約束のお約束第四話



今日は、総北自転車部の一大イベント、強化合宿一日目。
この合宿の結果によって、今年のインターハイメンバーが決まる大事な合宿だ。
知輝は早朝から寒咲サイクルショップに顔を出し、機材や備品の運び入れを手伝っていた。
ある程度ワゴン車に備品を運び入れたところで、バインダーに挟まれた備品リストにレ点チェックを入れていく。

「寒咲さん!チェック終わりました!」
「よし、行くか!」

イエッサー!と敬礼をして知輝は後部座席に乗り込む。
寒咲もそれを確認すると車を発進させた。
高速に乗って暫く経った頃に、知輝の携帯が震える。
田所からの着信だった。

「もっしー、田所どないしたん。」
『おう、大河、手伝いで合宿場まで一緒に来るだろ?途中で小野田を拾ってきてくる様寒咲さんに伝えてくんねぇか?」
「小野田ってあのビックリ眼鏡クンやんな?なんや、乗り物酔いかいな?」
『そうなんだよ。とりあえず山道の途中にある自販機の前で降ろしてるから、頼んだぞ。』
「了解〜」

通話終了ボタンを押して通話を切り運転する寒咲に事情を伝えると、寒咲は苦笑した。

「いかにも乗り物に弱いですって感じだもんな、あいつ。」
「自転車あんなに早いのに…、おもろいやっちゃな。」

暫くして、車は高速を降りた。
箱根に向かう途中の山道で小野田を拾う。
小野田は、幾分か外の空気を吸って回復している様で、ワゴン車を見つけると直ぐに駆け寄ってきた。

「あああ、お二人とも、お手数かけてすみません…」
「ついでだし、気にすんな。大河と一緒に後ろ乗ってくれ。」
「あ、はい!失礼します!」

小野田は、ぺこぺこと頭を下げながら後部座席に乗り込んだ。

「また酔うたらアカンからウチと喋ろうや!」
「はい!助かります!」

山道を越えながら、知輝と小野田は、会話を楽しんだ。
殆ど知輝が先行して会話を振っていたが、小野田もそれに受け答えするうちに段々と自分から話をするようになる。
自転車は奥が深いです!と目を輝かせる彼を見て、知輝もせやろせやろ!と自分も選手かのように話に乗っていた。

「そーそー、普段鳴子ってどんな感じ?」

ある程度彼との共通の会話を繰り広げた段階で、知輝が会話の内容を鳴子にシフトチェンジする。

「鳴子くんですか?彼のお陰で、自転車部に入る決断が出来たんですよ!とっても優しくていい人です!」
「あー!わかるー!ウチもなー、財布落として困ってたのわざわざ届けに来てくれたんやで!」
「そうなんですか!?鳴子くんらしいや…」

あれほんま助かったわぁ!と、嬉しそうに話す彼女を見て小野田は心が穏やかになる。

(大河先輩、ロードの話の時もだけど、鳴子くんの話も楽しそうに話すんだなぁ…)

彼女の口からロードの話と鳴子の話は尽きない。
そして、小野田自身も会話をする事で幾分か酔いが紛れて助かっていた。

「そろそろ着くぞ。」

寒咲の一言を聞いて、小野田はごくりと生唾を飲んだ。
会話で紛れていたのは何も酔いだけでは無い。
もうすぐ目的地…その言葉を聞いて緊張が再び呼び覚まされる。
その様子を横目で見た知輝は、小野田の背中を思いっきり叩いた。

「気合入れて頑張りや!」

あまりの衝撃に一瞬緊張が吹っ飛ぶ。
この時小野田は、鳴子から何度か根性を注入をしてもらっていたが、彼女からは気合を注入してもらってるな…と穏やかに笑った。

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「おー!鳴子ー!おかえり!」

合宿から帰ってきた部員達は、今日振り替えの補習がある。
その為校舎に訪れた鳴子に、知輝は駆け寄った。

「今泉もお疲れさん!」
「…す。」

鳴子の隣を歩いていた今泉は、声を掛けられて軽く会釈をする。

「大変やったやろー!」
「アホメニューやったわマジで!!!」
「でも、やり切ったんやろ?」

知輝の問い掛けに、得意気にVサインを見せる鳴子。

「あれ?でも、センパイなんで居んの?」
「お恥ずかしながらウチ、成績悪くてチャリ部の皆と一緒に補習」

へへっと苦笑いを零す知輝に、大丈夫かいな…と心配になるも鳴子も鳴子で人の事を言える程成績は良くない。

「せや、合宿お疲れさんも兼ねて、給料入ったからお好み焼き…今度行こ」

コソッと耳打ちをする知輝に、パッと顔を明るくさせた鳴子が、次の日曜に約束を取り付けたのだった。

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約束の日曜日。13:00駅前にて集合した後、店まで移動する。
店は知輝のチョイス。
関東でも関西風を扱っている鉄板焼き屋で、関西人の鳴子の口にも合うだろうお店だった。

「ここのお好み焼き気に入ると思うでー!」
「センパイが選んだんやろ?そこら辺心配してないわ!」
「任せて!…鳴子どれする?」

知輝は、メニュー立てからメニューを抜いて鳴子に渡す。
メニューを受け取った鳴子はまじまじとメニューとにらめっこを始めた。

「センパイ何すんの?」
「ウチ豚モダンとチーズ玉と、コンバタやな!」
「前々から思っとったけど、センパイって結構食うなぁ〜」
「美味いモンは沢山食べんと損やで!」
「カッカッカッ!それもそうやな!」

注文を決めた鳴子は、そのまま声を掛け、店員を呼んだ。
鳴子は牛すじ玉を注文するも、それじゃ足らんやろと知輝が追加注文をする。

「遠慮はいらんよ!」

そう言って笑ってみせる彼女に、鳴子は笑みを零した。

「さぁて、こっからが関西人の腕の見せ所という訳やけど」
「せやな」
「じゃあ、まずは鳴子、お手並み拝見!」
「任せとけ!!!」

コテを両手に持ち、カシカシと擦り合わせる鳴子。
華麗にキメたるわ!そう言いながらお好み焼きの下にコテを潜らせる。

「おるああああ!」

威勢のいい掛け声と同時にコテにより持ち上げられるお好み焼きは、くるっと空中で一回転をキメて華麗に着地…の筈が力み過ぎたのか着地に失敗。
二人の目の前には見るも無残なお好み焼きが一枚。

「………」
「…ぷっ…、あはははは!アカン、鳴子アカンてそれ…っぷぷ…お約束やん、ひぃおもろい…」
「なっ〜〜っ!わ、笑い過ぎやろ!手元狂ったんや!」
「いや、だって鳴子…ふふ、気合十分にいって…それは、アカン…腹痛い〜…」

腹を抱えて笑う知輝は、笑い過ぎて涙まで浮かべていた。
いや笑いすぎやし…と、上唇を尖らせた鳴子は、今度はずいとコテを知輝の目の前まで持っていく。

「そんな言うなら、センパイは上手い事するんでしょうねぇ?」
「あったりまえやんか!!!」

鳴子からコテを受け取り得意気に鼻を鳴らす知輝は、よう見とけよ!と一言放ち、気合い十分にコテをお好み焼きの下に差し込む。

「こういうのは力み過ぎたらアカンのや!」

三、二、一でフワッと手首を返しひっくり返す…と思いきや、コテを持ち上げた瞬間お好み焼きが見事に崩れてしまう。
二人の目の前には見るも無残なお好み焼きがもう一枚。

「ぷっ…だははははっセンパイっ、それこそ才能やろ!!!こういうのは力み過ぎたらアカンのや〜っ…て!ぷぷっカッコ悪…!」
「や、ややや、やかましいわ!そんな時もあるやろ!!!」

顔を真っ赤にする知輝を他所に只管腹を抱えて笑う鳴子。
次第に知輝もつられて笑い出した。
一頻り笑い合った後、ふと二人とも我に返りさ、食べよかとなるも目の前の鉄板の上にはぐちゃぐちゃなお好み焼きが乗ってる事でまた笑うを暫く二人で繰り返す。
傍から見たらちょっと怖い二人組だった。

「はー、笑ったし美味かったわ!」
「せやろー!ウチの目に狂いは無いで!」
「腕には狂いあったけど、な」
「は!?そりゃ鳴子もやろ!」

帰り道、笑いながら帰路につく。
その間も二人の間で会話が途絶えることは無かった。

「そやそや、インハイメンバー入りおめでとう!」
「知っとったんかいな」
「合宿終わってすぐに金城に吐かせた!四日間で千キロ達成が最低条件やから、ほんま頑張ったんやろなって…、凄いでほんま!」

知輝は、鳴子のメンバー入りを本当に嬉しそうに話す。
自分の事の様に喜ぶその姿が、鳴子の目に焼き付いた。
近くの公園で子ども達がはしゃぐ声が聞こえる中、知輝は空を仰ぎながら歩を進める。

「インハイ当日、応援行くから!」

鳴子の数歩前を歩いていた知輝が、振り向いて満面の笑みを見せる。
その笑顔を絶やさぬ様に、これからも頑張っていく事を密かに誓う鳴子であった。