愛が目から溢れちゃって…」
「……」

白けた目でこっちを見る恵。
何で?もっと二人の時いつも甘々なのに!

そんな恵だけど、冷蔵庫で冷やしてくれていたゼリーを取り出して開けると、スプーンであーんで食べさせてくれる。…うう…優しい…好き…。スパダリ過ぎるよ…。
どうにか3口ほど食べたところで、糖分の摂取により私はやっと頭が働いてきたのかはっとした。

「ああっ!でもいけない、あとは大丈夫だから恵は部屋に戻って」
「は?何で?」
「だって恵に移したら悪いし…」
「今更でしょ。…それにまだ大丈夫そうには見えませんよ」

恵はそう言うと、はだけたままの胸元のボタンを閉めてくれた。あ、閉め忘れてた。
また私の額に手を当て、そのままするすると恵の大きな手が私の頬を撫でる。くすぐったいけど、やっぱり気持ち良い。

「…でも…」
「…じゃあもう貰っとくんで、俺が倒れたら次は名前さんが俺を看病してください。口開けて」
「それってどういう…」

意味、と聞く前に恵が薬とスポーツドリンクを口に含んだ。いや、ちょっと待って、

「…ん」
「えっ?」

恵に頭を掴まれて思わず声を上げた瞬間、ぬるりと恵の舌が口内に入ってくる。うそ、と抵抗する前に口移しで薬とスポーツドリンクが入ってきて、ごく、と私は飲み干した。
その後も恵の舌が絡みついてきて、熱でぼんやりする頭で受け入れていると、やっと離れる。
何。今何が起こった?

「ちょっと、恵…」
「アンタが悪い」

私何もしてないけど…恵が勝手に暴走したんじゃん…。

「俺、今かなり我慢してるんで。これ以上イライラさせないでください」

…我慢?イライラ?

「恵…もしかして私とえっちしたくなっちゃったの?」
「はっきり言うなよ」

恵はそう言うと私に背を向けてベッドに背をもたれさせながら座った。
どこに恵をムラムラさせる要素があったのか全然わからないけど、私のために我慢しているらしい。なんと健気な…。

「ごめんね、風邪治ったらしようね」
「……」

我ながらアホみたいなセリフだなと思ったけど、恵は黙っていた。黙って背中を向けたまま手を伸ばしてきて、私の手をきゅっと握った。

「…じゃあ早く治してください」
「は、はい…」




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