奮闘記C

チリチリ音を立てる茶々の首元。
先日、爆豪が彼女に与えたチョーカーの鈴の音がひっきりなしに鳴る。
茶々は、その首元のチョーカーが気に入ったのか、態と動き回って音を出していた。

「じっとしてろ!うるせぇな!!!」

そう怒鳴りつけるも茶々は嬉しそうに笑った。
何がそんなに嬉しいのか…と呆れる爆豪だったが、彼もまた満更でもない様だ。

「オンガエシに来たのに、プレゼントされてしまったにゃあ」

だらしない緩み切った表情を浮かべ、嬉しそうに尻尾をふよふよ踊らせながら、爆豪の隣に座る。
余程嬉しいのか、ゴロゴロと喉まで鳴らしだす茶々を他所に、爆豪はテーブルに広げた参考書と睨めっこを始めた。
見た目と素行に反して、予習復習をしっかり自宅で済ます質の爆豪は実は真面目だ。
カチカチとシャープペンシルの芯を出してノートに数式を記入する様を茶々は、黙って見ていた。

「ガッコウ…って、楽しいかにゃ?」
「あ?」

先日、雄英に無断で乗り込んだ時。
クラスメートに囲まれる爆豪を見て、茶々はその空間だけがキラキラ輝いているように見えていた。

「バクゴーカツキは…、独りじゃないんにゃね。」

先ほどまでの弾む様な声色は影を潜めてしまっている。
何処か寂しげな彼女の表情を横目で見て、爆豪は無意識に言葉を放った。

「テメェだって…今、独りじゃねーだろ。」

そう言ってからふ、と爆豪は考えた。
自分と出会う前はコイツはどこで何をしていたのか。
そもそも、彼女の口から彼女自身の事を聞いた事が無かった。
元々身寄りが無いのだろう。
故に、ここまで彼女が爆豪に固執しているのかもしれない。
そして、彼女が言おうとしない事を爆豪から聞くことも無かった。
その代わり、別の言葉を掛ける。

「ちょっと出掛けるぞ。」

そう言うと爆豪は、先程まで広げていた教材を閉じた。
腰を持ち上げる彼を見上げる茶々。

「何ボケっとしてんだ、お前もはよ準備しろや。」
「えっ、どこ行くにゃ!?」

そう言うと、茶々の返答を待たずに外出の準備を始める爆豪。
と、言っても彼女は今着ている服以外手持ちが無いので準備もクソもない。
キョトン顔で爆豪の身支度が終わるのを唯々待った。






「それで…ここ…?」
「おう」
「なんか、バクゴーカツキやたら気合入れてるにゃって思ってたらここ…?」
「何度言わせんだそうだっつってんだろ」
「ここ、山じゃん!!!!!」

それ以外何に見えんだよ。そう言って、混乱する茶々を他所に登山道をずんずん進んでいく爆豪。
それに慌てて後に続く。
補足すると、この山の標高は然程高くはない。一般人でも気軽に登れる程度の山だ。
そんな山でも山は山。登るにつれて道は段々険しくなってくる。
元々登山が趣味の爆豪は難無く登っていくが、茶々も負けず劣らず額に少し汗を滲ませるもまだまだ減らず口を叩く余裕がある。
進む度に変わる景色と緑の香りを、茶々は純粋に楽しんでいる様だった。
それを少し先を歩く爆豪は、チラと確認して少し満足そうにした。

「楽しいか?」
「山登り自体はした事あるにゃ!でも…」

不自然に言葉を切る茶々を振り返る爆豪。
茶々は少し恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら言った。

「誰かと登ったのは、初めてだにゃ」

その言葉を聞いて、爆豪はフンと鼻を鳴らすとまた前を進み出す。
しかし、その歩幅は先程よりも狭い。
そんな彼の背中を、森の木々や木漏れ日を背景にして見つめる茶々の足取りは不思議と軽くなった。

「わあああああ!絶景だにゃあ*!」
「大した山でもねぇし大袈裟だろ」

山頂まで登って来た途端、そこかしこを走り回る茶々。
そこそこ険しい山道を今まで登ってきたのが嘘のように飛び跳ねる彼女を見て、爆豪は溜息を吐いた。
しかし、いい気分転換にはなったようだ。

「満足しただろ。帰るぞ。」

暫くはしゃぎ倒した茶々は、下界を一望する事が出来る岩の上に座って景色を眺めていた。

「帰ってしまうのが勿体ないにゃ。」

声を掛けた爆豪を一瞥する事もなく、食い入るように景色を見ながら返事をする茶々。
まるで、この景色を忘れないようにしっかり目に刻み付けている様だった。
そんな彼女に爆豪は長い溜息を吐いて、ポケットからスマホを取り出した。

「んな、忘れたくないならいつでも見れるようにすりゃいいだろ」

そう言って景色をスマホのカメラで収める。
パシャと子気味良い音が木霊した。
爆豪の一連の動作を見て茶々は、少々興奮気味に岩から飛び退いて爆豪に近付いた。

「え!?なにそれ!?今何したにゃ!?」
「はぁ!?お前、カメラも知らねぇのか?」

カメラ?キョトンと首を傾げる茶々に軽く舌打ちをしつつも丁寧に説明を施していく爆豪はやはり根は優しい。
今や日常的に使われる機能だが、茶々には余程画期的だった様でこれまた目が輝いている。

「バクゴーカツキ!どうせなら風景バックに一緒に写ろにゃ!!!」
「なんで俺が!」
「良いから良いから!はいにゃー!」






「バクゴーカツキ!」
「何だよ。」
「ねこまんまが食べたい!」

あれから帰ってきた二人だったが、部屋に着くなり飯を要求される。
…が、それも無理ないかと落ち着けた爆豪は、軽く着替えてから部屋で待つよう指示を出し自室を出てキッチンに降りた。
カチカチカチとコンロの火を点ける音が、キッチンに響く。
手際よく準備されるそれらは、片手鍋の中で次第にグツグツ煮え出した。
軽くお玉でかき混ぜそれをお椀に移し、おまけに鰹節を振り掛ける。
以前味が薄いと言われたものだから、今回は濃いめの味付けだ。
それを片手に爆豪は自室に続く階段を上る。

「ほらよ。」
「わーっい!ねこまんまー!!!」
「ぅわ!テメ、こら!」

後ろ手に部屋の扉を閉める爆豪に向かって突進する茶々。
しかし爆豪は、躱し切れずバランスを崩してしまう。
宙を舞ったお椀の中身は爆豪の足と茶々の腕に見事に掛かる。

「あちィ!テメェいい加減にし…」

相当熱いはずだ。実際爆豪も相当熱かった。
爆豪の場合熱さより怒りが勝っていたのですぐに反応出来たが、茶々は。

「お前、何平気そうな顔してんだよ…」

さっきまで鍋の中でグツグツに煮えていた中身をぶちまけられて平然とする茶々に爆豪は愕然とした。