何となしに、今日オフだったプロシュートとホルマジオ、メローネとわたしとの四人でアジトで呑む事になった。
コンビニでビールやらチューハイやらをホルマジオが買い込んで、ちょっといい酒をプロシュートが自室から持ってきて、みんなでラウンジに集まってワイワイ呑んだ。
いい具合にみんな酔ってきた所で、男特有の下品な方向に話題が傾いた。(女子でいう必ず恋バナに発展するみたいな)
内容的には、この間相手した女がどうとか性処理に困っててなんかいいオカズはないのかとか、割とアウトな性事情をあっけらかんと話し出す。
ホルマジオが先陣切って話出せば、それに乗っていくメローネと、会話に入ろうともせず黙ってグラスを傾けるプロシュート。
わたしは大して気にするでもなく、テーブルに広げられたつまみを口にぽいぽい運んでいく。
そんな話になると自然と矛先は女性であるわたしにも向く訳で
「オメー、よくギアッチョなんかと付き合ってられるなァ〜」
普段から割と間延びした口調のホルマジオはお酒が入るとそれがより如実に現れる。呂律も微妙に回ってないからより一層顕著だった。
そんな彼から、この場に居ない“ギアッチョ”の名前が飛び出てきたのは話にも出た通り、わたしとギアッチョが所謂お付き合いをしている関係だったからだ。
だから当然夜の情事も済んでいて、こんな下品な話題になればきっとわたし達の話になるのも至極当然の事だった。
「それ、オレも思うぜ?よく続くよなぁー。」
ホルマジオの一言にメローネも食いついた。
まぁ、二人の言わんとしている事はわからなくもない。だけど、この二人が一体ギアッチョの性癖の何を理解しているのだろうか。
わたしはグラスに入った赤ワインを零さぬ程度に揺らしながら、それに口を付けることはせず、つまみのナッツを口に運んだ。
「で?実の所、ギアッチョに対する不満とかその逆とかないワケ?」
缶ビールの頭を中指と親指で摘まむ様に持ち上げているメローネは、それをぷらぷらさせながらヤラシイ顔をこちらに向けている。
そんなわたしは、彼に投げ掛けられた質問より、メローネがビール…しかも缶を手に持っている事の似合わなさに意識がいっていた。
プロシュートはというと、三人の遣り取りに茶々を入れるようなことはせず、ロックグラスに入ったウィスキーを黙って傾けている。
「ギアッチョって、良くキレるし暴力的だからよォ〜そりゃあもうなまえは苦労してそうだよなァ〜」
「勿論、性的な意味で?」
ホルマジオが放った言葉に合の手を入れるメローネ。ふたりは顔を見合わせてぎゃあぎゃあ笑った。
あまりにも二人の酷い物言いにわたしは、目の前のテーブルに少し強めにグラスを叩きつけてから二人にビシッと人差し指を突き立てた。
「二人ともぉ、勝手なこと言ってるけどさ〜、ギアッチョってあれで結構わたしの事大切にしてくれてるんだからねぇ…」
あれ?思考はかなりクリアなのに、なんかちゃんと喋れない事に違和感を自分で覚える。
どうやら思っているよりずっと自分も酒が回っていたようだ。
その様子をホルマジオとメローネはキョトンと見ていたが、その顔はすぐににやぁ〜と緩む。
「ほォほォ〜!どんな風にだよそらぁよォ〜」
「ベリッシモ気になるなぁー!」
二人の食い付きに、一瞬しまったと後悔する。
絵に描いた様な悪ノリをする二人に、わたしは面倒臭さから半目になった。
そしてちらりとプロシュートに目をやって、愕然とする。
こいつ…、わたし達の会話を肴に酒飲んでやがる…。
こういった遣り取りを目の当たりにすれば、はしたねぇ等と注意をするタイプのプロシュートが何も言わずにいること自体少しおかしかったのだが、彼もまた相当酔っているのかこの状況を楽しんでいるようだった。
その証拠に口元には笑みが浮かんでいる。
「ギアッチョはあれで自分の欠点をよく理解してるしぃ、だからこそわたしを壊れ物扱うみたいに優しくしてくれるんだからぁ!」
あれあれ?わたしもわたしで何を言ってるんだ?なんでこんな恥ずかしい事平然と言っちゃってんだろ?こんな見え透いた三人の悪ふざけにわざわざ乗っかる必要もないし…、そこまで考えてわたし自身相当酔ってる事に気が付いて考えるのをやめた。
「オメー、結構冷めてる様に見えてアイツにベタ惚れじゃあねぇか。」
ずっと口を挟まなかったプロシュートが至極楽しそうにわたしにそう言った。
普段わたしは恥ずかしいからとか色々な理由があって惚気たりとか他人にしないどころか、ギアッチョ本人にだってあんまり言わない。
それがきっとみんなの目には冷めてるって映っているみたいで、それはどうでもいいけど今日はお酒の力があってか箍が外れてしまっている。
今のわたしに出来ない事は無いんじゃあないかってくらい何でも出来る気がする。
「ベタ惚れもベタ惚れ!わたしはこう見えて、ギアッチョの事愛してるわよッ!!!」
立ち上がって仁王立ちになり、恥ずかしげもなく高らかにこう宣言出来るまでには何でも出来る。完全に気が大きくなるわたし。
そんなわたしの様子をホルマジオとメローネはポカンと口を開けて見ているし、とんでもなく気分がいい。普段わたしをからかって遊ぶこの二人に、してやったりと得意気な顔をわたしはしてみせるも、プロシュートはニヤけた顔のままだった。
「だとよ。良かったな、ギアッチョ。」
この場に居ない人物に向けてプロシュートが言葉を放ったと思ったら、ラウンジの扉が開く。
そこには今現在まで話題に出ていた張本人が立っていた。
「ギ、ギギギギアッチョ!?」
一体、いつから!?何処から聞いていたのかと思考を巡らせるもホルマジオやメローネのあの言い分を聞いた時点で扉を蹴破って入ってくるであろう事から事の顛末を聞いていたとは考えにくく、いや、正直何処から聞いていたかが問題ではなく、わたしの…あの言葉は確実に聞かれてしまったと言うのが重要で…。
ぼんっと音を立ててわたしの顔に血が集中した。
「へー、タコみたーい。」
そんなわたしの様子を見て缶ビールに口を付けながら間抜けな感想を寄越すメローネに構ってられる程の余裕は無く、もう穴があったら入ってしまいたい気持ちでいっぱいだった。
大した事では無いのかもしれない。ただ、こんな…相手の目を見てなんて到底言えそうもない言葉を、酒の力を借りてやっと他人に惚気として話せるくらいなのだ。
そして先程から何の反応も示さないギアッチョに不思議に思い、恐る恐る視線を彼に向けて驚愕。
「ギアッチョ…?」
てっきり怒るかからかってくるかどちらかだと思っていた。
そんなわたしの意に反してギアッチョは、手の甲を口元に当てて真っ赤なその顔をなるべく隠そうとしている。
つまり、
「て、照れてるの…?」
耳まで真っ赤にしたギアッチョ。
よくよく考えれば、もしかしたらメローネの「タコみたい」はわたしに向けたものではなく、彼に向けたものだったのかもしれない。
どっちにしろ、わたしの頬の赤みは引く事はなかった。