使用人に呼ばれて応接間に入ると、既にそこに名前ちゃんが正座して出されたお茶を飲んでいた。
俺を見て顔を上げる。

「…久しぶりやね、名前ちゃん」

って言うても覚えてへんやろ。名前ちゃんの両親には法螺吹いてええように話したけど、実際俺らが会ったのなんて数分や。
同級生のアホみたいな男連れて帰るために派遣されとっただけやからな。

「何とお呼びしたら良いですか?」

俺が指示した通り、和装ではなく洋装で現れた名前ちゃん。
ウエストの絞れたタイトなワンピース着てるせいでおっぱいが強調されてる。わざとか?腰が細いから余計に乳がデカく見える。
18やったっけ?真依ちゃんよりもエロいな。

「好きに呼んでええよ。俺ら婚約者やねんから」

わざとらしくそう言って俺も向かいの席に胡座をかいて頬杖をつく。名前ちゃんはゆっくり瞬きして微笑んだ。

「じゃあ……直哉さん、とか?」

え、何?めっちゃ可愛いねんけど。前会った時はもう少しガサツな印象やったんやけどな。猫被ってんのか?まあ実質初対面やし被るか、猫くらい。

「足崩してええよ」

足見たいし。
俺がそう促すと、素直に足を崩して座る。
スカートの丈短いな。

「私、恥ずかしながら知らなかったんです。直哉さんとお会いしてたってことも、婚約してたということも」
「そらそうやろね」

名前ちゃんの意思とか正直どうでもええからな。
俺が一目見て気に入ったから、そうすることになっただけや。

「…実家と仲悪いん?」
「はい」

へえ、否定せんのや。

そろそろ結婚して子ども何人か欲しいと思ってたところや。

そう思って去年の年末、京都の高専に顔出したらたまたま名前ちゃんが来ていて、アホそうな同級生のデカい男を連れて帰るところやった。
見た目が可愛いしおっぱいでかいし良いケツしてたし学生なら何か術式も持っとんのやろ。そう思って目をつけたら当たりやったワケや。俺が五条の関係者と結婚したら親父もまあ満足やろ。

「ほんなら、何の問題もなく俺のとこに嫁ぎに来れるなぁ」

ちょっと調べたらわかることやけどな、そんなん。実家が京都やのに東京の高専に通ってると聞いた時点で悟くん絡みやなとすぐ分かってた。
1級術師らしいし実家の相伝の術式も受け継いでるなら文句なしや。

「あの、直哉さんは本当に私と結婚したいですか?」
「したいよ。今すぐにでも」

面倒やから即答すると、名前ちゃんは驚いた後少し頬を染める。

「どうして?」
「顔と身体が好みやから。あと若いから子ども3人くらいすぐ産めそうやん?」

わざと煽るように言うと、名前ちゃんは一瞬悲しそうな顔をした。
あー…ええな。泣いた顔も可愛いんやろうな。めちゃくちゃにしたりたいわ、この子。

「でも…」
「安心しぃ。学生やから卒業までは待つつもりやし、すぐ子ども産めとか味気ないこと言うつもりないで。何年か新婚満喫してからでええよ」
「直哉さん」

その直哉さんて言うのめっちゃええな、なんかグッと来るわ。なに?と問いかけると、名前ちゃんは変わらず少しだけしゅんとして俺を見てる。
何やねんその顔。ぶち犯すぞ。

「私、好きな人がいるんです」

は?そんなことか。
それが何やねん。名前ちゃんの気持ちとかどうでもええし、許婚にそんなん通用せぇへんわ。
ちゅーか何か?ほんなら今日は俺との結婚断りに来たいうことか?

「それで?」
「直哉さんと結婚するってわかってても…どうしてもその人のことが忘れられなくて」

だから?

「直哉さんとは結婚出来ないんです」
「…でも名前ちゃんのご両親は乗り気やったよ?」

ぐ、と名前ちゃんは黙った。

「何かさっきから勘違いしてへん?これは家同士の結婚やで。お互いの親が認めて、俺は名前ちゃんを気に入ってるねんからそれでええやん。名前ちゃんがそんなに色恋好きなら俺のこと好きになるよう努力しいや」
「……」
「そんなに愛されたいなら優しくしたるで。名前ちゃんが身の程弁えられるならの話やけど」

名前ちゃんは俯いてまた黙った。
返す言葉もないらしい。

「話ってそれだけ?特に反論ないんやったら、ちょうど良いから指輪でも見に行く?」
「…わかった」

名前ちゃんは俯いたまま持っていた小ぶりな鞄からスマホを取り出した。

「じゃあどうしたら、私のこと諦めてくれる?」
「…諦めへん。どんなに嫌がっても」
「そう」

名前ちゃんはまだ俯いている。どんな顔しとるんやろ。泣いてる?悲しんでる?早よ見せてや。

「…ちょっと電話して良い?」
「ええよ」

顔を上げた名前ちゃんの雰囲気が先程までと違う。さっきまで可愛らしいナヨナヨした女の子やったのに、視線が殺気立っとる。

へー、そんな顔も出来るんや。おもろいなぁ。でもさっきの方が可愛くて俺は好きや。もう少し謙虚な方がいいで。立場ってモンがお互いあるやろ。

「…ねえ、やっぱり交渉決裂だった。……うん。…うん。…今私虫の居所が悪いんだけど。……うん。…え?」

誰と電話してるんやろ。
名前ちゃんが俺を見ながら、電話の相手に対して突然黙り込んだ。

その時、応接間の襖が無遠慮に勢いよく開いて俺も名前ちゃんも視線を移す。

「直哉」
「親父、何やの?今いいところやったのに」
「事情が変わった。この結婚はなしだ。破談にする」
「ハア?」

この女何したんや、と名前ちゃんを睨みつけると、彼女も目を丸くしていた。











「ちょっと、何が一体どうなってるの?」

私が禪院家を出てすぐ、さっきの電話で悟くんが待機させていたハイヤーに乗ると、助手席に私服姿の悟くん、後部座席には恵が乗っていた。

「え?何で恵もいるの?来ちゃだめだよ!」

私がそう言うと「もう来てるんで…」と言われた。確かに。
恵は一度私を見ると何故かすぐに視線を逸らした。
車は緩やかに発進して、京都駅へと向かっているらしかった。

「それより、説明!」
「じゃあ僕から。まず最初に僕も恵も危険なことは何もしていないから安心していい。恵がここにいるのは名前が心配で着いてきたからで、特に接触とかはしてないからそれも安心して良い」
「わかった」
「…じゃあ事の経緯を説明しよう。名前が説得に失敗した場合の保険を僕はかけたかったんだよ」

悟くんの説明はこうだった。
悟くんは禪院家の当主の耳に入るように私と恵が"良い仲である"というのを五条の本家を通じて伝えたらしい。
そしたらまさかの当主直々に悟くんに確認の連絡があったのだそうな。これは大事だ、と私は冷や汗をかいた。御三家のトップ二人が電話でも直接話すなんてなかなかない。

「で、禪院のおっさんにはこう言ったんだよ。おたくの息子さんと結婚するより、本人たちの意思を尊重して恵と結婚する流れの方がそちらにとっても色々と都合が良いんじゃないかって」
「……け、結婚?」

私と恵が?
驚いて私が隣の恵を見ると、恵はそっぽを向いている。黙って外の景色を眺めていた。

「…それで?」
「ん?それだけ。向こうが勝手に何かいろいろ勘違いして破談になった。良かったね」
「…良かったねっていうか……」

私は冷や汗ダラダラだった。

「め、恵はまだ今年で16歳だよ?悟くん何考えてるの」
「俺がそう話して良いって、五条先生に言いました」
「…ええ…?!」

もうひっくり返りそうだ。
いやまあ確かに、付き合ってたら結婚とかも将来的にはあるのかもだけど、まだお互い学生だしそういうのって何か違うくない?

恵を見ると、気まずそうに目を逸らして座席に深く座っている。

「嫌ですか」
「…え?」
「俺と結婚するの」

……だらだらとまた冷や汗が出てくる。

「い、嫌というか…」
「……」
「その…」

嫌ではない。寧ろ嬉しい…かも?でもそれより私のせいで恵に負荷をかけたことが悔やまれる。こうなりたくないからあのゴミカス直哉を説得したかったのに。

「自分のこと、もっと大事にしてほしいと思う」




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