「ラブホじゃん」
「ラブホだね」
露骨に嫌そうに睨む名前に、僕はニヤニヤとした笑みを禁じ得なかった。
渋谷で恵とデート中の名前を無理に連れ出して任務の資料を車内で見せた時は、場所が宿泊施設としか書いていなかったからね。
「しかも絶賛営業中だよ」
「…」
今回名前と僕が担当する任務はこのラブホテルにいる呪霊を祓うことだ。まあ、こういう施設って男女の念がいろんな意味で強いから、呪霊も生まれやすいんだよね。
「さっき朝イチでどうとか言ってなかった?」
「そう言わないと今来てくれないでしょ」
「…」
「恵とデート邪魔してごめんね。もっと一緒にいたかったんでしょ?」
僕が冗談めかしてそう言うと、名前は途端に黙り込んで何か考えるように顎に手を当てた。
あれ?怒らないんだ。揶揄わないでよーとか言うと思ったのに。
「そんなこと……別に…」
そう言う彼女はどこか上の空で、特に恥ずかしがるでも怒るでもない、あまり僕が目にしない姿だった。また何か心境の変化があったね。
煌びやかで、だがどこかチープな装飾と無人のフロントはラブホならではだ。僕が迷わずエレベーターに向かうと、名前は渋々ついてきた。
「私が一緒じゃないとダメってそういうこと」
「カップルで来る場所に男一人で来ても出てこないでしょ」
「確かに資料には"利用中"に襲われるって書いてたね」
「そ、だから僕らも"利用"しなきゃ」
階数のボタンを押して扉を閉めると、からかい半分で名前の肩を抱いてみる。即座に嫌そうに手を押し退けられた。うん、正しい反応だ。
小さい時から名前のことは知ってるけど、こう見るとデカくなったなと思う。え?勿論背丈の話だよ。
僕と並んで立っていても例えば恋人と言えばそう見えなくはないだろう。
「他に誰かいなかったの?悟くんも彼女くらいいるでしょ」
「任務だからね。彼女とか巻き込みたくなくない?他の女性術師は今出払ってるし、18才未満の野薔薇や真希は利用したら流石にマズイでしょ」
「……」
我ながら最もな理由だと思う。
正直、僕は別に名前のことを恋愛対象として見ているわけではない。本当に今回は適任者が彼女しかいなかった。任務は任務だ。
まあ後は面白半分ってとこだけど、どこまで揶揄って許されるかは試してみたいところではある。
「着いたよ」
部屋番号を確認してドアを開けると、普通のビジネスホテルよりも広い室内に名前は目を丸くした。
初めて来たんだよね、多分。彼氏がいたことは知ってるけど、彼女は別に性に奔放なタイプではない。
「広…」
「ラブホだからねぇ」
「やめて」
わざと目隠しを外して耳元で囁くと、ぺち、と頬を叩かれた。全然痛くない。部屋を一通り見て回るが今の所、呪力は感じられない。
「本当にいるの?」
「いるんでしょ、6人も死んでるんだから」
「…気配ないけど。条件付きで出てくるやつかな」
「かもね。とりあえずシャワー浴びてきな」
「え?何で?」
「利用しないと出てこないなら、僕らもある程度はこの部屋を利用すべきだと思うよ」
「……」
じとっとした目で名前に睨まれる。
覗かないでよ、と言われてハイハイと適当に頷くと、仕方なく名前 はバスルームへと消えた。
僕の予想だと多分バスルームには出ない。6人とも死んでた場所はベッドの上だったから。
僕は伸びをして上着を脱いだ。まさか生徒と任務でラブホに来るとはね。自分でも思っていなかったけど面白いことになったな。
…このこと恵が知ったらめちゃくちゃ怒るだろうなー。いつかどこかのタイミングでバラして嫉妬で狂わせてやろー。
恵が名前にベタ惚れなことは僕も知ってる。
あいつ可愛いんだよ、反抗期バリバリの小学生の時に初めて名前に会ってから、僕と顔合わせる度に「名前さんとの任務なら行ってもいいです」とか言うからね。わかりやすすぎ。で、名前に彼氏がいたことを知った時は露骨にショック受けて固まっててそれも笑ったよね。
当時尖りまくっていた恵はその名前の彼氏が名前の多忙さのあまり疎遠になった瞬間、他の女と浮気をしていることを知った時は裏でボコボコにしてたし。まあそんなこと名前は何も知らないし興味もないんだろうけどさ。
「ちょうど良いか」
そしてあの二人に何か動きがあったことも、さっきの様子を見てすぐにわかった。名前はわかりにくい…というかいつも通りだけど恵はわかりやすい。
真希から「交流会でやけに恵がやる気だ」と言ってたからその関連だろう。
交流会で東京校が勝てば、きっと恵にとって何か良いことがあるに違いない。名前関連のことで。あー楽しみだなー。
それはさておき、室内をくまなく六眼で見回す。やはり何も感じない。
…やることやってたら出てくるか。
名前がやらせてくれるかの問題の方が大きいけど。
「…お先」
「んー」
髪をタオルで拭きながら、名前が浴室から出てきた。温まったせいか少し赤く上気した頬に、カップ付きキャミソールの上から備え付けの薄手のガウンを羽織っているらしい。
えっろー、と思ったが口には出さなかった。言い方悪いけど全然抱ける。でもいきなりそんなことしたら僕と名前の関係が終わるので平然を装った。
敢えて僕は彼女に一度も触れてこなかった。
何故なら彼女は優秀な術師で、有事の際"僕に"ついてくれる大事な仲間だから。
「悟くん、何かわかった?」
「ううん、何も。バスルームは大丈夫だった?」
うん、と名前は短く頷いた。だろうね。
「僕も入ってくるよ」
「え…」
「まあゆっくりしてて」
シャワーを浴びて部屋に戻ると、名前は落ち着かない様子でソファに腰掛けてフードメニューを見ていた。
「まだ食べる気ー?」
「違うよ、こんないろいろサービスあるんだなって見てただけ」
「コスプレとか玩具とか?寮だと出来ないだろうね。せっかくだから試してみる?」
「…悟くん」
「ごめんごめん」
僕も髪をタオルで拭きながら彼女の横に座った。さっきのガウンを脱いで僕が持ってきたTシャツを着てしまっている。残念。えろかったのに。
既に乾いた名前の髪を一房捕まえて弄んでいると、じ、と上目遣いで見上げられる。
「…なに」
「出てこないなーと思って。呪霊」
「…確かに。どうする?」
「このまま泊まっても何も起こらなさそうだし、やるか」
「何を?」
「ラブホに来て男女がやることって一つじゃない?」
「え」
名前の足と背中に腕を回して抱き上げると、びっくりした様子で目を丸くしている。
はは、可愛い。
そのままベッドに名前を投げると、僕も覆い被さった。
「いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って」
「うん?」
「悟くん、本気?」
「本気というか任務だからね、こうしないと出てこないならやるしかないよ」
「……」
顔を赤くして固まる名前。
嫌がることも忘れてしまったらしい。
「別に最後までしなくてもいいよ。途中で呪霊出てくるかもだし」
「…」
名前は黙って僕を見つめた。恐らく高速で頭の中でいろんなことを考えているんだろう。そういう顔をしてる。
僕はと言えば正直どっちでもいいので、名前が動かないのを良いことに彼女のTシャツに手をかけた。キャミソールからちらりと覗く胸が思っていたよりも育っている。
ふーん。Eカップくらいか?恵がこれ見たら鼻血出して倒れるんじゃない?ムッツリだから。
「淫行教師だ」
「それ以前に最強の呪術師さ」
自分でもズルいよなぁと思う。名前は可愛い妹みたいな存在だ、勿論本気で手篭めにしようなんて微塵も思ってない。
これは好奇心だよ。ちょっとしたゲームみたいなものだ。
どこまでなら彼女に許されるのか。どこまで僕は楽しめるか。
「ヤダ」
「何が」
「悟くんとしたくない」
「……」
へー、じゃあ誰とならしたいわけ?
明確に拒否されて少しムカついたのでこっちもちょっと無視してみる。僕はご覧の通りモテにモテてきたので、こういう状況で女性に拒否されたことはない。
名前のTシャツを捲り上げてキャミソールの肩紐に指を引っ掛ける。キャミソールが持ち上がって引き締まった白いお腹が見えた。
…えろいな。
「悟くん、本当に、」
涙を目にいっぱい溜めてうるうるさせてる。可愛い。やっぱり食べちゃおうかな、なんて思いながら顔を近づけた。キスくらいならいいか?
唇同士が触れそうなほど近付くと、名前はぽろりと涙を溢して僕の口を押さえた。
「…イヤ」
「…」
「ごめん、本当に好きな人としかしたくない」
「ふーん。じゃあ今誰のこと考えてたの」
「…っ」
「教えて」
わざとらしく耳元で囁いて、べろ、と耳たぶを舐めると名前は顔を赤くして目を逸らしている。案の定、僕のことは好きじゃないらしい。残念。…泣かせたの久しぶりかもな。
腰を持ち上げてずる、とズボンを脱がせると、薄ピンクのショーツが丸見えになった。僕とキスするのはイヤな癖に、パンツは見られてもいいらしい。まあ途中まででもやらないと呪霊出てこないっぽいしこれは仕方ないけど。
「ねえ、誰のこと考えてた?」
意地悪く耳元でもう一度そう囁くと、名前は唇を噛んで首を振った。だが僕が身体に触れることには抵抗しない。普通逆だろ、と思うが名前らしいとも言える。
そう、この子はこういう子なんだよ。
「言わない」
「当てていい?」
「ダメ」
それもダメ?
どうせ恵のことでしょ?
それくらいお見通しだよ、僕のことを侮らないでほしいね。やれやれとキャミソールの肩紐にを引っ張って遊んでいると、今度は名前が僕の身体に触れた。
「あれ?今嫌がってたくせに。名前のえっち」
「悟くんの方がえっちでしょ」
答えずに今度はTシャツを脱がせてちゅ、と胸元に吸い付いた。鎖骨から胸にかけて白く柔らかい肌に夢中になりそうだ。
ちゅ、ちゅとしつこく胸にキスをしていると名前は僕の頭を撫でた。気を良くした僕はそのまま、鎖骨の少し上に噛みついて赤い痕を残す。ちくんとした痛みに名前は眉を顰めた。
呪霊はまだ出てこない。
名前も同じことを考えていたのか、じ、と辺りを見回している。
「…ねえ、どうする?全然出てこないよ」
「もうちょっとするしかないよね」
「…もうちょっとって…?」
「だから、もうちょっとやらしいことするしかないじゃん」
「え、ちょっと……悟くん?」
そっちが嫌なら僕が脱ぐしかないじゃん?
仕方なく着ていたシャツや下着を脱ぐと名前はびっくりして僕の股間を凝視していた。見過ぎ。
「でっか…。え?これ通常の?平時のサイズ?」
「平時のサイズだよ。さっき拒否られて萎えたから勃ってないよ」
「ええ……うわ…こんなエロ漫画みたいな巨根本当にあるんだ」
いやお前今までどんなエロ漫画読んできたの?
「まあ僕最強だから。ちんこも最強なんだよ」
「全然かっこよくない」
なんて言い出した瞬間、室内に呪力が満ちて即座に起き上がる。ちんこじゃなくて名前がね。
「悟くん!」
裸のまま赫で呪霊を貫く。が、一体じゃない、他に6体いるな。ここで死んだ被害者の呪霊だろう。
起き上がった名前は四肢に呪力を溜めて即座にその6体の呪霊を殴る蹴るで祓っていた。さすが。
他にもう呪力は感じないし、ここの呪霊は全部祓えた。
「まさか僕がちんこを出した瞬間に出てくるとはね」
「あーほんとキツイ任務だった…精神的に。もうやりたくない」
名前はそそくさと着替え始めた。脱がされて多少恥じらってたくせに、自分から脱いで着替えてるところを僕に見られるのは平気らしい。
相変わらずその辺の観念がぶっ壊れているな…僕が言うのもなんだけどさ。
「そんなに僕とするの嫌だった?!ちょっとショック」
「そりゃそうでしょ。恋愛対象外だもん」
「えーん、ひどーい。教師と生徒、親戚のお兄ちゃんという立場からの禁断の恋が芽生えて目眩く展開に……みたいな可能性もあったかもしれなかったのに」
「どんな展開?AVの見過ぎじゃない?」
冷めた目で名前は僕を見ると、小さくため息を吐いた。
「それと、さっさとパンツ履いてくれる?」
「あ」
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