奮闘記@
ポケットに手を突っ込んで、腰パン。
常に不機嫌そうなその表情と、チクチクの髪型。
「見つけた」
爆豪 勝己は、現在不機嫌だ。
もう一度、言おう、爆豪 勝己は、現在不機嫌だ。
何があって不機嫌なのかは割愛。
割と、そんな事は重要でない程、普段から不機嫌な日は珍しくもないのだ。
そして、その不機嫌そうな顔はもはやテンプレートではあるが、実際現在不機嫌なのだ。
そんな、彼の頭上から、女性の声がする。
「見つけたああああああああああ!」
空から少女が降ってきた。
文字通り降ってきた。そりゃもう、親方!空から女の子が!状態。
まあ、それを受け止めるなんてしないのが、この男なのだが…
とは言ったものの、突然頭上から女の子か降ってくるなんてのは通常有り得ない光景である為、流石の爆豪も一瞬思考が停止する。
その一瞬の停止のせいで行動が遅れる。
それによって、爆豪は、空から降ってきた少女の下敷きになってしまった。
「ありゃ?死んだ?だーいじょーぶかにゃ〜?」
「…そう思うんなら…、退けやゴルァ!!!!」
背中に乗る少女は、上から爆豪の顔を覗き込んだ。
うがあっ!っと背中に少女を乗せたまま腕を地面に立てて勢いよく起き上がる。
その勢いに押されて、少女は地面に転がった。
一体何者だと爆豪は後ろを振り返る。
しかし、すぐに猫の様に身軽な動きで体制を立て直して立ち上がった。
立ち上がった少女の頭と尻にはふさふさした耳と尻尾。
ぴょこぴょこ、ゆらゆらさせるそれらに、爆豪は目を丸くした。
「やっと見つけたにゃ!あたし、あなたにイノチを助けられたネコですにゃ!オンガエシさせて!」
突拍子もない発言に、はああ?と、思わず素っ頓狂な声を上げる爆豪。
彼女の目の前を蝶がひらひら飛んでいる。それを手を丸めてちょいちょい捕まえようとする様子は、正に猫。
爆豪のクラスメートには、蛙の“個性”を持つ者がいる。別に驚く事では無い。
それよりも、訳の分からない猫女に、変な絡まれ方をされている事に、彼の眉間の皺はより一層深くなる。
「んな、デケェ猫助けた覚えなんざ無ぇ。」
「アンタに無くてもアタシにはあるにゃ!」
「しつけぇ!!!俺は、てめぇなんか知らねぇっつってんだ!!!」
相当大きな声を上げるも、目の前の女は耳をぱたぱたさせるだけで、怯む様子がない。何なら小首を傾げる始末。
大抵の女子は、彼の怒鳴り声を聞くと逃げるのだが、目の前の猫女は変わり者なのだろう、そんな素振りは一切見せない。
「じゃ、知らない分はこれから知ってもらうにゃ」
にぱっと八重歯を見せて笑うその少女に、アホくささを感じながらシカトを決め込んでそのまま歩を進めた。
(助けられたから恩返しだ?んな、ストーカーされる覚えねぇぞ)
心の中で毒づくも、後ろを振り返ると姿がなくなっていた。
変な悪戯に更に機嫌を悪くする爆豪は、ドカドカ足音が鳴る程だった。
そのまま帰宅し、親に挨拶も無しに自分の部屋の扉を乱暴に締めると中には。
「はあああああ!?てめぇ、列記とした不法侵入だぞコラッ!!!!!」
爆豪は、自分の部屋の窓の鍵を締める習慣がない。
一々開け閉めするのが面倒だからだ。
それが災いして、今回の様な面倒な人物の侵入を許してしまった。
「結構片付いてるんにゃねぇ〜」
本人の怒り露知らず、不法侵入を果たした人物は他でもない、先程の猫女。
どうやら屋根の上を伝い、彼の後を着けていた様だった。
「アタシ、茶々って言うにゃ、これからよろしく!」
「よろしくじゃねぇ!何勝手に話進めてんだァ!!!」
「オンガエシするまで、離れないにゃ!」
ふんっと鼻を鳴らし仁王立ちする目の前の女に、いい加減苛々がMAXをオーバーしそうな爆豪。
「じゃあ今すぐ目の前から消えろ!!そんで、二度と俺の前へ現れんな!それが恩返しだァゴラァ!!!」
「それじゃダメにゃ」
「ア"ァ゙!?」
やけに真剣な顔で見詰めてくるその女に、完全に調子を狂わされてしまう爆豪。
しかし、次の発言により怒りゲージは許容オーバーを通り越すことになる。
「それじゃ、アタシの気が済まないにゃ☆」
巫山戯た口調に、怒りから白目を剥いてぷるぷる震え出す爆豪。
「ふっ…ざけんじゃ、ねえ!大体俺は、犬派だああああああ!!!!!!」
突っ込むべきところは、そこではない。
この一秒後、下の階から母親の怒鳴り声がリフレイン。
こうして、犬派の爆豪に、猫の少女が恩返しする為の珍物語が幕を開けたのだった。