「猿夫くん!お待たせ!」
「いや、俺も今来たとこ。」

待ち合わせのカップルが交わすお決まりのセリフだなぁ、なんて苦笑いをするも名前の浴衣姿に吹っ飛ぶ。
いやぁ…、いいな。やっぱ、浴衣姿。うん。
普段見る制服やジャージにはない新鮮味というか…、なんか、清楚に見えるのにチラつく鎖骨とか項とか裾から除く脹脛とか…エロい…いや、何考えてるんだよ!と、頭を振った。

「猿夫くん、和服似合うなぁ〜羨ましい。」
「なんで?名前も似合ってるよ。」

別にお世辞ではなく、本心でそう告げると名前は嬉しそうに笑った。

彼女の笑顔が好きだ。
ふんわりした雰囲気の彼女は、その雰囲気と反して顔をクシャッとして笑う。
取り繕った笑顔じゃないんだって分かるその笑い方が俺は好きだ。

「花火まで屋台回る?」
「そうしよう!わたし、花火見るなら穴場知ってるよ!」
「それは楽しみだ」

二人笑い合って、手を繋いで屋台を回る。
金魚が可愛いとか、飴細工が凄いとか、色々なものに食いついてははしゃぐ名前に無意識に顔が綻ぶ。

「お祭りって見てるだけでも楽しいや!」

ここは、男として何か彼女に買い与えてあげたいところなんだけどな…、彼女はとても無欲だった。

「お、珍しい。」
「なになにー?」

ある屋台を見付けて、思わず声が出る。
そんな俺の後ろから覗き込むようにする名前。

「型抜き?」
「そう、最近あんまり見ないからさ」

俺が幼稚園とかそんなレベルの頃に、親と祭りに来た時にやった事があったかな。
板状のラムネ菓子に、絵が書いてあって、それを爪楊枝とか画鋲の先とかを使って削ったりして綺麗に絵をくり抜くことが出来たら景品が貰える。
昔やった時は上手くいかなかった気がするな。なんて、考えていたら、名前が俺の浴衣の袖をちょいちょいと摘んだ。

「わたし、型抜きした事ない!やってみたいな!」

無欲な彼女が、自分からやりたいと言い出した屋台はまさかの型抜き。
あ、もしかして、気を使わせたかな?
なんて考えるも、楽しそうにしている彼女を前に気にしないでおこうと決める。

「これ、結構な時間使うけど…大丈夫?」
「大丈夫だよ!終わったら案外いい時間になるかもよ!」

両拳をブンブン縦に振る名前に苦笑い。そんな必死にならなくたって大丈夫だよ。
屋台のおじさんに、二枚分の料金を手渡し、いざ挑戦!
隣を見るともう見たことないくらい真剣な顔。
カリカリと慎重にラムネ板を削る音が横から聞こえてくる。
俺も、よし、やるか!と浴衣の袖をまくった。

「あちゃ〜もう少しだったのに〜…」

ペキョッと小さな音を立てて、名前のラムネ板は割れてしまった。

「これ、凄い難しいねぇ…」

残念そうに割れたラムネ板の残骸を摘んで持ち上げる名前は、パクッとそれを口の中に入れて溶かし始める。
そして、彼女の視線は俺の手元に釘付けだ。
そんなに見られると、緊張するんだけど…。






「こっちこっち!!!」

駆け足で俺の手を引く名前に、そんな慌てなくてもまだ時間あるよって苦笑い。
とは言え、型抜きに没頭しすぎたせいで思ったよりも時間が掛かってしまって花火まで時間ギリギリだった。

「あそこの高台!人が少なくて花火も良く見えるんだー!」

そう言って名前が指差したのは、神社の本殿から少し離れた高台。
その手に先程の型抜きの景品が握られたままの名前。
あの後、俺は見事に型抜きを成功させて景品を手に入れたのだが、これがまた名前はとても気に入った様だった。
それは、黄色と水色の水玉模様の風車。

「間に合ったね!」
「そうだね。」

高台に設けられた丸太の柵に肘を付いて空を眺める名前。
吊られて、俺も空を見る。
まだ少しだけ花火が上がるには時間がある様だ。
また、視線を名前に戻すと、風車に息を吹きかけて廻る様を楽しんでいる。

「気に入った?」
「うん!猿夫くん、あんなに難しいのよく成功させたよねー!」

-ヒュー……ドンッ-…パラパラ…

たまたまだよ。その一言は花火の打ち上がる音で掻き消えた。

「始まったね。」

風車に夢中だった名前は、空を見上げて釘付けになっている。
その横顔は、花火の光に照らされ鮮やかに染まっていた。

「花火見ずして夏は終われないよねぇ」
「ははっ、そうだね。」
「猿夫くん」
「ん?」
「好きだよ。」

ハッとなって名前を見ると、彼女の視線は今度は俺に注がれていた。
なんだか照れくさくなって、空を見上げた。

彼女は、型抜きこそ綺麗にくり抜けなかったが、俺の心はそれはそれは綺麗にくり抜いていった。

「…来年も、また来よう。」

それを聞いた名前が嬉しそうにしながらまた空を眺めるのを俺は、横目で見るのだった。