「やい、ジジイ!」


 神出鬼没すぎるゲンナイの突然の訪問に、太一は不信感をあらわにした。彼が来る時はいつも碌なことがない。今度もおそらく、良い事ではないのだろう。自然と語調が荒くなるのを、太一自身、理解していた。


「今度は何だってんだ!」
「うーむ。いい知らせと悪い知らせがあって…どっちから聞きたい?」
「良い知らせはあとに残すこともあるけど…」
「がっかりするのがオチだから、良い話から聞こうぜ」


 良い話と悪い話。一体、何のことなのだろうか。もしかしたらヴァンデモンを倒す方法が見つかった?仮にそれが良い話だとしたら、多少の悪い話など目を瞑ることができる。恐らく、良い話というのは、ヴァンデモン絡みではないことは確かだ。そして逆を言えば、悪い話というのは100パーヴァンデモンが絡んでいるといっても過言ではなさそうである。


「分かった。では良い話からしよう。――実はな、お主たちの仲間が見つかったのじゃ」


 1,2秒の沈黙のあと、子供たちは全員そろいもそろって瞬きをした。『仲間』――今、『仲間』と言ったか?


「仲間って…選ばれし子供、ってこと?」
「そう。実は選ばれし子供たちは全部で8人だったのじゃ」
「え…ええ!?」


 思いもよらない『良い話』に、子供たちは呆気にとられる。まさか、自分たちの他に、もう1人選ばれし子供がいたなんて――栞は驚いてイヴモンを見やるが、彼は少しだけ傷ついている顔を崩して、にっこりと笑った。まるで、知っていたとでも言うようだ。イヴモンはそれからまたバックの中にもぐりこみ、目を瞑る。2秒も経たないうちに、寝てしまった。


「ねえねえ、それってあたしたちの仲間ももう一匹いるってこと?」
「そう、なるわね」


 ピョコモンの言葉に、空はハッとした。選ばれし子供が単体で居るわけではない。セットで必ずパートナーデジモンもいるはずなのだ。
 栞はその時、ヴァンデモンの台詞を思い出した。


―――…お前達7人の力では我々闇の力の企みを阻止することは出来ないのだ。


 7人の力では、闇の力を抑えることはできない。裏を返し、この『良い話』の通りだとすると。


「8人そろえば、全てが戻る…」
「―そうその通りじゃ。大事なことは8人そろいさえすれば、守人の力が解放される。今のままでは、この世界の歪みは正せないということじゃ。ということはお主たちの世界の歪みも正せない。言っとる意味は分かるか?」
「もちろんさ!」
「うん」


 やるべきことが分からなかった彼等に、新しい光が見えた。それは、新たな仲間を得るということだろう。子供たちの顔に、笑みが浮かんだ。


「でも、どんな人かな?」
「会えるんなら早く会ってみたい!」


 希望に満ちたタケルの瞳や、純真さを秘めたミミの微笑みは、それだけで見ているこちらも期待で胸が膨らむ。「で」、と太一は言った。


「そいつは今どこにいるんだ?名前は?」
「名前は……えーと…えー……と、…知らん」
「ジジイっ!」
「すまん。じゃが、どこにおるかは分かってお、」


 瞬間、栞の脳内に、一つのデータが降り立った。鮮やかにくっきりと映し出されたものは、見慣れた地図の形。


「日本…」


 小さな島国。自分たちの故郷。栞の呟きに、ゲンナイは重々しく頷いた。


「そう、守人の言うとおりじゃ。8人目の選ばれし子供は日本におる」
「ええ!?」
「日本!?」
「それ…どこ?」
「太一たちの元居た世界だよー!」
「そうか。アグモンは行ったことがあるんでしたよね」
「うん!」
「でもそれじゃ会うことはできないな…」


 その通りである。いくら場所が分かっていたとしても、日本に行く術などどこにもない。太一や栞が日本へ戻れたのは、たまたま時空の歪みが生じたからだ。折角見つけた希望を初っ端から折られ、がっくりと肩を落とす子供たちに、拍車をかけるようにゲンナイは続けた。


「そんなにがっかりするでない」
「…で、悪い話ってのは?」
「今言った話は既にヴァンデモンが知っておる。奴め、既に先手を取って日本へ行き、その子供を探しだして倒そうと今兵隊を集めておるんじゃ」
「ええ!?ヴァンデモンが日本に!?」


 栞は思わずペンダントを握りしめた。ヴァンデモンが日本へ赴くということは、危険な目に合うのは8人目だけではない。日本全体が、巻き込まれる可能性だって出てくる。――栞の家族が…おじやおば、一馬が、危険な目に遭ってしまうかもしれない。それだけは、絶対に、避けたかった。


―――…守らなきゃ。
―――…何としても、ヴァンデモンを食い止めて。

―――…一馬たちを、守らなきゃ。


 そう、しっかりと魂に刻み込んだ。


17/07/27 訂正
11/06/07

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