たくさんの提灯がやぐらから四方に繋がれている。
少し薄暗い中で聞こえてくるのは、馴染みのある音楽にリズミカルな太鼓の音。
やぐらを囲んで円になり、曲に合わせて手を上げたり下げたりして踊る人たちの中に名前はいた。
自分の前で踊っている人、所作が綺麗だなぁなんて思いついお手本にしてしまう。
目の前の広い背中、グレーに白いラインの浴衣をじっと見る。
そのシルエットに、見覚えがあるなぁなんて思っていると、フワッとしたものが眼前を通った。
「っわ!し、しっぽ…!」
「えっ」
「あ、尾白くん!」
「苗字さん?」
顔を合わせて立ち止まってしまったところで、ちょうど曲が終わる。
他の人の邪魔になってはいけないと、次の曲が始まる前にそそくさと輪から抜けた。
「尾白くんも来てたんだ」
「まぁ、ぼっちだけどね。苗字さんは誰かと来てるの?」
「妹と来てたんだけど、友達と会ったみたいだから、別れたの」
と言いつつ屋台の方を指さしていると、尾白が細い目で彼女をじろじろと見る。
多分服を見ているのだろう、名前も自然に目線が自分の浴衣へと向く。
白地に黄色いヒマワリが大判の柄であしらわれていて、華やかだ。
少し幼稚っぽくなってしまうことに悩んだ末、祖母から貰った小豆色の帯を使うことで、レトロな雰囲気に抑えている。
名前のオシャレ精神が疼いた結果こうなったので、純粋にどう見えるか気になるところではあった。
「浴衣、かわいいね」
「本当?は、派手じゃないかな…?柄とか、子供っぽくない?」
「そんなことないよ。夏らしくていいと思うし、帯の色が落ち着いてて合ってる。苗字さんに、似合ってるよ」
「…ありがとう」
彼女が慌ただしく言ったからか、彼も具体的に褒めてくれる。
その言葉に少し照れくささを覚えた名前は、咄嗟に話題を変えようとして声が上擦った。
「な、なんか、盆踊り参加しないと祭り来たって感じしなくてさ〜」
「うん、同感。」
「でもこの次の曲とか知らなくて…抜けたり入ったりしてるんだよね」
全ての曲の踊りまで知らない名前は、さっきから輪の中であたふたすることが多かった。
他の人の真似をしてみても足がついていかなかったりと、後ろに迷惑をかけてしまうので、わからない曲には参加しないようにしていたのだ。
そう話すと尾白がこんな提案を出してきた。
「簡単だよ、教えようか?」
「ホント?」
人に教えられるほど、上手くはないんだけどね…なんて苦笑しながら、尾白は名前の背後へまわる。
…と、なぜ彼が背中側へ行ったのかわからず彼を見上げると、両方の手の甲が暖かい感触に包まれる。
彼の手に、自分の手が包まれているのがわかって、名前の思考回路は停止した。
「あ、始まった。曲に合わせて、手だけでやってみようか」
「…う、うん…」
次の曲になって尾白が手を動かし始めるが、突然の出来事に頭が回らない名前。
彼の体が背中に密着して、彼が喋る度に息がかかってぞくぞくする。
さらに、後ろから抱きしめられているような感覚に陥り、動揺が顔に出る。
曲の終わりが近づいても、まだ状況を飲み込めないでいた。
「こうやって…ここで手を叩いて広げて、最後はもう1回手を上げる…」
「……」
「…どう?そんな難しくないと思うけど…」
そう言って尾白は手を離すと、真っ赤になった彼女の耳が視界に映る。
そして、うなじが少し赤く染まっているのも。
いつもは下ろしてる髪がアップにされているせいで、普段見えないそこが露わになっている。
またフワリと垂れる後れ毛が、より一層彼女を色っぽく魅せた。
「尾白くん、息が…くすぐったい…」
「うわあごめん」
言いたいことは他にもあったが、どうにか声に出す名前。
その言葉にハッとして、尾白は慌てて手の甲を口に当て一歩下がった。
名前も胸を押さえながら振り返ると、彼は困ったように頭をかいていた。
「ごめん、ちょっとそれどころじゃなくて…踊り、わかんなかったから、もっかい教えて?」
顔を赤くして両手を合わせ見上げてくる彼女に、彼も鼓動が早くなるのを感じていた。
「あー、俺もちょっとそれどころじゃなくなっちゃったよ…ごめん…」
「え?」
「いや、なんでもない…」