久しぶりに金ちゃんから連絡があった。

金ちゃんというのは私の同級生の賭け狂いの秤金次のこと。同じく同級生の星綺羅羅と最近はずっと一緒に行動しているということは知っていた。

…実を言うと私はみんなに嘘をついている。
私は別に二人にハブられてもないし、金ちゃんと連絡は取ろうと思えば取れる。
ただ金ちゃんから長らく連絡がない、ということだけは事実だった。

そんな中、綺羅羅のケー番からワン切り着信2回。
それは金ちゃんが私に用事がある時の合図。

「うーわ、本当にいるよ」

どうせいつものとこでしょ、と思って某パチ屋に入ると、案の定二人がいた。金ちゃんは玉を弾きながらおう、と私の顔も見ずに手を上げる。
金ちゃんにぴったりくっついた綺羅羅が私を見るとニヤニヤと笑った。

「名前、久しぶりじゃん」
「それこっちのセリフなんですけど」

私は腕を組んでため息を吐いた。制服で来なくて良かった。むしろ綺麗めな服で来て損した。綺麗めといっても薄手のニットにハイウエストのデニムだけど。

「思ったより早く来たな。…お前また乳デカくなってねーか?揉まれた?」
「まあ、揉まれてはいる」
「男出来たのかよ」
「揉んでるのが男とは限らないよ」
「金ちゃん、名前のおっぱい見ないで。おっぱいの話もやめて。なんでそんなサイズ感ぴったりな服着てんの?金ちゃん誘惑すんのやめてよ」
「してないから。私は骨格的にこういう服が似合うの。骨格診断やったことある?綺羅羅は骨格ウェーブだね」
「は?私は骨格ストレートですけど?っていうかおっぱいの自慢にしか見えないんですけど?」
「綺羅羅だっておっぱいあるじゃん」
「嫌味かよ」

久しぶりの再会だと言うのに綺羅羅は私に中指を立てながら右目を細めた。
本当そういうところだよ。そういうところが停学になるの、君らは。相変わらずの二人に私はため息を吐いた。

「とりあえずココ、頭痛くなるから移動しようよ」
「あ?今ちょうど確変入ったとこだぞ」
「知らんわ。私やらないからルールわかんない」
「前俺の領域で教えただろ」
「忘れた、興味なさすぎて」

金ちゃんの横の台が空いていたので座る。あーうるさい、耳キンキンしてきた。ギャンブルの何がそんなに楽しいかね。

「なんで金ちゃんの横座るの?」
「金ちゃんに呼び出されたからだよ」
「金ちゃんにおっぱい触らせんなよ名前!」
「何が好きで私が金ちゃんにおっぱい触らせなきゃいけないわけ」
「男はみんな乳が好きだからな」
「それ本当?普段クールで全然そういうの興味なさそうなタイプも?」
「むしろそういう奴の方が好きだろ」
「ふーん…そういうタイプって何してあげたら喜ぶのかな」
「ストレートに挟んでやればいいんじゃね」
「ちょっと!二人でおっぱいの話しないで!」

あー、くだらない。
このくだらなさ、最早懐かしすぎる。良いとこ育ちの私にはカルチャーショックな存在のこの二人のお陰で、ナメられないように逞しくなれた部分もある。下ネタ耐性もついた。

だから、停学になるようなことするのが少し悲しい。私は三人で高専で今もこうやって過ごしたかったのに。

「で、用事って何」

金ちゃんが打っている台の絵柄を見ながら、私は座った椅子を揺らした。タバコ臭い。私の隣の隣の台に着いてるおじさんからの視線を感じる。見ないでください。
金ちゃんは変わらず台から視線を外さずにハンドルを握っている。

「夜蛾のオッサンに伝言」
「やだよ。自分で直接言えば」
「しばらくガチで高専戻りません、て伝えとけ。あ、何かあったら俺らの窓口は引き続きお前な」
「イヤイヤ無理無理、殴られる、私が」
「避けりゃいいだろ」
「そういう問題じゃないから」

金ちゃんの傍若無人っぷりには私も舌を巻いていた。どうせ今回も碌なこと考えてない。
高専で人助けしてた頃の金ちゃんはこんなんじゃなかったんだけどな…。

「何考えてんの」
「お前に言ったら五条さんにチクるから言わねえ。言っとくが俺はまだ疑ってるからな、五条さんとお前の関係」
「は?」
「絶対何回かヤってるだろ」
「気色悪いこと言うのやめて」

私が思い切り強めに金ちゃんに肩パンすると、綺羅羅がまた「ちょっと名前金ちゃんにおっぱい当てんなよ!」と叫んだ。突っ込むところそこじゃない。あと当ててない。

「痛ぇな」
「…私はただ心配なだけ」
「心配?俺を?でもお前俺より弱いじゃん」

私が舌打ちすると綺羅羅がきゃははと笑った。綺羅羅よりは強い自信あるけど。

「そういう問題じゃない。…この前の交流会、東京校はまた保守派とモメたんだよ。私が気にしてるのは金ちゃんの生き死にじゃなくて立場の問題」
「何かあったのか」
「詳細は割愛するけど、結論だけ言うと1年生が一人殺されかけた」
「……クソ野郎どもが」

金ちゃんがそう言って私の方をやっと見た。
確変終わったらしい。

「ハマってんじゃん」
「違ぇよ。セグ見ろ」
「とにかく、あまり変なことはしないでほしい。金ちゃんにも綺羅羅にも私は戻ってきて欲しいよ。…友達だもん」
「……」
「復学できるように協力はするつもりだよ。…まあ、金ちゃんの伝言は一応預かっとくけど」

話はそれだけのようなので私は椅子から立ち上がる。

「お前のその甘ちゃんな性格、いい加減どうにかなんねぇ?」

金ちゃんの言葉にぴたりと私の足が止まった。

「俺も名前のことはダチだと思ってる。だから言ってんだ。わかるだろ」

私は黙ったまま、金ちゃんの言葉を聞く。ガヤガヤとうるさい店内で、やけに金ちゃんの声だけが私の耳に響く。

「…私に説教垂れるの?」
「まさか。だがお前のその甘ちゃんで熱くなりきれねぇところ、勿体ねぇって話。お前が熱くなってるところ、俺は久々に見てぇんだよ」
「……」
「名前が来るのを待ってる。連絡つくようにしとくから、その気があるならいつでも来い」
「…何しようとしてるの?」
「熱くなれること、だ」

これ以上は話す気はねぇ、と言うと金ちゃんは台に集中し始めたので、私は踵を返してパチ屋を出た。隣の隣の席に座っていたおじさんがついてくる気配がする。
あーあ、随分タバコの匂いがついたな。

パチ屋の裏通りをそのまま歩いているとおじさんがやはり着いてくる。

「何か用?」

警察呼ぶのダルいし伸すかぁ、と思って振り向くと、おじさんは式神を出してきた。うわ、術師?てか呪詛師?

「1級術師の名字名前だな」
「てかおじさん誰?」
「誰でもいいだろう」
「よくねーよ」

おじさんの式神が飛んでくるのを蹴り上げた。
やれやれ…。

「おじさんが私を熱く出来るとは思えないんですが…」




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