「気に入ったのあるか?恵」
「はい」

真希さんの所有する呪具の中には禪院家の宝物も含まれている。
手に馴染みそうなものに触れてみる。ナタのような宝剣や、忍者が使ってたのかと思われる手裏剣のようなものまで種類は実に多種多様。

「ああ、それか…」

三節棍を見つけて手に取る。
背後で真希さんが俺を見て腕を組んでいた。

「扱い辛くないですか」
「こんなもん慣れだよ慣れ」

アンタの場合はな、という言葉が出かけたが、飲み込んだ。真希さんにその言葉は最早ナンセンスだ。
せっかくのチーム戦だから、俺が持ってる黒刀だけじゃなく真希さんの呪具も扱えるようにと見せてもらっているが、持ち前の運動神経や才能を問われるものも多い。これ全部扱えるってやっぱこの人バケモンだろ。

「それ、なかなか良い呪具だぜ。…胸糞悪くて使う気起きないけど」
「東堂って人にも通用しますかね」
「まあ上手く扱えば…って東堂相手にやる気か?張り切ってんな恵」
「やるからには勝たないと」

そりゃ張り切りもするだろ。こっちは朝の勢いでずっと好きだった人に告白したも同然なわけだから。

「そこまで真剣に勝ちに行く気だったとは思ってなかったよ」
「…俺にもいろいろあるんですよ」
「……」
「何ですかその目は」
「別に。結果的にお前ら1年が入ってくれて良かったかもな」
「何でです?」
「名前が入ると結局アイツと東堂の一騎打ちになって終わりだったろうからさ」

真希さん的にはそれじゃつまらん、ということらしい。まあ真希さんは昇級アピールを兼ねてこの交流会に臨んでいるから、京都校と東京校の一級同士が殴り合って終わりでは意味がないんだろう。

「俺も参加させてもらえて感謝してますよ。自分の成長の糧になりますから」
「真面目だね」
「そうでもないです」
「へえ?」
「…」
「いいよ別に。こっちとしては真面目にやってくれれば何でも」

本当は例のお願いを名前さんに言う気はなかった。名前さんが俺のことを男として見てるかどうかすら怪しいし、付き合ってくれと言って素直に頷いてもらえるとも思えない。相手にされていない、と感じることは今まで何度もあった。

だが言ってしまった。勝手に口が喋り出したというのに近い。

タイミングが良かっただけだ。たまたま朝練の前に名前さんが通りかかって、急に突かれて揶揄われて、間近であの可愛い顔を見てるともう限界だった。
あの人が俺のことを好きかどうかは知らない。でももう、俺は早く名前さんを俺のものにしたい。

「強いて言うなら、青春ってやつじゃないですか」
「はあ?」

ぶかぶかのカーディガンから覗いた黒いレースの下着も、寝起きのだらしない顔も、驚いて丸くした目も何もかも好きだ。ずっと好きだった。
俺はこの初恋を6年、拗らせている。いい加減蹴りをつけたい。











「伏黒って名字先輩と仲良いの?」
「……何だ急に」

朝練終わりに釘崎が突然そんなことを言い出して思わず声が裏返りそうになった。おい、昨日から名前さん関連の話多くないか。仲良いも何も…。

「さっき真希さんと話しててさ、名字先輩はちょいちょい学校にいるらしいって聞いて。交流会出てくれたら助かるのにって思ったのよ」
「あの人一級術師で忙しいし、交流会は他の3年が出ないから出ないって言ってたぞ。それと、」
「それと?」
「名字で呼ばれるの嫌がるから、やめた方がいい」
「何ー?やっぱり仲良いの?」
「…おい、何の話だ」

妙な探りに俺が露骨に不快感を示すと、釘崎はニヤリと笑った。

「中庭で何か話してたでしょ?」

クソ、最悪だ。見てんじゃねぇよ。

釘崎はニヤニヤしながらどういう関係?と詰め寄ってくる。幸い俺が名前さんに告白したのは知らないらしい。でも俺が手を掴んだのは見てたか?多分見てたなこの感じは。クソ面倒くさい。

「高専入る前からの知り合いだ。昔から任務同行したりしてただけ」
「にしては、随分と仲良さそうだったじゃない」
「あの人は誰に対してもあんな感じなんだよ」

…自分で言ってイライラしてきた。
そうだ、誰に対してもあんな感じなところが俺の心が安まらない一つの要因でもある。

人との距離感が近過ぎる、というのは昔から見ていて思う。幸いあの人自身がかなり(色んな意味で)強いから変な男につかまったことはなさそうだが、見ているこちらは気が気ではない。

「何だつまんない」

つまんないって何だ。こいつは俺のこと何だと思ってる。

「女子寮ですれ違うことくらいあるだろ。名前さんのことが気になるなら直接本人と話せ」
「…まあ確かにそれもそうね」

釘崎は大きく伸びをすると、アンタに聞くんじゃなかったわと訳の分からない一言を浴びせてさっさと女子寮に戻っていく。
まあいい、俺も部屋に戻ってシャワー浴びるか。そんなことを思っているとポケットに入れていたスマホが通知音を奏でる。

この音、五条先生だ。嫌な予感がする。
通知画面を見て俺はやはりまたため息を吐くしかなかった。

『朝練お疲れ様サマンサ〜!午後から任務頼みたいから、準備終わったら恵は3年の教室によろしく』



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