今、藍川さんの事を考えながらこの手紙を書いています。

「は、はいぃ?」

朝。つかさの裏返った声が下足場に響く。

初めてこんなに人を好きになった。笑った顔が可愛くて、目を奪われた。

靴箱にラブレター…こんなベタなシチュエーションを体験するなんて、長い人生の中でもそうそうないだろう。
軽い筆圧で書かれた几帳面な文字。
きっと書いてくれた人は繊細な心の持ち主なのだろう。

ずっと近くで笑ってるとこ見てたい。それが俺の気持ち。忍足

「って、お前かっ!そうだろうと思ってたけどやっぱりお前かっ!」

P.S. 今日も可愛い顔早く見せてな。

よくこんなものが書けるな…とつかさは聊か感心していた。
背中がゾワッと粟立ち、読んでいてこっちが恥ずかしくなる。
彼女は手紙を鞄にしまい、大きくため息をついた。

「…嫌がらせか。」

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昼休み。忍足が岳人に会いに来たかと思えば、早々に用事を済ましてつかさに向かってくる。
おまけに、ピッタリくっついて離れない。彼の本気はこれからだった。
朝のラブレターには鳥肌が立ったが、まだ序の口なのだ。
それを激しく実感し、彼女はもう呆れ返っていた。

「藍川さん、もうご飯食べたん?」
「まあね。…っていうか今朝のアレ!ああいうの苦手だからやめてくんない?」
「え?そうなん?そういうのは早う言うてくれんと。」
「そんなこと言われても…」
「あ、せや。藍川さんのこと、もっと教えてーや。」

忍足に、ラブレターは好まないから控えろ…と言うつかさ。
それにに対して、そんなのは初耳だと忍足は返したのだ。
そして、これ以上迷惑をかけたくないから色々教えてほしいと意見を述べた。つかさの事をよく知りたいのだと。

「な?俺まだ藍川さんの知らんとこあるやん?」

ちゃっかり彼女の隣に座って、彼はそう言って首をかしげた。
本題はそこではないのだが…と、彼女も眉間に皺を寄せる。

「…仕方ないなー、わかったよ。」

そう答えると、彼は嬉しそうに笑みをこぼす。

「ほな、好みのタイプは?」
「背の高い人。」
「…それ俺のことちゃうん?」
「誰もそう言った覚えはない。」
「ほんなら、好きな食べ物は?」
「それ関係なくない…」

つかさは思わずジト目で忍足を見た。
彼は気にせずヘラヘラと笑ってなだめる様に手を上げた。

「ええから、ええから。それくらいええやん?」
「まあ、そうだなあ…いちご大福かな。」
「得意な科目は?」
「現代文。」
「今日の下着の色は?」
「張り倒すぞ。」
「押し倒すやなんて、大胆やな。そんな強引な藍川さんも、好きやで。」

思わずつかさの足が忍足のイスを蹴飛ばす。
彼女は頭より言葉より、行動が先に出てしまうのだ。
イスと一緒に横倒れになった彼はメガネをかけ直してぽつりと呟いた。

「い…今、靴の底と薄い水色が見えたような…」
「忘れろぉおおおー!!!」

すかさずつかさが近くにあったゴミ箱を投げた。
乾いた音が鳴り響き、彼は床へダイブする。
見事に彼の頭部へクリティカルヒットしたそれは、教室の隅へ転がっていった。

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「なんかあたしだけ色々質問されて知られていくのがムカつく。」

放課後。なんとも不満そうな声が廊下に響いている。
つかさと美歌、岳人の三人はそれぞれコートへ向かっていた。

「デリカシーの欠片もない!」
「楽しそうに話してたじゃねーか。」
「岳人も聞いてたでしょ!?あの変態…マジでありえない。」
「でもパンツ見られたのは忍足の所為じゃないでしょ?」

包み隠すことなく発言する美歌に、思わずスコンとチョップをかます。

「い〜た〜い〜…」
「言葉のオブラート一年分買って来いおバカ。」
「だって本当のことじゃん。」

反省の色が見えないので、つかさはまた同じところにチョップをかました。
美歌は頭を押さえながらもヨロヨロと歩く。

「だいたい、好きなのにあたしのことよく知らないって…変じゃない?やっぱり弄んでるのよ。」
「人が人を好きになるのに、理由なんてないと思うけどな。でも確かに、一方的ってのは不公平かもな。」
「そうだよね。だからあたしも忍足のこと探って、弱点を見つけてやろうと思ってるんだ。」

忍足とは別の理由で、彼のことが知りたい。これは作戦だった。
つかさはなにか忍足情報はないかと二人に尋ねる。

「侑士のことかー…実はアレ伊達メガネ。」
「そんな情報はいらない…」
「アレでしょ、忍足って足の綺麗な子が好みなんでしょ?」
「おお!ナイス美歌!その作戦でいこう。」

これしかない!と廊下に声を響かせながら、目をギラギラさせるつかさ。
また突拍子もないことを仕出かすんだろうか…と岳人は少し不安になる。
美歌は頭上にハテナを浮かべながらも、「では、行ってよし」とお決まりの台詞で返した。

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「暑くないの。」
「めちゃくちゃ暑いに決まってんでしょ…」
「あっ すごい汗です隊長。」

振り返ったつかさの額から汗が流れ落ちていた。
それもそのはず彼女はこの暑い日に長ズボンを着用しているのである。
彼女自身は忍足対策だと言い張るが、体力的にそれが保てるのかは不明だ。
されど諦めない様子のつかさ。すでに勝ち取ったような、ニヒルな笑みを浮かべている。
それをつかさが座るベンチ後方にあるフェンスの、そのまた後ろで美歌が見ていた。

「わたしのミニ扇風機貸したげるよ。あと、ちゃんと水分補給してね…」
「かたじけない。」
「ぶっ倒れても知らないよー?」
「これもすべては忍足のためよ…」

斜め上のプランで果敢に反抗的な行動をするつかさ。
いつものように姿を現す忍足は、彼女の足には目もくれず話し始めた。

「なあ藍川さん。ホンマ、俺と付き合ってーな。」
「あ、じゃあお寿司がいい。回らないお寿司食べたい。」
「ああ…って、そうやなくて、俺の事もっと真剣に考えてほしいと思ってんねん」
「てんねん…天然モノがいいの?」
「……お嬢ちゃん、それ以上はぐらかしたら俺かてイヤやで?」
「えー?なんのことかなー?」
「それとも天然な子を装うて『天然モノ』とか言う二段ボケのつもりなん?」

彼の質問を返せず、二人の間に少し沈黙が流れた。
それは同時に彼女の肯定を意味したようなものだった。

「うまーい。天然のサゴシキズシくらいうまいわー。」
「うるさい。」

図星のため反論できないつかさ。それに軽く拍手をして、棒読みで返す忍足。
つかさはなんとなく、少し涼しくなったような感覚を覚えた。
だが日差しは強い。暑さの所為か、午後がいつもより長く続いているような錯覚に陥る。
ウケなかったとかそんなのはこの際気にしないようにしようと真顔になった。
そんな二人のやり取りに、美歌はキョトンとしていた。
なんだ、大喜利か。夫婦漫才か。と心の中でツッコミを入れつつ、彼らを見守ることにした。
忍足が邪魔で宍戸さんがよく見えないけど、まだ黙って見ていよう…と、彼女はその様子を一人楽しむのであった。