「久しぶりだな名字名前!」
「フルネームで呼ぶな」
「高田ちゃんの限定アクキー購入助かった!礼として今日の代々木のイベント、お前の分のチェキ券も既に手配済みだ!行くぞブラザー!」
「行かないし」
任務から戻ると「珍しい来客ですよ」と伊地知さんに言われ、応接室に顔を出すと東堂がいた。
相変わらずの一方通行な発言と、何故か私と高田ちゃんを引き合わせたがるところが堪らなく嫌。無視したい。
「明日から交流会なんでしょ?そんなんしてて良いの?」
「そもそも高田ちゃんのために前乗りしたからな。というわけでアクキーをくれ」
そう来るだろうと思って鞄からこの前渋谷で買っておいたブツを渡すと、東堂は目を煌めかせた。素早くアクキー保護用のカバーを出してアクリルの高田ちゃんを守ると、大事そうに鞄につけている。
ここだけ見るとただのイカつい善良なドルオタなんだけどな。こいつ頭おかしいから。
「じゃあ私帰るから」
「待て!」
いちいち声が大きい。
「明日の交流会、本当に出ないつもりか?サプライズもなしだな?」
「サプライズありの場合、事前に東堂にサプライズを教えたらサプライズにならないよ」
「ということは?!」
「いや、ないけど」
「くそ!!!」
東堂が全力で悲しがるのがうるさい。
高田ちゃんのアクキーあげたんだからもう帰らせてほしい。
「今年の交流会、はっきり言って俺のモチベーションは最低だぞ。乙骨も秤もお前もいない交流会なんて、あんこのないどら焼きと同じだ」
「別にどら焼きは皮だけでも美味しいよ。八ツ橋とかも最近皮だけで売ってるじゃん、あれと同じ理論」
「そういう話をしてるんじゃない!!」
「東堂はこしあん派?つぶあん派?」
「断じてつぶあん派だ!」
「わかるー私もー」
適当に話を流して乗り切ろう。間に受けていたらいつまで経ってもこいつから逃げられない。
「こしあんでもつぶあんでも栗餡でも芋餡でも何でもいいから、きちんとしたどら焼きを食わせろ!」
「どら焼きはないけど、ヨックモックならあるよ」
「バキバキになるだろうが!!!」
私がポケットから職員室からくすねてきたヨックモックを取り出すと、東堂の圧で袋の中のヨックモックがバキバキに割れた。後で食べようと思ってたのに!ふざけるなよ。
ムカついて東堂の顔面に向かって呪力を込めて大谷ばりに思い切りヨックモックを投げると額にめり込んだ。いや避けろよ。
「とにかく俺が納得できるレベルの術師が1年と2年にいるとは考えづらい!やはりお前が出ろ!」
「やだよ、東堂の術式嫌いなの。私と相性悪いもん」
「好き嫌いを言うな。それを超えた先に成長がある!」
「お母さんみたいなこと言うのやめて」
東堂は額に刺さってバキバキになったヨックモックの袋を開けると、ざざっと口に流し込んでもぐもぐと食べ始めた。恍惚の表情を浮かべているのがイライラする。
「美味いな…」
「たまに食べると美味しいよね」
「名前ー?」
「あ、悟くん」
「あれ?葵じゃん。もう来てたんだ」
「前乗りだ」
腕を組んだまま悟くんに挨拶する東堂。これはチャンス、逃げよう!と悟くんに話を振る。
「じゃ!私忙しいから!続きは悟くんとどうぞー!」
「…はあ」
どうにか逃げ仰せた。
東堂が絡むと全てのことが厄介だ。ってか交流会明日からなんだな…。
ってことはその間の任務って私が行くことになる…?悟くんは1年の担任だし、他の教員もみんなそっちに掛かり切りになるよね。
やだな…。
とりあえず3年の教室に行く。
任務がない日はとりあえず教室に行き、もしいれば綺羅羅と喋って自習する。まあ今、綺羅羅もいないけど…。
悟くんとの約束で高専を卒業しなければならないし、一応座学も成績に加算されるので私は真面目にそこだけは頑張っている。
どうせ今日も自習ならサボろ、疲れてるしと思いながら一応教室に入ると、夜蛾学長が何故か教卓にいて私は思わず「ひっ」と声を上げた。
「おっ……はようございます…」
「おう、名字か」
「何してんの…?…え?本当に何してんの?」
「私は君の担任だ、授業をしに来てるに決まっている」
「ひえー…」
担任も何も3年に持ち上がってから任務三昧で同級生も停学中だし、貴方からの指導はほぼないですが…と思ったが口を噤んだ。
学長は私に目もくれず、教卓に椅子を持ってきて腰掛けて可愛いぬいぐるみを作っている。
「えーっと…じゃあ今日は図工の授業で、学長と私の二人で可愛いぬいぐるみを作ろうって感じ?」
「……本当にそう思うか?」
「思わなーい!全然そう思わないでーす!!」
妙な圧をかけてくる夜蛾学長に私は即座に胡麻刷りをすると、ふうとため息を吐かれた。
「君が1級に昇進してから約半年。よくやっている」
「えっ、ありがとうございます…?」
「報告書を出すのがいつも微妙に遅いこと以外、特に私から言うことはない」
あっ、すみません。この前も報告書出すの遅れてたもんね…。
へへ、と誤魔化すように頭をかくと学長はやっと手を止めた。
「ここのところ任務続きでまともな休みもあまり無かった。今日は休んでいい」
「えっほんとに?!」
「その代わり、明日から始まる交流会の裏方に回ってほしい」
はいきたー、雑用ー。
「まさみちぃ、私任務続きで疲れてるんだよね…。交流会も出ないのに裏方っていうのはちょっと…」
「出てくれてもいいんだぞ、交流会」
いやだから何その圧は?
裏方やらないなら交流会出ろってこと?やだよ東堂が喜んじゃうじゃん。サプライズはなし、これは決定事項だもん。
「…裏方って何やんの?」
「雑用だ」
「…お茶出しとか?」
「参加する学生に再起不能の怪我・殺害の事態が起こらないため監視だ」
いやそれガッツリ現場入らないといけませんやん…。
「悪いが悟からも君を強く推されていてな。いろいろとこっちも事情がある。頼まれてくれ」
「…悟くんから?」
「ああ」
そこで初めて、学長が手を止めて私を見た。と言ってもサングラスをしているせいで視線は合わない。
察しが良い方とはよく言われるが、学長が悟くんと話をしてまで"それ"を私に頼んできたことに妙に納得がいった。それって…
「…参加者の誰かが殺される可能性が高いってこと?」
「さあな。そうならないようにするのが君の仕事だ」
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