ジニーは美人で明るくて優しい。それに加えてユニークだし頭もいいしクディッチの選手だ。そんなジニーとは入学してからの友達であった。同じグリフィンドールに選ばれて、偶偶隣の席に座って、仲良くなって。――いつからだろう。彼女に対して、邪な思いを抱くようになったのは。ジニーを見ていると心臓がうるさく高鳴るし、笑いかけられたり、ひどい時には話しかけられただけで顔が赤くなるのがわかる。これは本来ならば男性に向けるべき感情だっていうことを、私は知っていた。でも私はそれを、あろうことか、友達に、一番近い友達に向けてしまった。この感情は決して許されることはないだろう。決して、許されない。
 「名前?」ひょっこりとジニーの赤毛が目の前で揺れ、思わず息を飲んだ。「ぼーっとしてどうしたの?ふふ、眠いのかしら」優しい声色は私の全身を包み込んで、熱い部分に更に熱を注ぎ込む。「なっなんでも、ないよ」思わず声が上ずって、カァと頬が熱くなった。一瞬目の前のジニーは目をパチパチと瞬かせ、それからクスりと笑った。――好き。その一言が思わず口を付いて出そうになった。「そ、それよりどうかしたの、ジニー」やっと出た言葉は少しだけ震えていたけれど、しっかりと出て、ホッとした。ジニーは私の隣にぽんっと勢いよく座って、あのね、と楽しそうに話し出す。ふわっと鼻をかすめたジニーの優しく甘い香りにくらりとした。「今日の――」その時、ジニーの目線が一点でとまり、言葉すら止まって、そこはかとなく優しい目になった。――ああ、ハリーか。かの有名なハリー・ポッター。それはジニーの好きな人の名前。確か一年生の時に助けられた、とか。まあジニーの兄であるロンとハリーは友達だから、関わり深いし。仕方、ない。 ずきん、と心が痛んだ。( ハリーがジニーを好きになったら、勝ち目なんてない )性別の差は越えられない。いくら私がジニーを思っていても、ジニーは私を友達以上には見ない。見るわけがない。男で、ジニーの思い人のハリーには叶いっこない。
 「まーたハリーを眺めているの?」「ちっ違うわ!ロンが、また何かしたのかしらって…!」「だって、ジニーの目、恋する乙女だよ?そんな目でロンのことは見ないでしょ?」心がいたい。心臓が潰れそう。言いたいよ。あんな人なんて見ないで。私を、隣にいる、私を、見てって。言いたいよ、ジニー。「見たって。ハリーは振り向いてくれないわ」ジニーは、悲しい顔をしていた。ねえ、ジニー。それは、私のせりふだよ。
 「案外さ」ジニーの小さくて、それでも頼りがいのある温かい手をにぎった。ジニーの美しい瞳が私を見た。「ジニーを見ている人は、もっと近くにいるんじゃないの」気づいてほしくて。気づいてほしくなくて。でもそれ以上に、ジニー、あなたの笑顔がほしい。「ジニー、好きだよ」友として。「大好き」人として。「名前――」「だからそんな顔しないで。笑って?笑った顔が、一番素敵だから」「…ふふ。ありがとう」大切な、人だもの。「…なら名前もよ」「え?」「あなたも笑った顔が素敵だわ。…なんて顔しているの、…なぜ泣いているの」ジニーの指が私の涙を拭っていた。いつの間にか流れていた。「…なんで、なんだろうね」わかっている。あなたのことを思って、涙は出ているのだから。「ジニー」「なあに?」「…これからも友達でいてくれる?」「…当たり前じゃない。あなた以上の友達なんていないわ」
案外さ、このポジションで安心しているのは私で。それを逃したくないのも私で。だからそれ以上の関係なんて望まないから。せめて。せめて、この思いだけは許して。きっと墓場まで、抱えていくから。あなたを思うことを許してね、ジニー。


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