「出久!人がたくさんいるよ!」
「名前ちゃん、迷子になるから手つなごう」
「つなぐつなぐ!」

今日は夏祭りだ。
緑谷は前々から約束があった。
従姉妹の名前。緑谷と七つ違う彼女は、毎年このお祭りに二人で遊びに来ている。

「どこ回ろっか?」
「ヨーヨー釣り!あと、金魚!あとねわたあめとやきそばとあとチョコバナナとりんご飴とあと」
「ちょちょちょ、名前ちゃん叔母さんにお小遣いいくらもらったの」
「2000円!」
「それじゃ、足りないから見て回って決めようか」
「分かった!」

そして、二人は手を繋いで人混みを掻き分ける。流石の雑踏だ。
一通り見て回って幾つか購入したり楽しんだりした後、ある店で緑谷の足が止まる。
それは、お面屋。

「出久?」

それに不思議に思った名前は、不思議に思い緑谷を見上げた。
そして、彼の目線の先それは様々な種類のお面。そして

「オールマイトだっ!出久!オールマイト!」

歳の割に幼い名前もまた、オールマイトのファンである。
よく緑谷とオールマイトの動画を二人で鑑賞しては、ここが良い!カッコイイ!と話す仲だ。
そして、緑谷が釘付けになっていたものは、今名前の目に入っているもので間違いなかった。

「出久、買うの?」
「えっ、…でも、この歳でお面は…なぁ」
「えー!わたし欲しい!お揃いにしよーよ!」

無邪気、即ちそれは天使。
歳下の彼女とお揃いで買ってしまえば、周りの人からの目線も気にしなくて済む。
名前は、それを理解して言っているわけではないのだろうが、緑谷的にはとても有難い申し出だった。
代わりに、彼女の分も彼が持つ事にして、二つ分の代金を店主に払う。

「にぃちゃん、随分歳の離れた恋人だな」
「こ、恋人!?」

ニヤニヤしながら、揶揄う店主に緑谷は絵に描いた様に慌てた。
どこをどう見たら恋人になるの!?と叫びそうになるもそれは名前によって遮られる。

「わたし大きくなったら出久と結婚するの!」
「だってよ。にぃちゃんモテてるな〜」

ええぇ!?と声を上げる緑谷。
それに構わず、お面を頭に付けてオジサン、バイバーイ!と店主に手を振って店から離れる名前。
慌ててそれを追う緑谷。

「もう、名前ちゃん勝手に離れちゃダメだろ」
「えへへ、追い掛けて来てくれるかなって」

またまたマセた事を言う…と、緑谷は呆れた。
そして、また二人で手を繋いで雑踏を踏み分ける。

「あ、デクくん!来てたんだねー!」

背後から、緑谷にとっては聞き覚えのある声が掛かる。
振り向くとクラスメートの麗日が立っていた。可愛らしい浴衣と髪飾りで着飾った彼女を見て、緑谷の手はパッと名前から離れた。

「麗日さんも!来てたんだね!」
「やっぱ、夏って言ったら祭りだもん!」

麗日は、駆け寄ってきた緑谷の頭に乗ったお面を見て微笑んだ。

「デクくん、ほんとにオールマイト好きやね〜」
「ハハ…、いや、まぁ…」

恥ずかしそうに頬を人差し指で掻く緑谷。
麗日は、キョロキョロと周りを見回した。

「あれ?デクくん、一人?」
「えっ」

緑谷は、先程まで繋がれていた手元を見た。
そこには何も握られていない。
バッと、振り向いて周りを見渡すも、連れの姿が無いことに気付いた。






「ふんだ。出久のばーか。」

手を離されてから、名前はそのまま人の波に呑まれるようにして緑谷から離れてしまった。

「可愛い人だった、なぁ…」

あのままだと人の波に押されて怪我をしかねなかったので、名前は人波から離れた道をトボトボ進んでいた。
完全にイジケモードの名前。
それもそのはず、麗日の登場により綺麗さっぱり自分の存在を忘れられていたのだから。

「あれっ」

気付けば、祭りの会場から外れてしまっている。

「ここ、何処…?」

そして、我に返って襲い来る恐怖と不安。
元来た道が分からない。完全に迷子だった。
このまま、緑谷と出会う事がなければ…?
不安と恐怖から、頭は大混乱。悪い想像しかできなくなってしまっていた。

「ふぇ…、出久ぅ…」

名前は、その場にしゃがみ込む。
人通りは、ない。
周りには木々が生い茂るばかり。
そして、ついに不安は落涙となって頬を伝った。

「ぐすっ…だれかぁ…」

しゃがみこんでからどれだけが経っただろうか。

「名前ちゃん」

名前の頭上から声がする。
ゆるりと顔を上げるとそこには

「私が、来た」

オールマイトのお面を顔に被った緑谷が立っていた。
もう大丈夫だよ。そう言って、お面を外す緑谷。

「ぃ、出久ぅううう〜!」

安堵から、堰き止めていたものが溢れ出す。
名前は、わあああと緑谷に飛び付いて泣き叫んだ。

「ごめん。ごめんね、名前ちゃん。」

ポンポンと背中を優しく叩いて落ち着ける。
しかし、抱きしめ返すその腕は力強かった。
まるで、もう離さないと言っているよう。

そして、名前は緑谷の腕の中で泣きながら思うのだった。
いつだって、この人はわたしのヒーローだ…と。