奮闘記B


「へー!あの爆豪が、この子を助けたのかー!」
「だぁから!!身に覚えがねぇって言ってんだろ!!!!」

茶々の周りには人集りが出来ている。
そんな茶々は、尻尾を空中にふよふよ泳がせて御機嫌の様だか、爆豪は実に対照的だった。

「バクゴーカツキにオンガエシしたいんにゃけど、何がいいかにゃあ?」

切島上鳴あたりが、健気だ…!と涙を滲ませる。
爆豪の知り合いしかも女子という物珍しい存在に、クラス中の男女が茶々に興味深々な中、爆豪は自分の席に足を乗せ只管その足を揺すっていた。

「私たちも爆豪くんの事よくわからないんだよね」
「緑谷は?幼馴染みなんだろ?仲悪ィけど…」
「ミドリヤ?」

幼馴染みという近しい存在に食いついた茶々。
どの人かと生徒達を順に見ていく彼女に切島が、アイツだよと親指で差す。
その先を見た茶々は目を輝かせた。

「見た事ある人だにゃ!」
「え!?デク君知り合い!?」

緑谷のすぐ隣りに立っていた麗日が驚いて緑谷に尋ねるも、当の本人は首を大きく横に振った。

「えぇ!?会った事ないよ!…人違いじゃない?」
「そんなはずないにゃ!ミドリヤ!バクゴーカツキの事よく知ってるにゃ?」
「いや、そりゃ…知ってるかと聞かれたら…、知ってるけど…」

グイと顔を緑谷に近付ける茶々に気圧されたじろぐ緑谷。
「余計な事言ったらコロス」と言いたげな爆豪の視線も相俟って余計に引き攣る緑谷の表情。
その事に対して首を傾げる茶々。

「バクゴーカツキが喜びそうな事って何か分かるかにゃ!?」
「いやっ…、その…」
「それか、バクゴーカツキの好きな物ってなんだにゃ!?」
「〜〜〜!!!」

質問をぶつける度に顔が近くなる。
顔を真っ赤にさせた緑谷は質問に答えるどころではなかった。
周りは周りで、接吻しかねない距離に沸き立つ。
爆豪は苛々最高潮。
バンッと机に手を付き立ち上がるとそのままズカズカと茶々の背後に立ち、首根っこを掴むように服の襟を掴み持ち上げた。
持ち上げられた事により身体を丸くする茶々は、正しく猫のそれ。

「テメェいい加減にしろよ!!!」
「ありゃ、何で怒ってるにゃ?」

キョトンとした様子で、爆豪を見上げる茶々。
まず、彼女の存在が皆に公になる事で、少なからず爆豪に茶々についての質問やら取り巻きが出来てしまう事と、物珍しい存在に沸き立つ周りが鬱陶しいと考えていた爆豪にとってこの状況は不愉快である。
そして、緑谷に接近した事で、彼の地雷を踏んでしまったようだった。

「俺は、変なことせずにじっとしてろっつったよなぁ?…そもそもなんで此処に居んだコラ」
「バクゴーカツキが何も教えてくれにゃいからオトモダチに聞こうとして此処に居るにゃよ?」
「そーゆー事聞いてねぇわ!!!」

そもそも此処に居ると言う事は、爆豪の後を着けてきたという事で、それに気付かなかった自分にも少なからず爆豪は腹を立てていた。
それもしょうがない事ではある。なにせ、猫は隠密行動を得意とするのだから。
二人のやり取りをクラスメートはハラハラして見守る。

「ま、まぁまぁ爆豪、落ち着けって!」
「クソ髪は黙ってろ!」

爆豪が声を荒らげた所で教室の扉が開かれる。一同そちらに意識が集中。
どうやら、休み時間は終わりの様で教室に担任の相澤が入ってきた。

「…?お前ら何突っ立ってる。早く席に着け。」

相澤のこの言葉のスグあとに始業のチャイムが鳴った。
各自、席に着こうとして疑問に思う。
部外者が彼に見つかってはまずいのでは…?しかし、相澤は気にする様子もなく教材を教卓に乗せている。
そして、席に着こうとしていた切島が教室を見回した後に一言。

「あれっ、爆豪…あの子は…?」

そして、爆豪も気付いていたのか先程まで茶々の襟首を掴んでいた空の手を見詰めていた。
教室に、茶々の姿は既に無かったのだ。
音もなく、気配もなく現れたり消えたりなんて事は猫に関わる上当たり前の事とも言える。
しかし、彼女は人。爆豪は、何処までも気侭な茶々に向かって、あのアホ猫…と独りごちた。






「あっ!バクゴーカツキ!おかえりにゃさ〜い」

爆豪が家に帰れば何食わぬ顔で出迎える茶々。
そのマイペースさに呆れてモノも言えない。
朝、勝手に学校に来たと思ったら勝手に家に帰っていた事から、爆豪は一つ考え至った事がある。
自分の通学鞄の中から、ある物を取り出して茶々に投げ付けた。
それは、小さな鈴の付いたチョーカーだった。

「…バクゴーカツキ…、これは…?」
「テメェ、音も気配も無ぇから近くに来ても離れても気付かねぇんだよ!!!わかったら黙ってそれ付けとけ!!!!」

鈴付きの首輪を巻くというのは、飼い猫には良くある事だった。
鈴の音で、何処にいるのか把握する為だ。
爆豪もそう言った用途で買い与えようと考えたのだが、人間に首輪を付けるわけにもいかず、付けていても自然なチョーカータイプを選んだというわけだった。
しかし、彼の意図は理解しているのかいないのか…茶々は爆豪から与えられた初めてのプレゼントに大喜びする。
手の中にあるチョーカーを嬉嬉として己の首に巻き付け、似合うかどうかしきりに聞いてくる。
そんな彼女を鬱陶しいそうにする爆豪もまた、口元は緩んでいたのだった。