「君を模倣シた姿だヨ。ウまく人の形ニなっテイたかハ分かラないケド――そノ気にナれば、ドンな形にダってなレる。…タだ、ものすゴく力ヲ消耗すルから。君とイたオカげで力がたマってイタから今回ハできたンだヨ」
「――イヴモン、」
「落ち着いタみタイだネ。良カった。…あア。ほッぺ、血ガにじんジゃってルヨ。引っ掻いタんでしョ?オンナノコなんダから、気を付けナイとダメだヨ?」


 ちょっと待っててね。そう言い残して、イヴモンは栞のポケットからハンカチを取り出すと、川に向かって行った。
 その後ろ姿をぼんやりと見つめる。姿は、確かに、自分を大きくしたような感じだった。雰囲気は少年らしいあどけなさを残し、短く切りそろえられた髪の毛は、彼の毛質を表すように白かった。――人間にも変身できる、デジモン。未だ、驚く脳内が冷めやらない。


「これデ冷やしテ、」


 ぴとりと頬に冷たいハンカチが押し付けられる。地味に痛みが襲い眉をしかめると、「自分で掻いチャったンだかラ、自業自得だヨ」と彼は簡単に言ってのけた。濡れたままのハンカチを力の限り絞って、自分の頬に充てる。ひんやりとした感覚が、頬から刺激され、やがては彼女の心までも冷やしていった。


「栞、――痛イ?」


 その問いに、彼女は首を横に振る。するとイヴモンは安心したように、頬の筋肉を緩ませた。
 彼がひたすら献身的に栞を思い続けてくれていた気持ちすらも、自分は踏みにじろうとしていた。初めて彼に会った時のことを今さらながら思い出す。目が覚めて、独りぼっちで恐怖で震えていた時、そのぬいぐるみのように愛らしく、果てがないくらい白い体が目に飛び込んできた。彼は嬉しそうに笑って、飛び跳ねていた。今でもあの顔は鮮明に思い出すことが出来る。思えばその時から、イヴモンは、栞の光だった。
 木々が風によって擦れる音が彼女の耳を刺激した。栞はハンカチを持っていない方の手でイヴモンへと手を伸ばし、優しく、触れた。


「ごめんね」
「何デ、謝るノ…?」
「私、いつも、傷つけてばかり」
「僕ハ傷つイテなんかないヨ。君ノ傍に居ラれレバ、十分だもノ」
「――あのね、イヴモン。前、言ったよね。やっぱり、私にとっての光は、イヴモンだよ」
「栞――」

「それは、間違いでありまやかしである、守人」


 ぞわりと、心臓が震え、栞はイヴモンを引き寄せる。余裕を秘めた声は、全てを凍らせるくらい、冷たかった。栞は恐る恐る振り返り――そしてそれを目に入れた。以前と変わらず黒いマントを羽織って、血色の悪い顔色は青白く、唇はまるで血を飲んだかと疑うくらい真っ赤に染まっている。一歩、後ろに下がった。


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