「……9時」
猫の呪いが何故か解けて、興奮した恵に抱かれた後、一度だけでは終われず抱き潰された私は今やっとまた恵の腕の中で目を覚ました。恵はまだ眠っていて、壁掛け時計を目だけで見て時間を確認する。
普段ツンツンしてすごくドライな恵にあんなに激しく求められるなんて信じられなくて、嬉しさと気恥ずかしさでまだ体が熱い。
『せっかく猫になったんだから猫らしくやりましょう』
『猫は交尾の時ゴムつけないだろ』
あ。
『自分から腰振って、やらしいですね』
『元に戻ったら…っこうやって抱かれるかもって期待してたんですか?』
ああああ!!
さっきのえっちを思い出してまた顔が熱くなる。
恵があんなこと言うなんて、今考えても信じられない!!そしてゴリゴリに私の性癖どストライクすぎて怖い!
なんて恐ろしい子、伏黒恵…!
「何百面相してんだ」
「うわっ!」
「おはようございます」
「………お、はよう」
恵はいつから起きていたのか、私がおたおたしているのを見て呆れたような顔をしていた。これではどっちが年上かわからない。
「身体、大丈夫ですか」
「…大丈夫です」
「何で敬語?」
「何となく…」
恵はそう言いながら全然私から離れない。起きようともしない。どうしよう、さすがに何か服着ないと…。
「あの、服、何か借りてもいい…?」
私がどうにか起き上がって恵を見下ろしながらそう言うと、彼はしばらく黙って(心なしか目を見開きながら)私を見た後「あー…」と言って目のやり場に困ったように顔を逸らした。
そう、何を隠そう…今私は現在進行形で全裸なのだ。
猫の呪いにかかった時点で服は脱げてしまったし、その肝心の服は悟くんが持って行ってしまった(多分私の部屋に置いてくれてる?)ので、今着る服がないわけで。
「…Tシャツとかでいいですか」
「な、何でも大丈夫、です」
だから何で私また敬語?
恵も起き上がると私をまたじっと見て何故か耳元の髪を掻き上げて耳にかけた。不思議に思って見上げると、恵が少しだけ笑ったように見えた。
そして上半身裸のままベッドから降りてクローゼットを開けると、恐らく普段彼が着ているであろうTシャツとスウェットパンツを出してきた。
「ありがとう」
「それ着たら、部屋に戻るんですか?」
「あ、うん。一旦戻ってシャワー浴びようかな…。事情を知ってる悟くんと硝子ちゃんにも戻ったよっていうのは知らせときたいし…」
「……」
「どうしたの?」
とりあえず上だけでも…と恵のTシャツを慌てて着た。私より大きな肩幅と着丈。下着は何も着てないけど、恵のTシャツのお陰でお尻までどうにか隠れた。これでそんなに恥ずかしくない。
そんな私を恵はやはり黙って見つめている。
何?さっきから見過ぎじゃない…?
「…他は?」
「へ?」
「他に何かやることあるんですか」
恵の問いの意味がわからず固まっていると、今日は土曜ですよ、と言われた。土曜。任務も授業もない。特に他に用事も無かった、はず。
「……えーと…ない…です」
だから何で敬語?
「じゃあ、俺と過ごしてください」
「あれ?もう戻っちゃったの?」
「………」
あの後、恵の服を借りてとりあえず自室に戻ると鍵が空いていた。室内に昨日悟くんが持ってきてくれたであろう制服やら貴重品やらが置いてあってホッとする。
シャワーを浴びて部屋着に着替えてとりあえず硝子ちゃんに連絡を入れると、呪いの後遺症が出るかもしれないから安静に、と言われた。
後遺症…そう言えば猫耳と尻尾が…と思ったが既にそれは消えていて、シャワーを浴びた時に確認済みだ。
というかその後遺症のせいで恵が興奮していたような…と考えてまたさっきのことを思い出してしまい、顔が熱くなる。
ずっと弟みたいな存在だった恵に、あんな風にまるで動物みたいに抱かれる日が来るなんて、なんというか、こう…あれじゃん。あれじゃん…。嬉し恥ずかし的な…。まあ別にえっちは何回もしてるけど、こういう特殊な状況下では初めてだった。ドキドキした。
なんて考えていると、コンコンとドアをノックされて、出るとまさかの悟くんだった。
「…お、お陰様で」
「…」
「…なに?」
悟くんはぐるりと私の部屋を見回した後、ベッドの一点を見つめた。
私もつられて視線を追うと、ベッドにさっき借りた恵の服が置きっぱなしだった。
「特に問題なさそうだね。さっき硝子から連絡あってさ、高専いるなら名前の様子見といてって言われたから」
「あ、そう」
私は髪をタオルで拭きながら目を泳がせた。なんか気まずい…。いやまあ悟くんのお陰で(?)あんな恵が見れたと思えば感謝なのか…?いやでも…と考えていると、悟くんは私の部屋に上がり込み、私の前まで来てじっと見つめた。
私の部屋に来る人は皆んな私の了承を得ずにずかずか入ってくるのは何でなんですか?私の人権は?
「悟くん…?」
「痛い所とか違和感とかない?」
「うん。今のところは」
そこで悟くんはぐいっと私の顎を掴んで上を向かせる。
え、何。
「恵としたの?」
「…えっ」
「ここ」
ローテーブルに置いていた私の手鏡を掴むと、悟くんは私の顎を掴んだまま左耳の下辺りを映して私に見せた。
「…あ…」
「コンシーラーか何かで隠さないと、今度はみんなの前で揶揄っちゃうよ」
自分でも顔が熱を持つのがわかる。
くっきりとしたキスマークが数個付いていて、恥ずかしくなって私は思わずそこを手で押さえた。
さっき恵が髪の毛耳にかけて見て嬉しそうにしてたのって、まさかこれ?何それえっちなんだけど!
「…気をつけます」
「うん、じゃ、そーゆことで!僕忙しいから!」
悟くんは端的に用事を済ませると部屋を出て行った。
もう一度洗面所へ行って鏡で確認すると、確かに耳の下に赤い痣が出来ている。自分じゃ気づかない位置だから寝てる時とかにわざと恵がつけたんだろう。
「……もう」
普段クールなくせに独占欲めちゃくちゃ強いじゃん…。まあ嬉しいんだけど…。
あ、そう言えば昨日の夜、恵私に何か連絡してたな。
私は残念ながらマメじゃないので、色んな人やグループから連絡が来ていても未読にしてしまうことが多い。
現に恵の連絡も見逃してた。なんて送ったんだろう?と思ってトーク画面を開くと、また私は固まってしまった。
たった一言、夜の23時に送られてきた文面。
"会いたい"
「…嘘でしょ」
恵ってこんなこと言う子だったっけ…?
どくどくと自分でも心臓が激しく高鳴る。
私は既読をつけて何と返すか一瞬悩んだけど、素直に返事をした。すぐに既読がついて着信音が鳴ったので出る。
「はい?」
『名前さん』
「恵?」
『あんまり可愛いこと言わないでください』
"私も会いたかった。恵だいすき"
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