うっすらと気味の悪い森の中。昼間だっていうのに背の高い木のせいで、日光が入らなくて暗い。大きな1つ1つの葉が、カサカサと音を立てる。同時に膝ぐらいまである草たちもガサガサと音を立てる。動きづらくてしょうがないくらいに、足にまとわりついて嫌だ。なるべく下を見ないようにズンズンと歩いていく。その時、モソモソと不自然に草が動く。

「ナッゾ!」
「うわああ!ってナゾノクサか……!びっくりした。」

虫タイプのポケモンじゃなくてよかった。

バサッと草の中から出てきたのは、ナゾノクサ。そのまま私の胸の中に飛び込んできて、慌てて私は受け止めた。
ほんの少しの木漏れ日でキラキラと光る赤いクリクリとした目。なんだかニコニコしている。なんでこんなに機嫌がいいんだろうか。というか、こんなに警戒心がないものなのか。分からないので、なんとなくナゾノクサに聞いてみた。

「なんでそんなに機嫌がいいんだい?」

って聞いてみるとナゾー?と言いながら、頭にある草をサワサワと横に揺らして、キョトンとした顔で私を見つめる。いや、私が謎って言いたい。ギャグではなく、いたって真面目に。そんなどうして?って顔で私を見つめないで。それにしてもナゾノクサってこんなに可愛かったっけ。

でもなんだか悪い気はしないので、ナゾノクサの草を優しく触ってみる。本当に草なんだなあ。まあそうだよね。

「ナゾナゾ。ナゾ〜。」

は?可愛いんだが。え、今度は気持ちよさそうに目を細めて、口元を緩めてるってお前……私を落とす気か。けしからん。うちの子にしていいかな。よし、お持ち帰りしよう。この子がほーしい!こーの子じゃわっからん!……1人花一匁は悲しい。

「おい。」

ナゾノクサにデレデレしていると、ピカチュウがモンスターボールから出てきて、私の頭の上にどかっとのしかかる。やめて、マヒっちゃうよ。

「わあ。どうしたの、ピカチュウ。」
「どうしたのじゃねえ。そいつ、どうしたんだよ。」

ピカチュウは目を鋭く細めて、ナゾノクサにその視線を向ける。ナゾノクサはビクッとして、いまにも泣き出しそうな悲しい顔をする。

「そんな睨まないの!怖がってるじゃんか。」

優しくナゾノクサを抱きしめる。ピカチュウの視線から逃すように、ナゾノクサの顔を隠す。私からも見れなくなってしまうのが、少しだけ残念。そんなナゾノクサにピカチュウもため息をつくような動作をして、睨むのをやめる。

「へーへー。で、どうしたんだよ?」

それが、分からないんだよね、と言えば予想通り、はあ?と返ってくる。絶対、耳と尻尾立ったな。

うちの子、もといピカチュウは態度が悪い。そして口も悪い。気性が荒いのトリプルパンチである。

「意味わかんねー。怪我とかしてるわけじゃないんだろ?」

けれどもこうやって相手を心配をする、とってもいい子でもある。

「そうなんだよ。歩いてたらさ、いきなりワッて、飛び込んできたんだよ。」
「はあ。さみしいんじゃねーか?」
「ナゾ!!」

もぞもぞとナゾノクサが動いて、力強く声を上げる。今度は口元をキュッとして、私とピカチュウを交互に見る。
確かに、こんな薄っ君悪いところで1人は寂しいはず。私だったら発狂して死んでしまうわ。絶対。

「ほら。絶対そうみてー。」
「へえ、よくわかったね!」
「そりゃあな。」

俺もここで生活してたしな、とピカチュウはなんとも言えない、少し複雑な顔をした。

確かにそうだ。ピカチュウもここで過ごして、私と出会った。その時の出会いといったら、まあ酷いもんだった。あのピカチュウのすさみ具合といえば…中学生の反抗期のようだった。出会ってすぐに10まんボルト仕掛けてくるって、反抗期でもドッキリでもそんなことしないよ。
涙目になりながら、なけなしの運動神経を発揮して10万ボルトをかいくぐったのを思い出す。本当にあの時の私を自分で精一杯褒めてあげたい。それと比べれば、ナゾノクサはまだまだ可愛いもんだ。

「丸くなったね、ピカチュウ。」
「あ?太ってねえよ。」
「違うわ、バカ。」
「もういっぺん言ってみろ。いますぐにここで黒焦げにしてやる。」
「あばばばそれはやめて、ごめんて!」

あの時はこんな会話するなんて、想像もできなかっただろう。

「ナッゾ!」
「わあ!!」

ピカチュウがほっぺたからビリビリと電気を出しているところに、ナゾノクサがぴょん!っと私の右肩に飛んで頭の草をピカチュウの顔わさわさとくすぐる。なるほど、草タイプは電気の攻撃あんまり効かないもんね。

「ふ、あは、ふ、おい、お、お前、くす、ぐったいからやめ、ふ。」
「え、意外な弱点なんだが。よし、ナゾノクサに加勢だ!」
「おま、ふっざけ、んな!ふ、ふは。」

私は自分のセミロングくらいな髪を持って、左からピカチュウの顔をくすぐる。髪の毛で。なんだこの絵面、シュールだな。

「…お前らっ!いい加減に、しろーーーーー!!」

どんがらがっしゃん。

そんな音とともに近くの大きな木に雷が落ちた。
天からではなく、ピカチュウから発せられたもの。そこからとんでもなく焦げた匂いがしてくる。

「…ナッゾ。」
「…見ちゃいけません。ナゾノクサ。」


拝啓 お母さん

私、初めて母性というものに目覚めたのかもしれません。





2020.03.02
ポケモンで久しぶりに小説書いたー!
たまにこうやって文章で感情をがりがり書いていくとすっきりするよね。