「まずは男テニ部長の跡部様にお聞きしたい。鳳 長太郎ってどんな人物ですか。」

胡桃沢 美歌は左にメモ帳、右に持つシャープペンシルをインタビューマイクのようにして跡部に向けた。
跡部は真顔。
傍に居たつかさは頭を抱えている。

「おい、藍川。これはどういう事だ。説明しろ。」
「部長、何故彼女がこのような行動に至ったのか私ですら皆目見当もつきません。」
「そうか。」
「ちょっと!わたしは真面目に聞いてるんだよ!?」

もはや完全にアホの子扱いの美歌。
しかし、彼女にもこのような事をする立派な理由があった。
つい先日、宍戸への接近には大きな障害があるという事に気付いたからである。
故にとてつもなく打倒鳳に燃えていた。
そう、今回このようなインタビューを部員全員にして得た情報から、鳳の弱点を探ろうという実にまどろっこしい手段に出たわけである。
意外にも計算高いが論点はそこではない。

「まずは部員たちを誰より理解しているであろう跡部様にお話しを伺
いしたく思います!」

跡部も跡部で乗せられやすい。美歌の煽てにまんまと乗ってしまう。
得意げに質問に答える跡部を見てつかさは、こいつもまた美歌とは違った種類のアホの子だと悟るのであった。

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「なかなか沢山有力な情報を得られた…。」

朝から色んな人物に聞いて回った鳳の情報を美歌は懸命にリストにまとめていた。
朝練、合間の休憩時間。
自由に動ける時間は鳳の情報集めに注ぎ込んだようで、只今昼休み。
漸く男テニ部員全員から話しを聞き終わったようだった。

「ほんと…熱心だよね…」

先程の授業での課題を終わらせ、弁当箱を持って美歌の席までやってきたつかさは、呆れたように前の席に腰掛けた。
鼻歌まじりに弁当を包む風呂敷を解きながら美歌に尋ねる。

「で、有力な情報は手に入ったの?」

お箸を掌で挟み、いただきますのポーズをとるつかさとは正反対で真剣にリストに向き合う美歌。
美歌はブツブツと書かれた情報を読み上げた。

「身長185cm、体重72kg、2月14日生まれO型、足のサイズ27.5cm、視力右1.0左0.8…」
「………。」
「家族構成、祖母、父、母、姉、猫。趣味バイオリン。得意科目、美術と音楽。好きな食べ物、ビーフカッセロールとししゃも。」
「………。」
「座右の銘、One for all,All for one。小遣いは主に楽譜などに使っている。好みのタイプは浮気しない一途な子。行きたいデートスポットは彼女の行きたい所。発声練習と庭に遊びに来る鳥に餌をやる事が日課。」
「よくそんなに集めたと思う…」
「だよね!?わたしすごくね?」
「凄いというか寧ろ気持ち悪い。」
「酷くね!?それ、酷くね!?」

つかさが言うには、凄いを通り越した気持ち悪い…まぁ、ある意味褒め言葉だ。
要は全く何も無い状態からそこまで情報を集められた事に、一種の才能を感じていた。
しかしながら目的を見誤ってはいけない。
何も美歌はただ鳳の情報通になりたいわけでは無いのだから。

「で、そこからどう鳳の弱点に繋げていくわけ?」
「ふふふ…
このわたしがここまで調べて奴の苦手なものを知らぬ筈なかろうて!」
「おぉ!という事は…」
「掴みましたよ旦那ァ!鳳の苦手なもの!」

得意げにもったいぶる美歌の口ぶりに、つかさは無意識に喉を鳴らす。
美歌は右手の人差し指を高く突き上げ高らかに発言した。

「ズバリ鳳の苦手なもの!それは、コイバナ!!!」
「…………。」
「あれ!?リアクション薄くない!?」
「いや…、ほんとそこまで調べ上げて凄いと思うよマジで。
でもさぁ…あんた恋愛話なんて引き出しあるのかって話だよっ!!!!」
「…あっ」

盲点だった!と素っ頓狂な反応を返す美歌につかさは、頭を抱えた。
とは言え、執念とは恐ろしいもので美歌にここまでさせるとは、宍戸への愛に敬服するべきか…
はたまた鳳への娼嫉心に感服するべきか…そのどちらも言えるこの状況に美歌の計り知れないナニカを垣間見たつかさだった。

「こうしちゃいられない!
今度はこの情報を元に鳳を徹底マークしてやる!何としても奴の弱点この手に!!!!」

そう意気込むや否や、美歌は昼食も摂らずに物凄い勢いで教室を出ていってしまった。

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「はぁぁ〜…ダメだ…」

あれから数日が経った昼休み、美歌は自分の机に項垂れるようにして伏せていた。
何日か掛けて鳳を張り込むも、どうやら成果は得られなかったようだ。
心なしかげんなりしているようにも見える。
その様子を伺うようにしてやってきたつかさ。
手にはお弁当箱を持っている。

「その状態だとお手上げ?」
「おー、つかさちゃん…あやつ、シッポ出さないんだよね…、なんか優男を絵に描いたようなタイプで、非の打ちどころがない…」
「あー…、その節はあるかもね」

いつものように美歌の席の前に腰掛け、弁当箱の風呂敷を解きながら言うつかさ。
美歌は膝に手を置いているだけで何もしない。
机の木目に目を向けるばかりだった。
そんな彼女はしばし間を置いてぼそりと呟いた。

「今日で最後にする…」
「あっ、逆にまだやるんだ。」

既に弁当に箸を付けるつかさを尻目に美歌は鞄からあんぱんとパック牛乳を取り出し、教室を出て行った。

「いや…、ベタすぎんだろ…」

教室に取り残されたつかさは一人ぼそりと零した。
美歌が去るのを見計らったかのように、つかさに接触する人物がここに一人。

「なぁ、藍川…」
「おー、いつも遠くで会議を盗み聞きしては大ウケしてる向日じゃん。」
「いや、まぁ事実だけど…それどころじゃなくて!」

珍しく話掛けてきたと思ったら何やら面白い話じゃあなさそうな様子につかさは箸を置いた。
向日はそのまま美歌の席に腰掛けて周りを警戒し、声を潜める。

「胡桃沢の奴…鳳嗅ぎ付けるの止めた方がいいかもしんねぇぞ」

つかさも色々懸念する事があったのだろう、
向日の言動に慌てる様子は一切なかった。

「もしかして鳳ファンから反感買ってる?」
「いや…俺そこら辺良く分かんねえけど、宍戸がよ。」
「え?宍戸?」

思わぬ名が向日から飛び出た事で、つかさの思考がしばし停止した。

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「あれっ…今日は中庭には居ないのか…」

あの二人は昼休み、高確率で中庭にいるというのが今までの経験から算出したデータなのだが今日は違ったようだった。
その後目ぼしい場所を片っ端から叩くも、候補のどこにも二人は居なかった。

「どこ行ったアイツゥ!」

こうなばれば虱潰しに回ろうと廊下の角を曲がったところで美歌はある人物と衝突した。

「おっと、…胡桃沢!?」
「し、宍戸さん!?わわわたし、前方不注意で…!!」
「いや、…怪我ないか?」

自分の注意不足にも関わらずなんて優しいのだろうと感心するも、傍らに鳳がいない事に気付く。
これは宍戸と親睦を深めるチャンスだと思うも束の間、宍戸本人から思ってもみない言葉が飛び出した。

「長太郎なら音楽室に居るぞ。」

はて?此処で何故鳳?と美歌は思うもその疑問は解消される事なく、宍戸のじゃあな。
と言う言葉と共にかき消されてしまった。