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死は、人間に等しく与えられた唯一のものだと思う。

けれど、自分がその死を迎えられないかも知れないと気付いた時、人はどう思うのだろう。不死であることを喜ぶだろうか。私はそれが出来なかった。死にたくても死ねないなんて、なんて、不便なのだろうと、そう思った。



「はい、これでもう歩けるよ…少しずつだけどね」

「ほんと……?」

「うん、本当だよ。ここまでよく頑張ったね」



目前で声をあげて泣き始めてしまった男の子の頭をくしゃくしゃと撫でる。

脇に立っていた母親は未だに信じられないという顔をしたまま、男の子と私を見比べる。まあ、仕方がない。見た目には分からないものだから。私のところを訪ねたのだってきっと、藁にもすがる思いだったのだろうし。


「あの、本当に…これでもうこの子は……歩けるようになるのでしょうか」

「約束事さえ守っていただければ大丈夫です」

「はい…わかりました、ありがとうございます…」



母親はベッドに寝そべる男の子を抱えて車椅子に乗せると何度も頭を下げてから出て行った。

ふう、と息を吐く。
使ったものを元に戻し、軽く掃除をしてから部屋の写真を撮影する。この部屋の主に退室の報告をするため、メールを打ってから私も部屋を出た。


私は別に医者でもなんでもない、ただのしがない女子高生だ。

ただ物心ついた時から、世間一般的には異様な力が備わっていた。ただそれだけ。

私は怪我をしても、すぐに治る。それも瞬時にだ。傷も残らないし、痛みもない。そして、それは他人の怪我に対してもそうだった。その人の患部に触れて、なんて言うか…馬鹿みたいだけど"治れ"と念じれば、治すことができた。

この『治療』紛いの行為は、私から人を遠ざけるには最適だった。それと同時に噂が一人歩きをし、こうして知らない誰かが私の連絡先をどこかから仕入れ、『治療』を頼み込んで来ることがあった。

そういう時に、こうして"レンタルハウス"を利用して…もちろん場所代は依頼者に出してもらってだけど、『治療』をおこなっている。

ちなみに『治療』代は無料。場所代と交通費だけ。あくまでも、ボランティアみたいなものだから。

怪我をして、すぐに傷の『治療』をするなら目に見えてわかるけれど、さっきの男の子みたいに事故の後遺症レベルになると筋力も落ちているし、直ぐに結果は出ない。始めは呪(まじな)い程度にしか思われないだろう。

だからこそ、約束事は必ず守ってもらわなければならない。

1.『治療』を必ず信じること
2.『自分』を必ず信じること

さっきの子の場合、歩けるようになることをあの子自身が信じ続けてリハビリしなければいけない。それは、筋力を取り戻すため、歩き方を思い出すためだ。私の『治療』ではそこまでは出来ないのだから。



「……真っ暗だ」



外はもう、すっかり暗くなっていた。

割と郊外まで来たものだから、いつもより星がくっきり見える気がする。都会はどこだって明るいから、星なんてよく見えない。

…あの煌々と輝く星ですら、終わりを迎えられるというのに。

私はこの妙な能力のせいで、死ぬという人間に等しく与えられた権利を奪われている。そして、奪っている。

恐らく、病気にもならない。
今まで一度も体の不調を感じたことがないからだ。私は一体どうなるのだろう、不老ではなさそうだから老いたらいずれ死ねるのだろうか。

わたしは、そんなに、生きていたくない。


ふと、見上げた月に影が差した。

何か飛んで来ているようにも見える。鳥だろうか…?だんだんと近付いてくるに連れて、輪郭がはっきりと見えてきた。


「おい、そこどけっ!!」

「に、人間……?!」


紛れもなく人が降ってきていた。

言われたとおり、道の端へ避けるとその人はくるりと身を翻して地面に着地した。よく見ると同年代くらいの男の子だった。映画の撮影か何かかと一瞬思ったけど、怪我をしてボロボロになっている感じを見ると、作りもののようにも思えない。

声をかけようか迷っていたら、今度は聞いたこともない悍ましい声が空から降って来た。声の主を確かめようと、また空を見上げると影で姿はよく見えないものの、それは人でも動物でもない何かだった。



「あ、あれは…な、」

「見えるのか?」

「え…」

「ァァああ、見ィつけたああ」