氷帝学園男子テニス部の部員はモテる。
大事な事なのでもう一度言う、氷帝学園男子テニス部の部員はモテる。
早朝の朝練にも関わらず、見物人がわんさか来るレベルでモテるのだ。
見物人の八割方は跡部目当てのファンだが、例外も居る。
「あんたも飽きないね。」
「飽きない飽きない。目に入れても痛くない。」
例外とはこの胡桃沢 美歌のことである。
マネージャーが座るベンチのすぐ後ろのフェンスの外側は美歌の特等席と言えよう。
何故か周りのファンはそこに近付こうとしない。
美歌自身も邪魔無く宍戸を拝められるので好都合というものだ。
部活中の宍戸を盗み(というか堂々としたものだが)見るのはもはや美歌の日課になっていた。
「今日も麗しゅうございます宍戸さん…」
ダメだこりゃ、と頭を抱えざるを得ないつかさ。この状況もまた日課になりつつある。
「お!胡桃沢、昨日はサンキュな!」
あのセッティングは大いに効果があったようだ。まさか、宍戸の方からコンタクトを取りにくるようになろうとは…
つかさは頬が緩む。
「さーて、わたしみんなのトレーニングスケジュール配ってくるから2人はごゆっくり〜」
「えっ!?つかさちゃぁん!?」
このタイミングで一人にしないでくれと心の中で叫ぶ美歌、その叫びはおそらくつかさにしっかり届いているのだろうが彼女はフルシカトを決め込んで部員たちの元へと去っていった。
「き、昨日はありがとね」
「いやいや、こっちだろ普通」
宍戸は無邪気に笑う。その笑顔に悩殺されながらも平静を保つ事に全神経を注ぐ美歌であった。
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「あつゥい時間は楽しめましたか?」
「来週の水曜日に何故か彼と練習試合することになりました(白目)」
「どうしてそうなったのかわからないけど、良かったじゃん。」
朝練も切り上げ2人は教室にて恒例の密会タイムに入っていた。
あの流れからどうしてそうなったかは謎であるが、どうやら美歌は今度のオフに練習試合をすることになったようだ。
どうしてそうなった。
「宍戸さんは軽く練習する感覚でいいからそんな肩肘張らなくて良いって言ってたんだけど、無理だよね!?そんなの、無理だよね!?わたし、平部員だよ!?」
「でも、レギュラーじゃん。レギュラーを平部員とは言わんだろ」
「レギュラーったってお零れでもらったようなもんなんだよおぉおお!!」
女子テニス部は男子に比べて桁外れに部員が居るわけではない。それでもマンモス校、平均すればやはり多い。
その中からレギュラーに選ばれるということは美歌はそこそこの実力者であることになる。本人は謙遜しているが…
つかさは幼稚舎の頃からの美歌を知っている。
彼女は宍戸に決して劣ってはいないと睨んでいる。
「で、でさ、つかさちゃん?水曜日付き合ってくれませんか…?」
「ごめんわたしソッチの趣味はない。」
「そうじゃないよおおぉ!!」
美歌は机に両手を突き、ガンッと大きな音を立てて机に顔面強打した。
額から煙が上がる。
自分で打ち付けるも思いの外激痛だったのかしばらく突っ伏したままぷるぷるしていた。
漸くゆっくり顔を持ち上げると、涙目でつかさを睨む。
「ごめんごめん。冗談だって。でもさ、なんで?わたし居たら意味ないじゃん?」
「き、昨日やっと認識してもらったばっかだよ!?2人きりでテニスとかいくらなんでも早過ぎィ!ねぇ助けてつかさ!…それとももしかして予定、ある?」
「いや…関東大会の特別メニューはもう粗方組んであるし…、大丈夫だよ。」
「ほんと!?さすが!!」
「…今度の昼飯で手を打とう。」
「お安い御用だ。交渉成立。」
「なんだこいつら、まじ面白ぇ…」
二人のやりとりを一線置いた距離から眺めるのは、3年D組 向日 岳人の日課になりつつあったのである。
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「あのさ…、わたしが言えた義理じゃあないのは承知なんだけど…。なんで鳳が居るの」
「宍戸さんの練習と聞いて!俺が力になれればと思って!!」
「寧ろ逆ゥ…」
約束の水曜日。
近所の貸し出しテニスコートにて待ち合わせをしていたが、美歌たちは兎も角宍戸の方にも付添い人が居た事につかさはアタマを抱えた。
「悪ぃ…、胡桃沢。なんかどっから知ったかわかんねぇんだけど長太郎が嗅ぎ付けてきてよ…」
「い、いいよ!気にしないで!」
美歌はこの日をかなり楽しみにしていた事は確かだったがまさかのまさかだった。
無意識にも顔が引き攣る美歌をつかさは横目で伺う。
「だって、女の子より俺の方がいい練習相手になるかと思って!」
悪気が無い純粋な感想だった。
鳳のこの一言が触れてはいけない逆鱗に触ってしまった。
「おい、鳳とか言ったな?わたしが役不足かどうか試してみろやああぁあ!!」
「望むところですよ!」
何故か別の組み合わせで試合をする流れになってしまっている。
つかさは宍戸に自分は練習しなくていいのかと尋ねると
「いや、俺は胡桃沢がどんなプレーするか見れたら満足だから」
と言うではないか。一体どんな意図があるのか考えあぐねていると既にコートに入った鳳から宍戸に声が掛かった。
「宍戸さんも!早く来て下さい!」
「は?ダブルスすんのかよ!?」
「だって、メインは宍戸さんの練習ですから!」
無垢なる天使の様な笑顔だが、何故か棘があるように感じるのはおそらく美歌だけではない。
「だとよ…、ダブルスってなるとお前もやる事になるけど…」
「出来ることならやりたくないけど、あそこまで美歌をコケにされちゃあねぇ…」
わなわな震えるつかさは、何処から持ってきたのか次の瞬間にはラケットを握っていた。
そしてそのままコートへ入る。
「練習なんだし1セットマッチでいいよね?」
「十分です!」
絶対ぎゃふんと言わせてやる。と意気投合した美歌とつかさであった。
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「ひ、久しぶりにこんなに動いたわ…」
「なかなかやりますね…」
女子さながらよく男子の体力についていったと褒めてもいいレベルでいい勝負をした二人だったが、やはり男子の体力や腕力にはどうしても勝てなかった様だった。
美歌もつかさもバテバテでその場にへたり込む。
「なかなかいい勝負だったな。」
お疲れと一言添えて宍戸は、美歌にタオルを渡す。
それを受け取り
それを見た鳳は宍戸に駆け寄ろうとしたがつかさが襟首を掴んで阻止をした。
邪魔をするなと言わんばかりに。
「負けたの悔しい…、けど!楽しかった!」
にっと笑う美歌に少し心を打たれた宍戸であった。
「今度はよ…、お互い邪魔無しにやろうな。」
美歌にとっては思ってもみない申し出だった。
お互い…ということは、少なからず宍戸も2人っきりでのテニスを望んでいるということだ。
これは脈ナシではないと確信に至った美歌だった。