京都から東京へ戻ろうとしたその帰り道、偶然にも西宮と真依ちゃんに会ってしまった私と恵のその後は実に悲惨なものだった。

どういうこと?としつこく西宮に聞かれ、真依ちゃんは何故かすごく不機嫌で私に嫌味を言いまくるという、私にとっても恵にとっても地獄のような時間である。

「疲れた…」
「馬鹿正直に言うからですよ」
「…隠しといたほうが良かった?」

私がそう問いかけると、恵は黙った。
新幹線がちょうど発車する。私達は隣同士の席を確保してどうにか座ったところだった。恵は私を窓際に座らせてくれたけど、もう辺りは暗くて景色はあまり楽しめそうにない。

「どうせ直哉との婚約が破談になったことで、恵と私のことは真依ちゃん経由で京都校の人にはバレるよ」
「…それもそうですね」

恵はペットボトルのお茶を飲むと、膝に乗っていた私の手をそっと握る。いつも冷たいのに、ちょっとだけ温かい恵の手。私から指先を絡めて、すり、と少し撫でたり挟んだりして遊んでいると恵がやっとこっちを見た。

「…」
「なに?」
「そういう触り方、やめてください」

恵はため息を吐いた。











新幹線の中で私達は終始無言で、でも気まずいわけではなく何となくお互い黙っていたというのが適切な表現だった。
今日はいろいろあって疲れたし。
寮に戻ったら早く休もう。…悟くんはもう帰ってきてるだろうか。

ぼんやり考えているとあっという間に高専に戻ってきて、時間は22時を回る頃だった。

「…恵?」

部屋に戻ろう、と荷物を持って寮に足を踏み入れたところで、恵に手を引っ張られる。

「…」
「どうしたの?」
「……何でもないです」

何でもなくないじゃん。
何でもないと言う割に手が離れないので、私はそのまま立ち尽くして恵の顔を覗き込んだ。

「…恵?」
「……」

何も言わない。何か考え込むように俯いているのがらしくない。

「…じゃ、恵の部屋行っていい?」
「はい」

すんなり即答するのが何だかおかしくて私が少し笑うと、恵は不機嫌そうに私の手を引っ張って彼の部屋へと連れ込んだ。

バタンとドアが閉まった瞬間、どんと壁に押し付けられてそのまま恵が覆い被さってくる。
入り口の照明しか付けてないから、まだ室内は薄暗い。目を閉じてしつこいほどのキスを受け入れていると、恵の手が私の頬を撫でた。

「…すみません」
「何で謝るの?」
「ガキだなと思って」

自分のことが。
まあそうかもね、でも年相応だよとは言わないでおく。また怒るから。

「ガキでも良いじゃん、私もガキだし」
「…そうですか?」
「そうだよ、意外と」

私が笑うと恵も少しだけ笑った。
あ、今日初めて笑ったんじゃない?

「その服、もう捨ててください」
「えっ、何で」
「今日のことを思い出して気が悪いんで」
「…私にとっては恵との初デートの大事な服なんだけど」
「………」

そう言うと恵は黙った。
黙って私の服を脱がそうとするのでコラ、と手を突くとまた視線が合う。

「…するの?」
「名前さんが嫌ならやめます」
「…いいよ」

恵が私の背中のファスナーに手を伸ばした時だった。

「あー!良かった電気ついてる!伏黒もしかして帰ってる?!明日提出の宿題忘れてたから見せ……て……」

勢いよく部屋のドアが開いた。
驚いて私も恵もそちらを見る。虎杖くんが筆箱とプリントを持ってそう叫んだのが見えたが、まさかこんな漫画のような展開が本当にあるのか、と私は思わず笑ってしまった。

「……虎杖」
「え?名前さ……え?……あ、伏黒…ごめーーーーん!!!!!!」

恵の額に青筋が浮かんでいるのがわかる。
あーあ、虎杖くん終わったわ。
私はおかしくて笑ってしまったのだけど、恵はブチギレているし虎杖くんは今にも泣きそうな(というかほぼ泣いてる)顔で恵に謝罪している。

「ごめんね、今ちょうど始めるところだった」

私が正直にそう言うと虎杖くんは顔面蒼白になり、恵は私を睨んだ後黙り込んだ。
まあ仕方ないよ、恵だって私のことで頭がいっぱいで鍵閉めるの忘れてたんだもん。非が無いわけじゃない。

「ノックくらいはしようね、虎杖くん」
「名前さんもごめん……でも俺本当に何も見てないから、許して伏黒、殺さないで」
「殺す…」
「殺さないでぇえええ」

あーあ、おっかしい。
「宿題見せてあげなよ」と言って私が恵から離れると、虎杖くんはまた「すみませんでしたぁぁーーーー!!!」と大声で謝るのだった。




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