最近、…うん、最近だよな…。なーんか妙に先輩にさけられている気がしないでもないんスよ。付き合い始めて早いもんで1か月は過ぎようとしているというのに、先輩の対応はといえば、日に日に、むしろ付き合う前の方がまだ良好だったんじゃねぇのって思えるくらいそっけないもんだし。俺としては悲しいし、いらだつわけで。一応、健全男子として、付き合ったら一通りのことは済ませたいんスよね。なのに俺たちはキスはおろか、抱き合ったりとか、…手つないだことだってないんスよ!?ありえなくないっスか!?こう、俺がストレートに打球すれば、先輩は速攻で新しいボールにして吐き捨てる、みたいな。こんな状態が、1週間、続いてるんスよ。はぁー…。

 なんて後輩に相談されたけど、ぶっちゃけどうでもいい。名前からもらったポッキーを頬張りながら、頬杖をついて目の前のくるくる頭をひたすらに見つめた。だってすることねえし。今日は雨日和だからか、コイツの髪は、余計に好き勝手暴れまわっていた。―つーかまだ一か月だっけ。間に挟まれてた俺からしたら何だか短いような気がする。二人してうっせーから、右手に名前の、左手に赤也の頭を持って、ごっつんこさせてやったっけ。それも一か月前か…。目の前のワカメもとい赤也は興奮しているのか立ったり座ったりを繰り返し、最終的にはさめざめと机にダイブした。ちょ、おま、俺の机が…。はぁ、とため息をついて足を組む。早くかえってくんねぇかな、コイツ。つーかこの相談、何回聞けば許されるワケ?かれこれ今日だけで10回目に突入したんだけど。またポッキーひと箱おごってもらわなきゃじゃん。

 昼休み。ちょっと遠くのクラスの友達に用事があったから、帰ってくるのが遅くなってしまった。ごはん、食べる時間あるかな…。ガラッと引き戸を思い切り開ければ、クラスメイトの目線が一斉にこちらを向いた。な、なにこれ一種のホラーじゃないですか…。ビクビクしながら教室に入れば、真っ先に目についたのは同じクラスのよく目立つ赤い髪。あれ、教室にいるなんて珍しいな――と声をかけようとしたとき、彼の目の前にいるふわっふわの黒髪に気付いた。…あ、れ。もしかして、目の前にいるのは。サァ、と顔色が青くなるのがわかる。よくよく見れば、赤い髪はポッキーを頬張りながら、足を組んだエラそうな状態で私を見ていた。うっ。あの目はポッキーを催促する目だ。思わず一歩後ずさる私に気付き、赤い髪はつんつんと目の前の黒髪―もとい切原赤也くんをつついた。おまっ、ちょっ、よけいなことを!もう一度引き戸に手をのばし、逃げる体制を作ったところで、がばっと赤也が顔をあげた。そしてその瞳が私をとらえる。ロック・オン。


「先輩!!好きっス!!今日こそチューしましょう!!」
「ぎゃ!!だ、だから!!人前じゃって、いつ、も!!」
「人前じゃなくったってしてくれないじゃないっスか!そんなの生殺しっス!!」
「赤也がそんな大声量でいうからみんな聞いちゃってて心待ちにしてんのわかんないのー!!?」
「じゃあもういいじゃないっスか!あきらめて!」
「あきらめられるか!!お前があきらめろ!!」
「いやっス!!あーでも逃げる先輩もかわいいっスね、」
「何故赤目になる!?」
「へへ、どこまで逃げても捕まえてやりますよ!っと、隙あり!」

 ちゅ、と軽いリップ音が頬から伝わる。ぼっと体全体が熱くなって、わなわな震えていれば、赤也は嬉しそうな顔をして、手を伸ばしてくる。

「先輩、だーいすきっす!」

「ほんと、アイツら見てて飽きないのう」
「あ、仁王。どこ行ってたんだよぃ」
「巻き込まれたくないから屋上」
「ずっりぃ!で俺に押し付けとかねえわ!」
「ブンちゃんが一番適切じゃけ」
「てめ!」
「で、名字が赤也を敬遠してた理由はなんじゃ?」
「…だからあれだろぃ。赤也がストレートすぎるっつー話。先輩好き!キスしよ!抱きしめて!諸々」
「うっわ、ブンちゃん、今のうっわ」
「てめえマジで殺す!!」

ALICE+