「おい」
「え…?」

 ただ、もう見つめることには飽きただけだ。
 金で買えないものはテニス以外ないと思ってた。女なんて単純なもので、俺様の美技にみんな酔うと思っていた。実際そうだろ、アーン?こいつだって例外じゃねえ。俺様が話しかけたことで、顔を赤くしている。吃驚したように目を瞬かせて、それから周りをきょろきょろし始めた。周りに誰もいないことを感じたのか、名字は1回俺様を見てから、俯いた。

「…顔下げてんじゃねえよ」
「ご、ごめんなさい…」

 俺の目を、見ろ。
 思わず口から滑った言葉を聞いて、名字はびくりと肩を揺らした。そろりと俺の顔を見て、何か言い足そうにしてから口を結び、開いた時に出たのは謝罪だった。ちげえ。そんなことが言いたいんじゃない。小さなため息を付いて、俺はポケットに手を突っ込んだ。

「お前のせいじゃねえ。謝るな」
「…ご、ごめんなさい」
「だから謝るんじゃねえよ」
「あ、は、はい…」
「…お前、」
「え…?」

 躊躇うなんて。
 俺らしくもねえ。

「お前は、…俺のことをどう思う」
「……跡部、くんのこと…?」

 きょとん、とごく自然に首を傾げ、名字は俺の名字を呼ぶ。…バカみてえに、心臓が揺れる。ほんと、バカじゃねえの。

「え、っと…凄いな、って思う」
「は?」
「だって、生徒会長だし、200人もいるテニス部の部長だし、テニスだって上手いし、…それに何に対しても自信に満ちあふれてて…。私には、ないものばかり」
「……」
「だから、輝いて見える。次元が違うんだなって。…努力してるんだな、って」
「…ほう」
「あっ、ご、ごめんなさい…」

「だからなんで謝る。別に不愉快に思ってるわけじゃねえよ」

 努力してるなんて、初めて言われた気がする。それ以前に、そう思われるのは嫌いだから、誰も言わねえだろうが。けど、なんでだ。コイツにそう思われても、嫌だとは思わねえ。

「…はっ」
「え、え…?」

 初めから、答えは出てたんだ。だからずっと見ていた。そんなの俺らしくないと分かっていながら、毎日毎日見掛けるたびに、ずっと見ていた。金で手に入らないものは、テニス以外はないと思っていた。だからどんな時でも、自信があった。 けどコイツは金なんかじゃ手に入らねえと最初から分かってた。だから、好きになった。それは当たり前の話だった。

「おい、名前」
「…な、名前、」
「お前、俺の女になりな」
「え…?え、え!?」

「ずっと俺の傍にいろ。その代わり、最高の幸せをお前にくれてやる。否定なんていらねえ。お前は頷けばいいんだよ、アーン?」

 耳元で囁けば、真っ赤に染まった顔が、小さく頷くのを感じた。


( 満足げに微笑んだ跡部くんの顔、今でも忘れられません。 )


「…あ、跡部くん、あの」
「俺のことは名前で呼ぶことだな。じゃねえと返事はしねえ」
「そ、そんな!」
「簡単なことじゃねえか」
「わたし、男の子の名前呼んだことなんてないもん…!」

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