「可能性として有り得そうなのは二つ。@名前さんの代わりになる星漿体を見つけて同化を促す。A同化自体を不可能な状態にする」

俺が指を二本立てて、釘崎と虎杖に提案をすると、二人とも難しい顔のままだった。

「@はほぼ無理じゃない?自分の身代わりに誰かが死ぬなんて名前さんの性格的に拒否しそう。そもそも他に星漿体がいるのかも謎だし。それを3日で見つけてどうにかってのは絶望的よ」
「俺もそう思う。だからAの可能性を探る必要がある」
「同化自体を不可能な状態にするってどーいう意味?名前さんと天元サマが同化出来なくなる理由を作るってこと?」
「そうだ」

うーん?と頭にクエスチョンマークを飛ばしながら虎杖が腕を組んだ。

「それって今の状態と矛盾してね?天元様には同化が必要で、その適合者が名前さんなんだろ?」
「ああ。だが反対に考えて見ろ。天元様のリセットに必要なのは人間じゃない。"星漿体"なんだよ」
「えーっと、どういう…こと?」
「…星漿体とそうでない者の違いは?」
「……それはよくわかんねーけど」
「名前さんが星漿体なら、名前さんからその星漿体たる要素を奪えばいい。そしたらそもそも天元様が名前さんと同化する理由がなくなるだろ」

ぽかんと虎杖と釘崎が口を開いている。

「星漿体たる要素って何?」
「知らん。俺に聞くな」
「ええ…伏黒が言い出したんじゃん…」
「…まあその要素が何かさえわかれば、どうにかしようがあるってことね。アンタの言いたいことはわかるわよ。でもそれって手段がわかったとしても実現可能なの?」
「五条先生が昨日言ってただろ。天元様と六眼、星漿体は因果で繋がってる。その因果が切れない限り、同化当日には必ず三者が揃う。@に通じるが、名前さんが星漿体じゃなくなる…つまり同化の権利を剥奪された場合、因果の影響で自然と他の星漿体が現れて同化をすることになるはずなんだよ」

なるほどね、と言った釘崎の眉間に皺が寄る。

「でもそれって結局、他の誰かが死ぬってことなんだよな」

虎杖が俺の目をみて真っ直ぐ問いかけてくる。釘崎も俺に同じことを言いたいようだった。

「…理論上はな」
「伏黒は、名前さんの命の替わりに他の誰かの命を犠牲にすんの?その覚悟があんの?」
「ある」
「…例えば、それで伏黒が死ぬことになったら?」
「ちょっと虎杖…縁起でもないこと言うな」
「本望だな。名前さんが助かるなら、正直今はそれ以外どうでもいい」
「……」
「あの人と他人の命を天秤にかけたら、今それより重いものはない。俺は善人じゃない。自分が救いたい人間しか救えない。…こんなことを考えてる時点で、全部俺のエゴだ」
「…そっか。わかった」

俺の即答に虎杖は一瞬黙ったが、了承してくれたようだった。

「じゃ、どうすんの?」
「…考えがある。けどその前に、俺の中にある仮説を検証するために五条先生から話を詳しく聞きたい。どう動くかはその後決める」
「仮説って?」
「…違和感だらけなんだよ、この任務」













「あー疲れた、もう二度と親と顔合わせたくない」
「でもこれで気兼ねなく過ごせる。良かったんじゃない?」
「だね」
「でしょ」

私が伸びをしてそう言うと、悟くんも頷いた。二人並んで広い回廊を歩いて客間へ向かっていると、さっきクソボケアホ直哉が私の実家を破壊してくれたお陰で、客間はボロボロになっている。
本当普通に入って来れないかな?これやる必要あった?何のパフォーマンスなわけ?キモいんだけど。

「あ、おかえりなさい」

その半壊状態の客間に顔を出すと、一年生三人組が振り向いた。釘崎ちゃんが声をかけてくれて私は目を合わせた。
三人で何か話していたらしいが、私たちを見てぱったりそれをやめる。聞くのは無粋かな、と思って私は微笑むだけにした。

「お待たせ。じゃ、遊びにいこっか」
「え?遊びに行くんですか?」
「当然。私の好きなことをして楽しく過ごして良いって天元様からお達し♡」

私がそう言うと、恵は複雑そうな顔をしていた。
悪いことしたなぁ、本当に。軽い気持ちで人のお願いなんて聞くもんじゃない。











「…ユニバじゃん」
「ユニバだよ?」

みんな東京の夢の国は行ったことあるだろうけど、大阪にも夢の国があることを忘れてはならない。
しかも五条家のお金パワーで今日は夕方から私達の貸切なのだ!悟くん最高!

「はーい、撮るよ。こっち向いて、この世で一番イケメンなのはー?」
「恵!」
「織田信長」
「キムタク!」
「……」
「あはは、全然揃わないし誰も僕の名前あげないじゃん」

ユニバーサル・グローブで悟くんに四人の写真を撮ってもらい、私はスマホを見てほくほくしていた。青春だ!私の最後の青春!

「ねえ何乗る?!やっぱりハリドリからいく?!バックドロップは怖いから恵絶対手握っててね?」
「怖いなら乗らなくていいんじゃないですか」
「せっかくだから全部乗りたいじゃん。虎杖くんと釘崎ちゃんは絶叫系いける?」
「俺絶叫系むしろ得意!」
「まあ私も一応大丈夫ですけど」
「よし行くわよ!」

私が意気揚々と先導すると、一応三人がついてくるのがドラクエみたいで面白い。

あーあ、ここに金ちゃんと綺羅羅もいたら最高なのに。真希も、狗巻くんもパンダも、憂太くんもいたらきっともっと最高なのに。

「…ま、いっか」

あんまりうじうじしてても仕方ない。
一応金ちゃんと綺羅羅にも私なりに連絡はしたけど、返事はなかった。でもその方がお別れが辛くなくて良いかもしれない。

広いパーク内には私たち以外に誰もいないから少し寂しい。夕暮れも相俟ってなんだか切ない。

「あの」
「…恵」

意気揚々と先導していた私の横に恵がやって来て並んだ。何だ、何言いに来たんだと思って見上げると、恵は無表情で私を見下ろした後、意を決したように手を握って来た。

「怖いから手握ってって言ったの名前さんですよ」
「まだハリドリ乗ってないよ?」
「こういう時は黙って繋いどくもんなんじゃないですか。珍しく俺が外で自分から手を繋いだんですよ、意味わかれよ」

驚く間もなく、恵が急に早口で捲し立てるので少し笑ってしまった。中学生か。シャイボーイ過ぎる。

「確かに」
「言っとくけど、俺は許してませんしまだ怒ってますから」
「…怒ってるのに手繋いでくれるの?」
「これ以上揶揄うなら俺マジで帰りますよ」
「それはやだ。絶対ダメ。一緒にいて」

ぎゅ、と握った手を強く私が握り返して腕にしがみつくと恵が呆れたようにため息を吐いた。でもちょっとだけ耳が赤くなってるから、恵だって満更でもないと思う。

そんな私達をみて後ろからついて来ていた虎杖くんと釘崎ちゃん、そして悟くんがひゅーひゅー!と囃し立てる。私が振り返ってピースすると、恵がもう一度大きなため息を吐いたのがわかった。
でも繋いだ手はそのままだった。











「ねえ虎杖くん、こんなタイミングで聞くのもアレなんだけど」
「なんすか?」
「虎杖くんてもしかして童貞…きゃああああああ!!!!」
「そうですけどぉおー!!何でそれ今聞くんー!?」
「キャアアー!!ちょっ、虎杖邪魔!!どさくさに紛れて私の腕を掴むな!キモい!!童貞!!!」
「痛!!!だってそっち三人手繋いでんのに俺だけハブなのちょっと寂しいんですけど!!」
「……マジでうるせぇ」

バックドロップで後ろに吹っ飛ばされながら落下していく。
私は恵と釘崎ちゃんに挟まれて二人の腕になんとかしがみついているが、風の勢いと落下速度で何が何だかよくわからない。四人一列のシートだから四人で最前席に座ってみたものの、これが結構怖い。
恵は涼しい顔をして乗っているのが本当に信じられない。鋼の心臓か?

「恵怖くないの?」
「怖いですよ」
「叫びなよ」
「周りがビビって叫んでると逆に冷静になるんです」
「…ああ…まあそういう人いるよね」

アトラクションから降りると、恵はぐしゃぐしゃになった私の髪を撫でて整えてくれた。今日はいつになく優しいし人前でもベタベタしてくれるな。
昨日怒ってくれたのも恵の優しさと愛故だと思えば、別にそんなに悲しいことじゃない。

何だかむず痒い気持ちになって恵を見つめていると、恵もじっと私を見下ろしてくる。

「…なに?」
「別に」

私の問いかけにそっけなく答えるわりに、恵は私から離れない。名残惜しそうにずっと髪を撫でられる。ちょっと良い雰囲気でなんだか恥ずかしくなってきた。

「…あれ?みんなは?」

ふと辺りを見回すと釘崎ちゃんも虎杖くんもいない。あれ、さっきまで一緒にいたのに、と思っていると悟くんが近くのベンチで手を振っているのだけはわかる。

「野薔薇と悠仁はちょっと買い物に行ってもらったよ。…三人で話いいかな」

悟くんの言葉に私と恵は顔を見合わせた。
とりあえず悟くんの座るベンチに集まると、悟くんはサングラスを外した。

「話って何ですか」
「とりあえず恵、何か言いたいことは?」
「アンタら二人でコソコソ死ぬ準備してんじゃねえよ、ってことですかね。言っときますけど俺五条先生にもキレてますから」
「だよねえ。名前は?」
「……悟くんが、一昨日から一度も寝てる様子がないのが気になる」
「自分の心配より僕の心配か、名前らしいね」

悟くんは額を押さえて少し笑う。

「恵の言いたいことについては長くなるから後で僕ときちんと話そう。キレてくれていい。それと僕が寝てないのは僕がちょっと心配性なだけ。4日くらい寝なくても平気だから気にしないで。君たちは青春を謳歌しな」
「でも…」
「…って言ってる間に来たね」

悟くんが立ち上がる。
恵が掌印を結んで玉犬を召喚した。
呪力を感じる。それもいくつもの。

「…名前さんが貸切テーマパークを選んだのは、一般人に極力被害が及ばないようにするためですか?」
「それもある」
「さすがです」

Qか盤星教か、どっちだろうか。
術師の数の多さ的にQなのかな。
何をされるかわからないけど悟くんが付いてるから大丈夫かな、なんて思った時だった。
その多数の呪力が、何故か私達の方へ来ない。パークの別の場所に一同に向かっているらしかった。

「…あっちって、もしかして虎杖と釘崎がいるところですか」
「そうだね。全員がそっちに集中してるな」

流石にあの数の呪詛師全部二人で相手にさせるのは厳しいんじゃ、と思い悟くんを見上げると、何か迷っているようだった。

「悟くん、行ってあげた方が」
「名前さんの護衛は俺が着いておきます。行ってください。それか俺が行ったほうが良いですか」
「……いや」

悟くんが迷う姿を見るのはかなり珍しい。

「陽動の可能性がある。…僕も恵もここで待機」
「え?でも虎杖くんと釘崎ちゃんが」
「あの二人なら死にはしない。大丈夫。それにこれは"護衛任務"なんだよ」
「言い方悪いけど、悠仁や野薔薇よりも名前の命が最優先。今回は名前を取られたら負けなんだ。だから僕はここを動かない。恵も動かないで。名前は自分の身を守ることに集中すること
「…わかりました」
「了解」

悟くんはこの任務に対して並々ならぬ警戒心が働いているらしい。まあ私の命に関わることだし、それは良いんだけどちょっとピリピリしすぎな気もする。言うて私も1級術師ですよ?

私達三人、集まる呪詛師達の様子を遠巻きに見ながら手持ち無沙汰でいると、あの、と突然声をかけられて振り向いた。

「…貸切のお客様ですよね?」
「え、あ、そうですけど」
「あの、お連れ様がこれを……」

服装からしてテーマパークのスタッフらしき女性だった。呪力も感じない。
その人の手に握られていたのはここのテーマパークのクマのキャラクターのマスコットらしきものなのだが。

「お連れ様って」

ぎゅ、とそのマスコットを握らされる。え、と思った瞬間、そのマスコットを基点とした小規模な帷が出現して私は固まった。しまった、罠、

「名前…!」

そう言われた瞬間、悟くんの手が私に触れようとした。無限を私に付加して、誰にも触れないようにするためだと思う。
でも手は触れなかった。その代わりとんでもない勢いで私はふっ飛ばされたのである。

「…へ?」
「やれやれ……アイツとまた差し違えることになるとはな。この肉体でどこまで出来るかねぇ」

一瞬何が起きたのか分からなかった。理解が完全に追いつく前に、私は大柄な男に押さえつけられて木々が茂る場所まで吹っ飛ばされたのだと気付く。ここジェットコースターのコースの下だ。

「…何年経ってる?また強くなってんのか五条のガキは」
「ちょっと、さっきの女の人に何かしてないでしょうね?あれは一般人でしょ」
「おいおい、この状況で自分の心配より他人の心配か?お嬢ちゃん肝が据わってるな」

すぐに頭と首は呪力でガードしたけど、男の力が強すぎて気を抜くとやられそうだ。

「ここにいる人間で、五条悟に次ぐ手練れがお前だろ?よく俺に引き摺り回されて平気な顔してやがる。つってもお前、俺より弱いか」
「…あんた誰?Q?それとも盤星教…?」
「知らん。誰でも良いだろ。……ん?」

ぐ、と首を押さえられて息が苦しい。何て力。単純な力技なら悟くんよりこの人強いんじゃないか?呪力を全く感じないから、存在すら全然気付かなかった。
そういえば悟くんと恵は、なんて考えながら男の手首を握って何とか抵抗する。

「心配すんな。今頃五条悟は帳の中だよ」
「は…?」
「あー…何だっけ?五条悟だけ閉じ込める帳?よく知らんがこの肉体の情報だとそういうモンがあるらしい。数分の時間稼ぎにしかなんねぇだろうけどな」

五条悟だけ閉じ込める帳?そんなこと可能なの?それってやっぱり、この前の交流会の呪詛師の力ってこと?あれは確か五条悟だけ弾く帳だったよね。
いや、それより今ここで殺されたら終わりだ。やばい。どうしよう。

「…ところでお前、あの式神使いのガキとどういう関係?」

何の気まぐれか、男は少しだけ私の首から手を緩めるとそう問いかけてくる。気が変わったらしい。
もしかして恵のこと?

「…何でそんなこと」
「答えろ。答えないなら今すぐ殺す」
「…恵は私の彼氏ですけど」
「あぁ…そうそう、恵、ね」

そう言った後、男はくつくつとおかしそうに笑った。

「恵、良い趣味してんな」

この人、恵のことを知ってるの?
そう言えば恵とちょっと顔が似てるような…。口元にある傷に目がいって顔の造形に注目していなかったけど、随分と整った顔立ちをしている。ただし鋭い目元は獲物を狩る獣のそれだ。

「女の趣味ってのも似るもんなのか」
「…?」
「ああ悪い、こっちの話だ。…気が変わった」
「は?」

男は私の胸元を無遠慮に弄ると、服の中から護身用のナイフを抜き取る。上から退いて私の首根っこを掴むと引き摺り出した。
…どうしてそこにナイフ仕込んでるってバレた?いつ気付かれてた?

まずい。おかしい、立てない。てか足痛いんだけど。さっき足の骨折られたかもしれない。…やばいこれ刺されるんじゃない?

「そもそも金も絡んでねぇのに俺が女を無駄にいたぶる趣味はねぇ。好きにさせてもらおう」

どさ、と私の身体を投げて木にもたれるように座らされる。男はナイフをクルクル回した。

「…あの」
「何だ」
「私を殺しに来たんじゃないんですか」
「そうかもな」

男の考えが全く読めなくて私はぽかんとした。ニヤニヤと私を見下ろしてくるのが不気味だ。というか何が面白いのか、私には全く分かりかねる。
何より術式で攻撃して来ないのが……こいつ呪力マジでゼロなの?呪力ゼロでこれってやばくない?死ぬんだけど。

「…じゃ、殺さないとダメなんじゃ」
「何だ?死にてぇのか?」
「そんなわけないでしょぉ!」
「…あー……」

私が必死で全力で突っ込むと、男は額を押さえてまた笑った。よく見ると目の色が反転してる。白目が黒く、黒目が白く。これって…確か降霊術じゃない?

「勘弁してくれ」
「…はあ?」

意味わからん、マジで何なの?
男は私の前に屈んで頭を掴んだ。というか髪を引っ張られたという形が正しい。無理矢理男と顔を突き合わせる形になり、私は身構える。しかしその男は事もあろうに自分の頭にナイフを突き刺したのだ。

「えっ」
「ここは一つ、お前と相討ちってことにしておくか。この後どうなるか賭けてみようぜ。ほら、飲めよ」

男が懐から瓶のようなものを出したのが見えた。
やばい。避けようにも頭を掴まれてて押さえられて逃げられない。足も折られてて動かない。
それの蓋がきゅぽんと開けられ、ざばっと瓶の中の液体が頭に思い切り掛けられる。思わず目と口を閉じたが頬を伝い、鼻先を伝うその液体に私は顔を歪めた。
鼻をつくその香りとぐにゃりと歪む視界、胃をせり上がってくるような不快感に吐き気を覚える。

「酒、弱いんだって?」

耳元で態とらしく囁かれた。煽ってんのだとしたらめちゃくちゃムカつく。

「…〜っ…!!」
「あと数秒で五条悟が来る。アイツでもこれは治せねぇんじゃねぇか?」
「…っ女をいたぶる、しゅみ…ないって……」
「"無駄に"は、な」

息が、苦しい

「これは賭けだ。お前が生き残ったら恵の勝ち、お前が死んだら俺の勝ち」

は…?なん……でめぐみが…?
こいつ…さっきから……な…にを……いっ……て………

「先に逝く。せいぜい頑張れ、お嬢ちゃん。…ああそれと、生き残った場合は恵のことよろしく」






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