ここに来て大技炸裂…だと
「はあぁ!?」
大きな声を上げて、アップライトゲーム機の卓にバンっと掌を叩きつけた。
このわたしが…負けた…?
全国ランキング、上位ランカーのこの…わたしが…?
中学の頃、格闘ゲームなるものにどハマりして以来ゲームセンターに通い詰めここまでのレベルになったと言うのに。
あっさり負けてしまった。
しかも、何が不愉快って、ネット対戦ではないという事だ。
ネット対戦であるならば、全国のプレイヤーと戦う為、わたしより上手い人に当たる可能性はなくはない。
が、今回のは店内対戦だ。
このタイプの格ゲーは、ゲーム機どうしを背中合わせに設置し、プレイヤーは画面越しに向き合う形になる。
そして、先程の対戦相手は丁度真向かいに座っているハズだ。
一体、どこのどいつだ。確かめる為に立ち上がり、回り込んで確認しようとしたところまた対戦の申し込みが来る。
それも、今さっき戦った相手と同じ人物から。
「あんなのマグレだ…。次こそボコす。」
椅子に座り直し承認ボタンを押して、キャラクター選択画面へ。
先程使ってたキャラよりも慣れたキャラに変更。
そして、ファイトスタート。
始まりから繰り広げられる読み合い。
レバーステックを握る左手を上下左右忙しなく動かし、ボタンに添えられた右手の指はそれぞれバラバラのボタンを叩く。
この時のわたしの表情は真剣そのものだ。
次はどう来るのか、ガード?空中回避?いや、掴み技か…?
「ここで、大技!?」
掴み技と読んでそれを回避するためにジャンプをしたところ、コマンド入力激ムズの超大技を繰り出されてしまう。
わたしの操作キャラは空中で無防備な状態の所に大技を食らい、KO。
「嘘でしょ!?」
今のタイミングでコマンド入力を成功させた事に驚愕する。
これ、わたしでも難しいのに…!
ダンッと勢いよく立ち上がり、向かいのゲーム機に回り込むと
「ばっ、爆豪!?!?」
「お前読みやすい行動取りすぎな」
そこには、クルッと振り向き卓に後ろ手に肘を付いているクラスメートの爆豪が居た。
足を組み、勝ち誇った様に顎をしゃくり上げるその様のなんと偉そうな事偉そうな事。
わたしは、悔しさやら腹立たしさやらで腸がぐちゃぐちゃになる感覚を覚える。
「爆豪くんは…このゲームを、いつから…?」
「あ?初見だわボケ」
なん…だと…。
信じられない。信じられないぞ。
初見プレイの立ち回りではなかったぞ、確実に。
コイツどこまで才能マンな訳???
驚愕のあまり唖然とするわたしを他所に、爆豪は100円玉を人差し指と中指に挟んでこちらに見せ付けてきた。
「もう一戦。次、俺に勝てたら何でも言う事聞いてやるよ。」
この一言でわたしの血管は、プッツン。
こちらにも長年培ってきただけあってプライドというものがある。ここまでコケにされて黙っては居られない。
「上等だあああ!!わたしが負けたら逆に何でも言う事聞いてやるわ!!!」
「忘れんなよ、今の言葉。」
満足そうに笑う爆豪。
その顔泣きっ面に変えてやる!!!!
そして、また先程の台に戻り椅子に座り直しこちらも100円玉を取り出して乱暴に投入。
戦闘開始。そして、絶対に負けられない戦いがここにあった。
「名前ちゃんよぉ、さっきまでの威勢はどうしたよ?」
ぐうの音も出ない。あの後一勝一敗まで持ち込んだものの、3R目で完膚無きまでに叩きのめされてしまった。
「約束は約束だもんなぁ?」
もう、あなたのその顔、ヒーロー志す者の顔じゃあありません。
悪の親玉みたいな、わっるぅ〜い顔をしている爆豪を横目で睨み付ける。
「わたしに何させようってのよ…」
あれか?1週間爆豪様のパシリにでもなればいいのか?毎日昼休みに焼きそばパン買いにそこかしこ走り回ればいいのか?…ええい、もうどうにでもなれよ!!!!なんて考えていたけど、彼から飛び出た言葉に違う意味で思考が停止する。
「あぁ、お前。俺の女になれよ。」
「……………はい?」
一瞬何を言われたのか理解出来なくて、暫く言われた事を頭の中で反芻するもやっぱり理解出来なくて、聞き返す。
「俺の女になれっつってんだよ!!!二度も言わすな!!!!」
「えっと…まって、それって爆豪とお付き合いしろってこと…?」
「それ以外に何があんだよ。」
いやいや、色々とすっ飛ばし過ぎでしょそれ!!!横暴にも程があるわ!
「ん。」
脳内で百面相を繰り広げていたわたしに、爆豪は掌を差し出した。
え?何?…と、爆豪を見上げると、ほんのり顔を赤くした爆豪。
「帰るぞ。送ってやるよ。」
この時、どうしてだかわたしは彼の手を取ってしまったのだ。