朝方、昨晩の豪雨でずぶ濡れになった事を後悔する。
梅雨時の生ぬるい気温が続いていたので羽毛布団は押入れに仕舞い込んでしまっている中、わたしは寒気を感じて目を覚ました。
寒気は感じるのにやたらと体温が高い事に気付く。
「これ…ヤバいやつなんじゃ…」
布団に手を突いて頭を上げると、脳みそが鉛になった様な感覚…
近くのペンケースに刺さった体温計を引き抜いて腋の下に挟む
体温を測っている間に壁掛け時計に目をやった。
…午前3:30
幸い、今日は土曜日。所謂休日だ。
熱があったとしても、誰にも迷惑を掛けることはないのが唯一の救いだった。
ぼんやりしていると、ピピッと測定終了の電子音が腋の下から鳴る。
体温計を引き抜いて画面を見ると
「げっ、38.9度…」
もう高熱じゃないか…。
もう寝ようそうしよう。寝てれば治ると、また瞳を閉じた。
-ピンポーン…ピンポーン
寝惚けた頭がふと現実に引き戻される。
あれ?いま、インターフォン鳴った?気のせい?なんて、考えていたら今度は枕元の携帯がバイブレーションと共に音を鳴らす。
重たい体を少し起こして、ディスプレイを見てみるとそこには『爆豪勝己』の文字。
はて?一体どうしたのか…?
ついでにディスプレイの上画面に表示されてる時刻を確認すると早朝5:00過ぎだった。
鳴り止まない音に、ああ、これは電話かと理解し通話ボタンを押す。
「ぁー、かっちゃん…?どうかしたの?」
「てめぇ…、どうかしたはこっちのセリフだコラ、今すぐ家の玄関開けろ」
「えっ」
わたしの返答を聞かずブチッと切られる電話。
携帯からは通話終了音。
ん…、待てよ?インターフォン?…玄関?
「まさか!」
慌てて玄関まで駆けて、ロックを外す。
玄関を開けるとそこには不機嫌の頂点と言った顔の彼氏が立っていた。
何で来たかとか、どうしてそんなに怒ってるのかとか聞きたいことは沢山あったのだけど、いきなり起き上がった事によって目眩。
「おい!」
かっちゃんだめだよ…今まだ朝早いから、そんな大声出しちゃ…、そんな言葉はわたしの口から発せられる事は無かった。
代わりに、目の前の男は小さく舌打ちをし、わたしの身体を持ち上げた。
「あぁ…、なるほどな。」
何がなるほどなんだろうと疑問に思ったが、意識はそこでフェードアウト。
次に目を覚ますと、額の上には濡れタオル。
触ってみると冷たい。取り替えたばかりだろうか…
正直高熱で何も出来なかったからとても有難い。これをしてくれたのは、もしかしなくても彼だろう。
もそりと身体を起こしてみると、幾分か楽になっていた。
壁掛け時計は時刻8:00を指していた。
「おー、起きたか。」
声のする方に目を向けると、わたしのキッチンに置いてあるピンクのミトンを装着し、土鍋を両手に持つ彼が立っていた。非常に似合わない。
「メシ食えるか…?」
彼は、ベッドのすぐ横のテーブルに鍋敷きを敷いて、その上に土鍋を置いた。
なんだかヤケに優しいじゃないか。普段の彼からは考えられない。なんて、失礼な事を考えていると、ズイと目の前に彼の携帯を突き出された。
「お前な、もうちょい言い方あんだろーが」
よく見ると、携帯にはメール画面。
その差出人は、わたし。内容は、たすけて。
あらやだ。朦朧とした意識の中、無自覚にこんなメールを彼氏に送り付けていただなんて。
「ご、ごめん…朝方の事あんまり覚えてなくて…」
はて、しかし、メールを見て慌てて家まで来てくれたのだろうか?
それはそれでとても嬉しい。
無意識に頬が緩んでいたのか、彼に頬を抓られる。
「い、いひゃいかっひゃん」
「だらしねー顔晒してんじゃねぇぞ!良いから食えや!!!」
彼はパッと手を離して、土鍋の蓋をパカッと開ける。
湯気の立つ鍋の中には、玉子粥。
そう言えば、お腹空いてる。
が、しかし、これはもう少し甘えても良い空気か?
「かっちゃん、ふーふーして食べさせて」
「テメェで食えや!!!」
しまったこれは、悪ノリが過ぎたかな?
掌をぼんぼん軽く爆破させて怒ってる。
大人しく自分で食べよう…、とテーブルの上の蓮華を手に取った。
すると、彼はそれをわたしの手から乱暴にひったくると、土鍋の中身を掬って自分の口元へ…えっまじかっ今日はやたらと甘やかしてくれるじゃん。
ある程度冷ましたそれをこちらに寄越す彼。
「ホラよ。これがお望みなんだろ…」
やだ。顔真っ赤だよ…かっちゃん。