『恵、今日誕生日だよね?おめでとう!この後って時間ある?』
2017年12月22日。
特にいつもと変わらない平日。強いて言えば冬休みに胸を躍らせているクラスメートが多いことが、いつもと違うところだろうか。彼らに紛れて登校し、昼飯を食いながらいつものように読書をしていた時だった。
一応俺の誕生日ではあるが、津美紀は寝た切りで入院中の為不在。特に親しい友達がいるわけでもなく、また馴れ合うことが苦手な俺はいつも通り独りで過ごしていた。
そこでスマホに一本の着信が入り、その相手を見てまさかなと思いながら電話に出た時は、少しだけ頬が緩んでいたかもしれない。
「…ありがとうございます。ありますけど」
『じゃ、恵ん家行っていい?パーティーしようよ!何食べたい?私ご飯作ってあげる!』
「…鍋食いたいです」
『いっつも鍋じゃない?!この前も鍋したじゃん。恵が良いなら良いけどさ』
「鍋がいい」
『わかった!』
「あ、おかえりー!ちょうど良いところに」
帰宅すると既に名前さんの姿があった。両手にスーパーの袋、でかいリュックサック、何か紙袋のようなものを持っている。
首には一目で上等だとわかるカシミヤのマフラーを巻いていて、白く滑らかな肌と寒さでわずかに上気した頬、そして五条さんと同じくりっとした大きな目が覗いていた。
「大荷物っすね」
「だって恵の誕生日だし!急に連絡してごめんね、もし恵に友達か彼女がいてお邪魔になったらと思って悩んじゃった」
彼女なんかいるわけない。俺が好きなのは名前さんだから。この人はそんなこと知らないだろうけど。
「いません、彼女なんか」
「そうなの?恵顔も頭も良いし不良だから女にモテそうじゃん」
名前さんが持っているスーパーの袋を手に取ると、玄関の鍵を開けた。誰もいない家はしんとしている。玄関の照明を付けると慣れた様子で名前さんが荷物を置いてお邪魔しまーす」と履いていたスニーカーを脱ぎ始めた。
寒いのに生足にハイソックスという足元に流石に心配になる。
「別に不良じゃないですから」
「一般的にはねぇ、喧嘩ばっかりして気に入らん奴を殴りまくってるのは不良っていうんだよ」
「最近は喧嘩はしてません」
「えー本当かな」
名前さんの丈の短いスカートから覗く太腿が視界に入って何となく目を逸らした。
昨年から呪術高専に入学した名前さんは、それ以来真っ黒な高専の制服で現れることが多く、例に漏れず今日もその制服だった。
この制服、自分で好きにカスタムできるらしく、彼女の制服はスカート丈が短いのがどうも気になる。
中学からの友達の影響で韓国アイドルにハマっていた昨年の名前さんは、その影響からボックスプリーツスカート(というらしい、本人曰く)にやや短めのブレザーというイジりにイジりまくった制服スタイルを貫いていた。
任務が多いという特性上、動きやすさ重視にしているらしいが、短いスカートだとその……あれだろ。…捲れたりするだろ。
「恵?」
「何でもない」
ぼんやりそんな事を考えていると名前さんが不思議そうに洗面所から顔を覗かせた。
着ていたブレザーを脱いで勝手にハンガーを取って掛けている。
津美紀が寝た切りになって以来、独りの俺を気にかけてて名前さんや五条さんが家によく顔を出しに来るようになった。その為、この二名はこの家の間取りや使い方ももはや慣れたものだった。当たり前のように手を洗ってうがいをした名前さんがスーパーの袋を台所へ持って行く。
そして、この人と付き合ったり結婚したらこういう感じなんだろうな、とありもしない妄想に一瞬囚われそうになるのを頭から振り払うのもいつものことだ。
「…手伝う」
「え?いいよ、今日誕生日だし。たまには甘えなよ」
何でこの人は俺に優しいんだろう。
…いや、違う。誰にでも優しいんだ。
俺にとっては唯一無二の名前さんでも、名前さんにとって俺はきっとその他大勢のうちの一人でしかない。この人の友人の多さと社交性の高さからしてどう考えてもそうだ。
そんなことわかってる。
「でも結局二人でやった方が早いじゃないですか」
「確かに。じゃあ白菜切って!」
「…てか今日任務じゃなかったんですか」
けして広くない台所に二人で並ぶと、肩が触れそうなほど近い。
どく、と心臓が早鐘を打つのが自分でもわかる。おさまれ、鎮まれ、と念じながら無心で白菜を等間隔に切ることに集中する。
「任務だったけど、恵の誕生日だから爆速で終わらせた」
「……」
「あれ?喜んでる?」
俺は緩みそうになる口元を噛み殺しながら、別に、と言うと名前さんはニヤニヤしながら生姜をすりおろして鍋に出汁をとっていた。
「誕生日祝われて嬉しくない人とかいないでしょ」
「じゃ、そういうことにしとく?」
どういう意味だよと問いかけるまでもなく、名前さんは冷蔵庫から大きな魚の切り身を取り出すと得意気に笑った。それ二人で食い切れる量じゃねえだろ。
「そういえば恵、来年から高専入学するんだよね?」
「そのつもりですけど」
「じゃあ正式に、私の後輩になるってことだね!名前先輩って呼んで良いよ!名字はムリだから」
「…別に普段通りで良くないですか。真希さんとか後輩なのに呼び捨てだし」
「うっ…」
カセットコンロを炬燵に出して鍋を乗せると、名前さんは唸りながら箸や取り皿を並べた。二人では食べきれないくらいの量の肉と魚を買って来たせいで、炬燵は今煮えている鍋とは別に追加の具材でいっぱいだった。
「それもそうだね…」
「鍋、煮えますよ」
「本当だ」
火を止めて蓋を開けると、ほわ、と湯気が立って部屋中に出汁のいい香りが広がる。
名前さんは京都出身なので無意識に味付けが全て出汁ベースになるらしく、寄せ鍋なんかは特に昆布と鰹の出汁が効いていてマジで美味い。
美味しそう!と声を上げると、名前さんは食器棚を勝手に開けてコップを二つ取り出し、買って来たジンジャエールを注いだ。
「シャンパンみたいじゃない?」と笑うのが可愛らしい。
「いえーい!!恵誕生日おめでとうー!!15歳だね!この1年で私以外にも友達が出来たらいいね!」
「一言余計なんですよ」
かち、とコップを合わせて乾杯すると、名前さんは楽しそうに笑いながらごくごくとジンジャエールを飲み干した。
俺より嬉しそうにされると、こっちまでなんだか嬉しい気持ちになってくる。
「よそってあげよっか」
「…はい」
「恵ほっぺた赤くなってるよ」
「名前さんもですよ」
「へへ」
名前さんはにこにこしながら玉杓子で鍋の具材をよそう。
俺が受け取るとじっと見つめられて俺も見つめ返した。
「何ですか」
「なんか、大きくなったね」
「…は?」
「いや、男になってきたなーと思って。初めて会った時私よりチビだったのに」
「小4と小6だとそうなるでしょ」
「そうだけどさぁ。ってことは恵と出会ってからもう5年も経つのか。早いなー」
しみじみとした様子で鍋の具材を取り分ける名前さんに、俺は何とも言えず黙った。
男になってきた、と言われてもこっちは最初からとっくに男だ。身長も中学に入ってすぐに完全に抜かしたし、声変わりもした。
反して名前さんは一目見てわかるほどに、女だった。伸びた髪も凹凸のある身体も丸みを帯びた胸も、何もかもが女性として…その…綺麗になっている、と思う。
「私付き合い長い男の友達?って地元にいないからさ、恵と5年も仲良くやれてるのなんか嬉しいなぁって。誕生日祝うって仲良くないと出来ないじゃん?」
「まあそうですね」
「じゃあ私らズッ友だね」
俺はそんな目でアンタを見たこと一度もないんですけど。
「名前さんがそう思うならそれでいいんじゃないですか」
「うわークソどうでも良さそう」
「どうでもいいっていうか…」
改めて男として見られていないということにやるせなさを感じる。こっちは出会ってからずっとアンタしか見えてないのに。
「俺は名前さんのことを尊敬しているので、そんな軽い気持ちでいたことないです」
「恵…!尊い!」
「うわっ」
好きとかそんな言葉を言えるはずもなく。俺がそう言うと、名前さんは目をキラキラさせてがしっと俺にしがみついて来た。
俺が思わず固まると、名前さんは嬉しそうに頭をぐりぐりしてくる。悪くない気分だった。
「私も恵のこと可愛い舎弟だと思ってる!!」
「…舎弟だったこと一回もないですけど」
関係性に名前を付けたいのなら、俺は今のこの曖昧な関係にさっさと蹴りをつけて先に進みたい。でももし壊れて拗れてしまうくらいなら心地良いこの関係のままでいたい、とも思う。意気地のない俺はいつもそこを行ったり来たりして、はっきり想いを伝えるタイミングを伸ばして今日まで来ている。
いつも名前さんにこうしてくっつかれる度に期待して、俺は振り回されてばかりだ。
と言うかこの状況がそもそも良くない。いつもならこういう場合は津美紀も一緒だし、大抵後から五条さんが乱入してくるが、今日は文字通り名前さんと二人きりだ。
意識しないはずがない。
「お鍋美味しー♡」
なのに名前さんはまるで何も気にしていないように我が家のような振る舞いで鍋を突いている。こういう謎に図太いところ、五条さんと似てるんだよな…。
「恵も食べなよ」
「…いただきます」
俺が手を合わせて箸を取ると、名前さんは炬燵に肘をついてジンジャエールを飲みながら俺を見ていた。
その目があまりに優しくて穏やかで、何とも言えない色をしていたから俺は目を逸らした。余計なことを言ってしまいそうだった。
「15歳か…」
「何ですか」
「ううん、何でもない。そうだ、これ悟くんから預かってる誕生日プレゼント!多分碌でもないものだけど見る?」
「後で見ます」
「え?一緒に見ようよ」
碌でもないものをアンタと見られるわけがないだろ。五条さんのことだからどうせ下ネタ関係のものに違いない。あの人はそうやって俺を揶揄って面白がる悪い趣味を持ってる。
「そういえば、五条さん今年は来ないんですか」
「うん、なんかめっちゃ忙しいらしくて年末までバタバタなんだって。恵に会えなーい!えーん!って寂しがってたよ」
「いつもそんな感じでしょ、あの人」
丁寧に包装されたそれをそのまま受け取って傍に置くと、名前さんは確かにねぇと言いながら笑った。
「どうせえっちなDVDとかだと思うよ。悟くんアホだから」
「じゃあ尚更見たくないです」
「そりゃそうだよね、多感な時期だもん」
特に気にするでもなく名前さんはまた鍋の具材を掬い上げる。
柔らかく煮えた白菜の葉の部分をたくさん取るのが彼女のいつもの癖だ。しかしそこではたと名前さんの動きが止まった。
「…あ…!ああ…そうだ……プレゼント」
「はい?」
「恵のプレゼント!!寮に忘れた!!!!」
いや声でかいな。
しまったと言う顔で両手で頬を押さえながら明後日の方向を見て絶望する名前さん。
「別にいいですよ。つーかこうやって祝って貰ってるだけで十分です」
俺がもくもくと鍋を食いながらそう言うと、「良い訳ないじゃん!ちゃんと用意してたのに!」と頬を赤らめて焦るのが可愛い。動揺したのか炬燵の中で名前さんのつま先が俺の膝にぶつかる。
「あっごめん。…どうしよう、取りに帰ろうかな…でも遠いし…それだと今日遅くなっちゃう」
「だから別に良いですって」
焦って炬燵から四つん這いで出た名前さんの太腿に目を奪われる。スカートが捲れてスパッツが見えている。それはまあいいが、生脚の裏腿が目に毒だった。普段目にする機会がないそこに思わず目が釘付けになる。
ほっそりしているが、鍛えているだけあって無駄がなく締まっていて、なのに女性特有の滑らさもある白い裏腿。
…クソ、もうプレゼントとかどうでもいいからとりあえずそれを仕舞ってくれ頼む。
「でも…」
「そんなに言うならまた今度持ってきてください。取りに戻るの面倒でしょ」
「……」
しゅんとして名前さんは頷いた。ぺたんとその場に座り込み自分の失態を悔いているらしかった。
まあ確かに誕生日祝いに来たのにプレゼント持ってくるの忘れたら焦るだろうな。俺は別に名前さんと二人で飯を食えてるだけで十分嬉しいから何も気にしないけど。
「今度またご飯食べる時か、一緒の任務の時に持ってくるね…」
「ほら恵も歌って!ハッピーバースデートゥーユー♪」
「…祝われる人間が歌うもんじゃないでしょ」
「私のハッピーバースデートゥーユー(独唱)を聴きたい人なんかいないでしょ?一緒に歌おうよ」
「聴きたいので独唱してください」
「しょうがないなぁ…ハッピーバースデートゥーユー♪ハッピーバースデー…トゥーユー…♪ハッピーバースデーディアめぐみ〜♪」
何やかんやその後の名前さんはノリノリで、どこから持ってきたのか何故かサンタ帽子を被りながら小ぶりなホールケーキを冷蔵庫から取り出した。ケーキには『恵お誕生日おめでとう!』と書かれたチョコレートのプレートが乗っていた。律儀に15本細い蝋燭が刺してあるせいで見た目はややアンバランスだが。
それでも名前さんは懐から出したライターで楽しそうにろうそくに火をつけた。部屋の電気を消す徹底ぶりだ。
「ハッピーバースデートゥーユー♪はい、蝋燭ふーして!一息で消すんだよ」
「15本も刺してあるのに無理でしょ」
「出来る!諦めないで!」
名前さんに言われて渋々ろうそくを吹き消すと、名前さんは嬉しそうに笑った。
「恵誕生日おめでとう!この1年もよろしくね!」
「……はい」
「?」
「ありがとうございます。…その…嬉しいです。よろしくお願いします」
「照れてる!可愛い!」
「うるさ…」
俺が名前さんの目を見られずにいるのに、名前さんは何も気にしていない様子で包丁と平皿とフォークをそれぞれ二つ持ってきてケーキを切り分け始める。
苺がたっぷりと乗ったそれにさっきのチョコレートのメッセージプレートを乗せると、俺の前に置いた。
「恵を産んでくれた恵のお父様とお母様に感謝して、いただきます」
名前さんは手を合わせてそう言うと自分も切り分けたケーキをフォークで突き始めた。
誕生日のケーキを食べる時、名前さんは毎年このセリフを言うのに数年前気付いた。一体彼女がどんな気持ちでその言葉を口にしているのか、俺にはわかりかねる。
「え?もうみんな帰るか任務行っちゃったのー?誰か私を拾って帰れそうな人いない?!」
スマホを耳に当てながら名前さんが慌てた様子で誰かと連絡を取っているのがわかる。
俺は食べた皿を台所のシンクに運びながらなんとなく耳をそばたてた。
「…じゃあバイクか車で迎えにきてよ」
「……」
「場所?埼玉。最寄りは北浦見」
「…」
「えー!お願い!近いじゃん?だって今から帰ったらあの駅から暗い夜道を一人で歩かなきゃなんだよ?やだよぉ…寒いし。…あ"?彼氏いないの知ってんだろ、ムカつくなもう」
時刻は21時を回ったところで、確かに電車で帰るには高専は遠い。終電はあるが、スムーズに乗り換えても1時間半はかかるだろう。
なんとなく落ち着かない気持ちで名前さんの様子をそれとなく観察していると、名前さんはがっくりした様子でスマホから耳を離した。電話は終わったらしい。
「大丈夫ですか?」
「うん…いや、大丈夫じゃない。同級生に迎えに来てもらおうと思ってたんだけど断られたし、補助監督さん達も今出払ってるみたいで」
萎える〜と言いながら名前さんは頭を掻いた。
「はー…もうタクシー呼んで帰ろうかな…」
「あの」
俺は、何を。
「良かったら泊まっていきますか」
俺の自制が働く前に口から出た言葉に名前さんは目を丸くした後、迷うように視線を彷徨わせた。一瞬の沈黙が流れた後、名前さんが口を開く。
「いや、でも…悪いし」
「明日俺学校休みですし、別に迷惑ではないですよ。高専の最寄り着く頃には遅いですし、今日寒いし、夜道が心配です」
「…それはそうだけど…」
「泊まって行ってください、名前さんが良ければですけど」
まるで親切心から言ってるようなセリフに自己嫌悪だった。本当は泊まって欲しい。もっと一緒にいたい、と素直に言えたらどんなに良いだろう。でも言えない。そんなことを言ったら今のこの心地良い関係が終わってしまう。
「布団なら津美紀のがありますし、着替えも俺のか津美紀のを着れば良いでしょ」
「…じゃあ、お言葉に甘えようかな?」
駄目押しで俺がそう言うと、名前さんはそこまで言うならと了承してくれた。思わぬ幸運に胸が躍る。別に何か起こるわけでもないけど、明日の朝まで二人でいられる。
「恵明日、何も予定ないの?」
「どうせ任務入れられると思います。…無かったら津美紀の見舞いに行くつもりです」
「そっか。それなら良かった。もし任務なかったら津美紀のお見舞い、一緒に行っていい?」
「…はい」
「よっしゃ!」
名前さんはそう言うと、津美紀の布団借りるね!と言って津美紀の部屋へ向かった。
どくどくと心臓が早鐘を打ってうるさい。何を期待しているんだ俺は。
「本人に許可なく津美紀の部屋で寝るのなんか悪いよね」と言うので名前さんには居間に布団を敷いて寝てもらうことになった。
津美紀は名前さん相手なら気にしないと思うけど、確かに言わんとしていることはわかる。
端に寄せられた炬燵の傍には名前さんの制服が綺麗に畳まれている。
俺が名前さんの後に風呂から上がると、名前さんは疲れていたのか照明を付けたまま居間に敷いた布団の上で眠ってしまったようだった。
任務爆速で終わらせてきたって言ってたもんな。用意していたプレゼントを忘れてくるくらいだし、本当はかなり無理をして来てくれたのかもしれない。もしそうだとしたら、正直言うとかなり嬉しい。
俺が貸した俺のジャージを着て目を閉じて横になっている無防備な姿に目が離せない。
身長は俺が抜かしてしまったし、身体も名前さんの方が細身で小さいせいで服のサイズが合わず、胸元以外はぶかぶかだった。
「……」
起こさないように、と静かに居間の照明を消す。
離れ難くてそのままじっと名前さんを見つめていると、小さく身じろいで寝返りを打った。が、起きない。
体勢を変えたせいで名前さんの着ているジャージの隙間から鎖骨が覗いていて、ごくりと生唾を飲み込んだ。
サイズが合わず襟が顎に当たるからだろうか、ファスナーを少し下げているせいで胸元がいつもより見える。普段きっちり着込まれたブラウスに隠れたそこが露わになって目が離せなかった。
頭ではダメだとわかっているのに、身体が勝手に動く。名前さんの枕元に膝をついて見下ろす。やめろ。ダメだ。見るんじゃねぇ。
「名前さん」
きっと寝入ってるから俺の声は聞こえない。すやすやと気持ち良さそうに眠る名前さんに顔を寄せる。
ダメだ、触るな。
頭ではいけないことだとわかっているのに、気付いたら名前さんの髪に触れ、滑らかなその頬を撫でていた。
「…っ」
この人のことが好きだ。
だからこそ俺と二人の家で平気で風呂に入り、平気で眠りこけて、何の警戒もされていないのがどうにも腹が立つ。
俺を"男になった"と言ったくせに、名前さんは17にもなるのに自分が女だという自覚がない。俺に襲われるなんて、きっと夢にも思わないんだろう。
固く閉じられた瞼を見れば、長いまつ毛が目に入る。五条さんほどではないがしっかり生え揃った綺麗なまつ毛と、色の白い肌に目を奪われる。定期的に顔を合わせる仲とは言え、こんなに近くで彼女の顔を見たのは初めてだった。…綺麗だ。
…俺のものにしたい。他の誰にも奪われたくない。
素直にそう言えば、この人は俺の気持ちを受け止めてくれるだろうか。…俺を貴方のものにしてくれるんだろうか。
何十回、下手したら百何回目の自問自答に俺は小さく息を吐いた。
「誕生日プレゼント、まだ貰ってないんで…良いですよね」
眠っていて聞こえていないとわかっているけど、まるで罪滅ぼしのようにそう呟く。名前さんの顔の横に手をついて自分の顔を寄せた。
起きるな、眠っていてくれ、と心中強く念じる。精一杯の自制と僅かな理性で、名前さんの瞼に口付けた。
「…好きです」
まだ起きない。と言うか起きる気配もない。
それを良いことに、額に唇を寄せた。次は頬に。もう一度瞼に。首筋に、耳に。
「名前さんのことが好きです」
唇に…と一瞬考えたがどうしてもそれだけはできなかった。それをしたら、もう止まれなくなると思う。それはいつか俺の気持ちに彼女が応えてくれた時に。その日が来ると信じて。
せめて、と無防備な口角に唇を寄せる。
ちゅ、とわざと音を立ててもう一度口角にキスをすると、名前さんの髪を撫でた。
「おやすみなさい」
いつかこの想いを打ち明けるときに、貴方も俺と同じ気持ちでいてくれたらいいのに。
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伏黒恵くんお誕生日おめでとう!!
一生推します!幸せになってね!
(恵の両親に心から感謝してケーキ食べてるのに、本編で恵パパにボコられて殺されかけてラリって覚醒したのよく考えたら笑えねぇ)(でも幸せならOKです)
20241222
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