「ちょっとモタモタしすぎなんじゃない?懸賞金に食い付いてきた呪詛師も大したことない奴等ばかりだし、全然五条悟のこと削れてないじゃん。伏黒恵ものんびりしちゃってさー、やる気あんの?」
「…もう少し遊びを持たせよう」
「夏油…俺もう出ちゃっても良いんじゃない?」
「………」
「わかってるわかってる。殺すな、でしょ?ねぇ殺さなかったらあの女どんな形にしてもいいよね?」
「自分の恋人が原型留めてなかったら誰でも嫌だろ。ほどほどに。顔と身体、見た目と脳は大きく変えないでくれ」
「はあ?つまんなー」
「それに今回の護衛、虎杖悠仁もついていることを忘れないでほしいな。彼は君の天敵だろ?」
「…ああ。虎杖は絶対に殺す」
「もしもの話だけど」
「あ?」
「もしも、宿儺が君に何か干渉してきたら、それには応じた方が良いよ」
「…何で?」
「その方が後で面白いことになる」










「悟くんの作戦、効果覿面だね」

名前さんの言葉に釘崎が頷いた。今回も五条先生の独壇場だ。
五条先生は俺達が無事東京駅に着くまでの間に、懸賞金目当ての呪詛師を48人、文字通り倒した。これは俺が知ってる限り、昨年の百鬼夜行を除いた場合の最多記録タイだと思う。

「1億の端金で名前さんを捕って五条悟から逃げるっていう無謀な挑戦に挑んだ呪詛師が48人もいることに驚きですよ」

呆れて俺がそう言うと、隣にいる名前さんが車両の前方を眺めていた。五条先生が立っている傍に山のように積まれた呪詛師の数たるや。

五条先生の護衛プランはこうだった。
まず新幹線の最後尾の車両を丸ごと貸し切る。そこに俺達全員が乗り、前方車両から押し寄せる呪詛師を迎え撃つ、というものだ。

名前さんが京都や大阪にいたことは1億の懸賞金が掛けられた時点で情報として既に出回ってしまっていたから、東京へ戻る新幹線での移動の際に呪詛師達が結託して一斉に狙われる可能性が高いのが一番の問題点だった。狭い車内では一般人をも巻き込み兼ねない。恐らく各駅で呪詛師は待機している。それら全てを掻い潜って逃げるのは正直難しい。
だったら全員倒す前提で動けばいい、というのがこのプランだ。
京都で20人、名古屋で11人、新横浜で17人。五条先生ほぼ体術と無限だけで倒してしまった。

「俺、人の縛り方もう完全に覚えたかも」
「いいね。今後もきっと役立つよ」

虎杖の言葉に五条先生が目隠しをずり下げながら笑いかけた。そんなもの役に立たないに越したことはないだろうが、呪術師としては知っておくべきだろうな。
五条先生が倒した呪詛師を俺達一年生で縛り上げて、拘束の呪符や名前さんの鎖を使って車両の端にどんどん積んでいく。全員気絶しているのでぴくりとも動かない。圧巻の光景だ。…ところで五条先生はこれを高専に連れて帰って全員拷問にかける気なんだろうか。

「……」
「名前さん?」

満足げな五条先生に反して、名前さんはホテルでの強襲を受けた時から何となく浮かない顔だった。今も何か考え込むようにぼんやりと車内の様子を眺めている。心ここに在らずとまでは言わないが、いつもの彼女ではないのは確かだった。

「どうかしましたか」
「……うん」

俺の問いにもはっきり答えない。何を考えているんだ、一体。

「…ちょっと考え事」









「おかえり」
「九十九さん」

その後も五条先生のお陰で呪詛師は撃退でき、無事に高専まで辿り着くことが出来た。既に天元様の結界内部にいるから、今後呪詛師が侵入した場合等の異常はこちら側で即座に感知出来る。一先ず安心だ。
にも関わらず、五条先生はまだ警戒を怠っていないらしく、目隠しをずらして鋭い眼差しで辺りを見ていた。これも過去の失敗から来るこの人なりの学びなのだろうか。

そんな俺達を出迎えたのは、金髪長身の女性だった。

「さすがに五条くん。同じ轍は踏まないね」
「…嫌味?」
「ふふ、そんなつもりはないよ」

女性の言葉に五条先生が気だるげに彼女を少しだけ睨んだ。俺でも名前と顔は知ってる。特級術師にも関わらず、一切任務を受けずに半ば独立して活動している自由奔放な人で有名だ。その皺寄せが五条先生にいってるわけだが。

「特級術師の…」

俺が思わず声を上げて彼女を見ると、彼女と目が合った。例に漏れず名前さんの荷物持ちをさせられている虎杖はきょとんとしているし、釘崎もピンと来ていないらしい。

「うん、そう。九十九由基。君、伏黒恵くんだね」
「…どうも」
「ところで君はどんな女がタイプ……あ、聞くまでもないか」

九十九さんのこのフレーズが東堂と似ていて一瞬イラッと来たが俺は黙っていた。繰り返すが、相手は特級術師だ。
それにしても上層部と折り合いの悪い彼女が何故高専に、と思っていると九十九さんは俺の肩を叩いて小声で耳打ちした。

「後で時間をくれる?君に少し話がある」

話?
俺が黙って反応できずにいると、五条先生が「九十九さーん、恵に変なモーションかけないでよー?」と頭を掻いていた。

「九十九さん、昨日はどうも」
「ああ、美味しかったね中華。また食べに行こう」
「…はい、また…」

名前さんも九十九さんと面識があるらしい。昨日、ということはもしかして名前さんが出て行った時に保護していた術師ってこの人か?

「たまには僕の代わりに任務一個くらい受けてくんないかなぁ」
「ははは、すまないね。私はこう見えて多忙なんだ」
「僕もとっても多忙でーす。休みが欲しいでーす」
「有給とかあるんじゃないの?よく知らないけど」
「あったとして僕が取れるわけないっての」
「可哀想に…」
「なぁ五条先生、この後どうすんの?」
「ん?部屋に戻って荷物置いて、また教室にきて。明日の護衛のミーティングをするよ」










「で、何でまた九十九さんがいるんですか?」
「なんていうんだっけ?こういうの。授業見学?」
「教職のときあったなぁ、そんなの」

言われた通りに荷物を置いて教室へ行くと、既に俺の席の隣の机に名前さんは腰掛けており、五条先生は教卓の側の丸椅子に座って長い足を投げ出していた。名前さんの後ろの席には何故か九十九さんが腰掛けて、楽しそうに笑いながら頬杖をついている。

釘崎も虎杖もまだ来ていない。俺は黙って自分の席に着くと、ちらりと名前さんを見た。
相変わらず浮かない顔というか、何か考え事をしているらしく、髪を一房摘んでいる。

「名前さん」
「…ん?」
「椅子に座ってください」
「やだ」

足をぶらぶらさせて俺を見下ろす名前さん。短い丈のスカートから太腿が覗いている。俺はもう慣れたが、五条先生がニヤニヤして見ているのでやめてほしい。

「明日どうするんですか」
「…どうしよっか。デートでもする?」
「……」

首を傾げて俺に問いかける名前さんに、言葉に詰まった。多分俺の提案を待ってるということなのだろう。俺が彼女を救う手立てを。

「仲良しだねぇ」

それをわかっているのかいないのか、九十九さんが頬杖をついたまま俺と名前さんを見比べている。五条先生は誰かから連絡が来ているらしく、スマホを弄っていて今のところこちらには無関心のように見える。

「…はい」

名前さんが何も応えないので代わりに俺が九十九さんに返事をすると、彼女は片目を閉じて笑った。

「なら尚更、明日は二人でデートがいいんじゃない?ここ数日バタバタだったんだろ?」
「それはそうですけど…」
「出来れば五条くんの護衛なしで、二人で過ごしたいところだよねぇ?」

九十九さんが俺を見ながら意味深にそう笑いかけてくる。
…最初は揶揄われているのかと思ったが、どうにもそれだけじゃない、何らかの意図を俺は彼女から感じていた。

「それはダメ。恵だけで対応しきれないかもでしょ」
「厳しいな。以前は若人の青春は何人も奪えないって、五条くんが言ってたんじゃないか」
「状況によるってことだよ」

五条先生はスマホを仕舞いながら長い足を組み替えて俺達を見た。

「…恵が滅多なことを考えないとも限らないし」
「別に俺は何も」
「ならいいんだけど」
「ふふふ」

俺と五条先生のやり取りに九十九さんは愉快そうに微笑んだ。名前さんは目を伏せてやはり考え事をしている。 

「お!もうみんな揃ってる!遅れましたすんません!」
「九十九さんもいるんですね」
「気にしないでよ」

ちょうどその時に虎杖と釘崎がやってきて慌てて席に着いた。二人は九十九さんを不思議そうに眺めるが、すぐに五条先生に向き直る。
五条先生は椅子に座ったまま頭の後ろで手を組んで天を仰いだ。

「さて、じゃあ明日のプランだけど。どうしようかな。名前、何かやりたいことや行きたい場所はある?」
「……」
「なければ、僕としては高専にいて欲しいかな。懸賞金もまだ取り下げられていないし、名前をこれ以上危険には晒したくない」
「…うん、わかってる」

名前さんは頷くと少しだけ考えるようにまた髪を触って、五条先生を見つめた。

「…明日は高専にいるようにするよ」
「…そう。それがいいね」
「本当にいいの、名前さん?」

虎杖の問いに名前さんは小さく頷いた。俺は黙ったまま、自分の席の机を見つめる。彼女が決めたことにこの場で俺がどうこう言う筋合いはない。何より、この場で五条先生に俺が計画している動きが知れる方が問題だ。

「それなら、一年生の護衛任務は今日で終わり。明日は僕が着いているようにする。それでいいね?」
「うん」

名前さんはまた頷いた。









「私が五条くんを止められるのは、良く見積もって5分ってとこかなぁ」

一年は教室で解散、五条先生は引き続き名前さんの護衛となった。五条先生と名前さんが退室したのを確認して、俺も部屋に戻ろうとしたところ、九十九さんに声をかけられ、今彼女と二人で空き教室にいるわけだが。

「…あの、何の話ですか」
「え?だから君と彼女にあげられるチャンスタイムの話」
「……」
「何か策があるんだろ?問題は五条くんが邪魔になるってことだよね。だから私が手伝ってあげる。…5分とは言ったけど正直そんなに止められるかはわからないけどね!状況によるし、例えば五条くんが領域展開の直後で術式焼き切れてたら5分はイケるけど、万全でブチギレてたりする状態だと3分も保たないかも!ははは!」

何故そんな提案を、と言葉を繋げないでいる俺に九十九さんはまたも快活に笑う。

「だから可能なら、五条くんに領域展開を使わせた後に私にぶつけて欲しいな。どう?」
「どうって…」

この人は何故、俺に協力する気なんだ?
ほぼ面識のない俺と、名前さんを助けるために五条先生と殴り合う覚悟でいるってことだよな。それってつまり五条先生の気分次第でほぼ確実に死ぬってことだぞ。

「…何故、俺に加担するんですか」
「理由が必要?」
「はい」

九十九さんは「んー」と顎に手をやりながら廊下の方を見た。
人の気配はしない。が、多分五条先生を警戒しているのだと思う。この話自体、あの人の耳に入るのは厄介だ。

「私には彼女の気持ちがよーくわかるんだよ。彼女の人生の苦しみがね。だから、救えるなら救ってあげたい。無駄死には必要ない。天元は彼女との同化を望んでいるが、別に今そんなことする必要ないわけだし」
「必要ない?」
「…天元の本当の目的を聞いていないんだね。五条くんのことだからそうだろうとは思ってたけど、君は知っておいてもいいと思うよ」

本当の目的?
そんなの俺は何も聞いていない。名前さんも五条先生もそれを知ってるのか?
ぐっと拳を握りしめて九十九さんを見つめると、彼女はにやりとまた笑みを浮かべた。この人の目的は何だ。俺を唆して何を企んでる?

「目的は二つある。一つは交流会を強襲した呪霊の炙り出し。もう一つは彼女自身の存在の抹消」
「…存在の、抹消?」
「そう。前者は言わずもがな。君も薄々気づいてるだろう?テーマパークで使われた帳は、五条くんにだけ作用するものだったらしいね。だからこれはビンゴ。でも後者はさすがに君も知らないかな」

九十九さんは机にどかりと腰掛けると足を組んで窓の外を眺めた。長い金髪が揺れる。
俺は立ち尽くしたまま、彼女の次の言葉を待った。

「天元は彼女を恐れてるんだよ。だから消したい。自分の一部にして、彼女という脅威をこの世界から取り除きたいと思ってる」

脅威?名前さんが?

「名字家の子女に覚醒する相伝の術式は、構築術式に付随する形で他者を支配する特殊なものだと思われてる。…だが実際は全く違う。あれは人や物、呪霊を洗脳して支配する術式だ」
「……は?」
「難しい呪力操作を求められるらしいから、相伝が刻まれていても必ず使いこなせるわけじゃない。ただ、彼女、反転術式を使えるようになっただろ?」
「はい」
「敢えて言うならそれが最大のトリガー。まあこれ以上は彼女の許可なく私がベラベラ喋るのはNGだから、詳しく聞きたいなら本人に聞きな?とにかく天元はこの力を恐れて、彼女を疑ってる」

確かに名前さんは物や人に直接触れるか、自らの呪具を介して簡易的な命令や服従を強要させることが出来るのは知ってる。
交流会ではそれで特級呪霊と戦っていたし、反転術式が覚醒した時も詳細はよくわからないがそれの応用らしき技で呪詛師を倒していた。
だが洗脳?名前さんのことを天元様が疑うとは、

「彼女はずっと隠してきたみたいなんだけど、とうとう天元が気付いた。恐らく交流会でトラブってる最中に、彼女が天元の結界内部で術式を使ったから仕組みに勘付いたんだろう。天元の結界の中でアレを使うのは悪手だったね。でも手負の君を守る為に彼女も必死だったろうし、仕方なかったんだと思う。少しくらいならバレないという驕りもあったかも」
「……」

交流会?名前さんが術式を使った時?
…あの時確か、俺は植物の呪霊に種子を埋め込まれて動けなくなったはずだ。そこで俺と真希さんの代わりに、東堂と虎杖が到着するまでの間名前さんが戦っていた。

『"倍速で戻れ、游雲"』

まさかあれが?

「もう一度言う。天元は彼女の術式を恐れて、彼女を疑っている。宿儺の受肉、交流会で盗まれた呪物、更にはこの状況下での反転術式の会得…タイミングが良すぎるからね。だから彼女を抹消したい。彼女が星漿体の中でも下位の適合性しか持たないにも関わらず、奴が今回同化を推し進める理由はそれだ」
「…名前さんは善人です。人を洗脳して支配して、悪事を働くような人じゃありません」
「わかるよ。だが天元はそう思ってない」
「…でも」
「例えばだけど、君が彼女を好ましく思う気持ちが、嘘偽りのない本心であると君は君自身だけで証明できる?」
「は?」
「君はもしかしたら彼女に洗脳されて、名字名前のことを好きと思い込んでいるだけかもしれない。彼女はそういうことをやろうと思えばできるってことだよ」

俺が九十九さんを睨むと、彼女は両手をあげて態とらしく首を振った。
あの人がそんなことをするわけない。俺の気持ちは純粋なものだ、操作されたわけがない。俺はずっとあの人のことが好きだった。
気のないふりをして俺を翻弄する彼女を追いかけていたのは俺で、それは紛れもない事実だ。
何より、本当に彼女がこの気持ちを洗脳して作り出したのだとしたら目的は何にせよ俺達はもっと早々に恋人になっていたはずだ。

「…だから天元様は、名前さんを世界の脅威と見做したってことですか」
「そうなるね」
「…」
「事実、そんなことは起こらないと思うよ。彼女の術式を解く方法がないわけじゃないし。何より彼女は五条くんの庇護下にいた。上層部との交渉で本来の目的としては庇護、ではなく監視下といったところだけどね。…だが天元はこの前の交流会の特級呪霊達と彼女が繋がってる可能性を危惧してる」
「そんなわけないでしょ」
「うん、ないと思う。だからこの話の主語は全て"天元"だって言ってるんだ。彼女は忌庫に侵入した盗人を見逃した。君も聞いてるだろ?宿儺の指が盗まれたこと。…五条くんの指示に従っただけだし、彼女自身少なからず混乱していたのもあるだろうけど、あの日の彼女の失態は大きい。天元が疑っても仕方ない」
「……そこまで考えが及んで、何故九十九さんは俺の手助けをしようと思うんですか」
「言っただろう。私には彼女の気持ちがよくわかるんだ」

九十九さんはそう言って立ち尽くす俺にもう一度微笑んだ。

「…星漿体は候補者も含めてどうせ碌な死に方をしない。…彼女は君の言う通り善人だ。これ以上、説明がいるのかい?」











考えるのは明日の予定と宿儺の言っていたツギハギ呪霊のことだ。九十九さんの協力が得られる以上、俺はそこに賭けるしかないと思っている。

交流会で強襲を仕掛けてきた連中とツギハギに関連があるかは正直わからない。だが前者はユニバでの"五条悟だけを閉じ込める帳"を使ったことから、今回こちらに干渉しようとしているのは間違いない。そこは天元様の読み通りだ。
一番の問題は宿儺の言っていたツギハギがそう上手く現れるかどうか。

「…虎杖に連絡しておくか」

前回ツギハギと直接ぶつかったのは虎杖と、1級呪術師の七海さんだ。確か五条先生の後輩で信用できる人物だと以前名前さんも五条先生も太鼓判を推していた。
明日名前さんをどこかのタイミングで連れ出して高専の結界の外に出るなら、虎杖も一緒に連れて行くべきだな。じゃなきゃツギハギが来ても宿儺の介入が見込めない。立ち回りを知っているなら七海さんも来てもらえる方が助かるが、さすがに無理か?
虎杖に協力を仰ぐメッセージを送ったその時、コンコンと部屋のドアがノックされる。
既に時刻は夜の21時だ。

「はい」

俺が返事をすると、名前さんがドアを開けて黙って入ってきた。突然の来訪に驚いていると、彼女は黙って俺の腰に抱きついて来る。
すぐにその背中に腕を回すと、名前さんはぐりぐりと頭を俺の肩に押し付けた。

「…どうしましたか」
「……」
「名前さん?」

明らかに様子のおかしい彼女に俺が動揺していると、名前さんは顔を赤くして俺を見上げた。
可愛い、と声に出そうになるのを何とか抑えた瞬間名前さんは恥ずかしそうに声のボリュームを上げた。

「恵と二人きりになりたかったの」

なん…だそれ…可愛い…。

「くっつかせて」

べったりと俺に甘えるように腰に腕を回して擦り寄ってくる姿がまるで子猫だか子犬だか、とにかく愛らしくて俺は黙って頭を撫でた。

「五条先生は」
「…恵とえっちするから1時間だけちょーだいって言っといた」
「…」
「する?」
「するに決まってる」
「1時間で終われる?」
「多分終われない」
「…それは困る」

五条先生の監視の目が1時間も外れることに驚きだが、考えて見れば今日は同化直前の夜。二度と会えなくなる俺と名前さんの最後の逢瀬と思えば、五条先生が許可することも有り得る。…まあ黙って虎杖の部屋に押し入って見てる可能性もあるが。

俺が名前さんの部屋着のジャージのファスナーを下ろしながら耳に口付けると、名前さんが俺の腰にしがみつきながらきゅ、と服の裾を握った。

「ねえ、恵の作戦おしえて」
「…」
「知っておきたいの。じゃなきゃ私も動けない」
「…名前さんの魂の形を変えます」

俺の言葉に名前さんは顔を上げて俺を見上げた。真剣な表情で耳を傾けている。

「…虎杖くんが当たったツギハギ呪霊?」
「はい。虎杖の協力が必要なので、明日どこかのタイミングで三人で高専を出ます」
「…悟くんのことはどうする?」
「九十九さんが止めてくれる」
「……ふーん」

がぶ、とまた耳に噛み付きながら俺がそう言うと、名前さんは考えるように目を細めながら俺の愛撫を黙って受け入れていた。

「勝算あるんだよね?」
「一応」
「そうか。うん、ならいいよ」

背中に手を回して下着のホックを片手で外すと、名前さんが俯いて反応する。

名前さんが頷いた瞬間、壁掛け時計の針がかち、と進んだ。21時30分。
続きをしようと彼女の下着に手を掛けたところ、耳を劈くような破壊音が聞こえて俺と名前さんは外に目をやる。何だ?!
名前さんは即座に下着のホックを付け直すと、ジャージの前を閉めた。俺も掌印を結んで渾を出すと部屋のドアを開けて廊下へ出る。渾が吼えている。ってことは呪霊か呪詛師か?

「虎杖!」
「応!」

隣の部屋からパーカーを着た虎杖が飛び出してきた。

「渾吼えてるから敵だよな?!」
「ああ、逃げるぞ。虎杖も一緒に来てくれ」
「わかった!」






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