「ランペルランペル。」

後ろからそう呼んでみれば、ソファーに腰をかけている上半身がこちらに向いた。
胸元についている大きな青色のリボンと少しウェーブのかかった短くて甘い鳥の子色をした髪が、ふんわりと揺れる。
ランペルからほのかにキャンディの匂いがする。
それに似合わない少し不機嫌な顔が、私の方を見る。

「なんだよ。ウルサイな。」
「好き。」
「っ!いきなりそういうこと言うなよっ、バカ!」

ランペルの真っ白な肌が少しだけ赤く蒸気する。その顔を隠すようにプイッと前を向いてしまう。
そう言うところが可愛い。ランペルへの好きと言う気持ちが溢れてきて、両手で鳥の子色の髪の毛を優しく撫でる。少しだけ髪の毛に顔を近づければ、さっき漂ってきたキャンディの匂いがした。その匂いが私の頭を直に刺激してクラクラとする。

「へへへ。」
「本当、なーんでこんなところに名前はいるんだか。物好きだよな、うしゃしゃ!」
「居心地いいよ?最初はこの場所怖いなーって思ったけど、ランペルがいるし、今は大好き。」
「ふーん。ま、僕は名前がいなくたって別に大丈夫だけどー?」

と言いながら、ランペルは頭の上に乗っかっていた私の手を取って、握ったり自分の頬に当てたりしていた。
外を見れば、昼間なのに薄暗い景色。オドロン寺院から見る景色はいつだってこんな感じ。近くのウスグラ村も似た感じ。

ランペルの言葉が本心じゃないことぐらいわかってる。自意識過剰とかそんなのではない。
でもこのやり取りが好きだから、握られている自分の手を引っ込めて、少し不貞腐れて頬を膨らませてみる。

「そんなこと言わないでよ、釣れないなあ。」

ランペルがふと後ろを向いた。ニコニコとしながら、白いマントの中から伸びる腕が私の顔に近づいて、頬を触る。輪郭を撫でるように優しく撫でてくる。その指先からほのかな暖かさが伝わってくる。その暖かさがくすぐったくて、口元が緩まる。

「うしゃしゃ。ほっぺた、大福みたいだな。」
「ランペルのその白いマントの方が大福みたいだよ。」
「そお?」
「うん、光沢がなくてもっちりふわふわしてる。私もそれ欲しい。」
「あげないよーだ。名前はそのままがいいよ、うしゃしゃ。」

それは褒め言葉なのか。
分からず、とりあえず褒め言葉として受け止める。

「なんか、ランペルが褒めてくれてる、嬉しい。」
「褒めてないよ。名前のその地味でパッとしない感じがお似合いだってことさ!」
「えーひどい。」

確かにそうだけどさ!はっきり言うことないじゃんか!
仕返しだと思って、後ろから大きな青いリボンを解いてマントをバッと奪う。わあ!と小さな悲鳴が聞こえる。
そのまま私の腕の中でぎゅっと抱きしめる。ふわふわしてて気持ちいい。

「ちょっと、何するのさ!」
「剥ぎ取っちゃった。あったかーい。」
「名前、キラーイ。」
「ええ、そんなこと言わないでよ!一緒に包まろう!」

そう言いながらYシャツにかぼちゃパンツ姿のランペルの左隣にボフっと座って、マントを広げる。

「そんなマント大きくないと思うけどー?」
「不貞腐れないでよ、ほらー!」

広げたマントを自分にかけて、ソファーの上で女の子座りをする。そして布の端と端を持って、そのままランペルを横から包み込むように抱きつく。
いつもはマントで隠れているランペルの身体があまりにも華奢で驚く。マントの中がランペルと私の体温でいっぱいになる。あったかくて、ポカポカする。
この時間が嬉しくて、自分の右頬をランペルの左頬にくっつける。フニフニしていて、落ち着く。このまま、まどろみの中溶けてしまいそうだ。

「ちょっと、本当、いっつも強引!」
「なんて言いながら嬉しいくせに〜。」
「ふーんだ。勝手にすれば?」
「拒否しないランペルかわいい。」
「ウルサイなあ!」
「へへー、あったかいなあ。」
「……名前ー。」

なにー?と言いながら頬を外してランペルを見る。ちょうどオドロン寺院の鐘がゴーンと低く鳴り、2人ともだんまりしてしまう。
赤色の目が吸い込まれそうなくらいとっても綺麗。その目を少し細めてにっこりと笑いながら、ランペルも足をソファーの上にあげてマントの中にしまいこんで座る。合わせてランペルの全身がこちらを向き、腕が私の腰に回される。必然的に距離が近くなるが私を引き寄せることはなく、優しくそっと触れるだけ。

「……ずっと、一緒にいてくれる?」

試すような言葉と、当然居てくれるよね?とでも言うような得意げな顔。
しっかりと同じ高さで目と目が合い、離せない。
ガラス玉とも言えるような、飴玉とも言えるような瞳。この優しい赤色の瞳が好き。綺麗に半月の弧を描く口が好き。雪のように透き通る、きめ細やかな柔らかい肌が好き。

私は今、一体どんな表情をしているんだろう。
わからないけど、この問いの答えはただ1つ。

「もちろん、好きだからね。」
「……僕もスキ。」

ランペルが甘ったるくアルトぐらいの音域で呟くと、腰に回された腕にいきなり力が入り、ぐんっと近づいてきた。
ふにっと唇同士が触れる。瞬く間に、私の身体中の血液が全身を駆け巡り出す。暑い。ボーっとする思考回路に幸福を感じて、気分が高揚する。目がトロンとしてきて、視界がぼやけてくる。もう私の体温なのか、ランペルの体温なのか分からない。全身が痺れて、泥沼のように2人で溶けてしまっている気分。
私も腕に少し力を入れれば、それに答えて愛おしそうな顔をして、離れたと思ったら角度を変えてもう一回唇同士が合わさる。

いつの間に、そんな顔をするようになったの。私そんな顔初めて見たよ。
胸がキューっとするのを戻れ戻れと必死になる。

恥ずかしさが最高潮になり、自分から体を仰け反って離れる。
離れておいて、少し寂しいとか思ってしまう私は自分勝手だ。

「ぷ、スキって言いまくるくせに、ちゅーは慣れてないんだな!うしゃしゃ!」
「や、やめてよ!うわー!あー!」
「ウルサイよ。」

甘い痺れを思い出してしまい、恥ずかしくなる。マント剥ぎたい、暑い。
なんだ、あれ。あれは私なのか。アドレナリンなんかのせいではなく、ランペルが魔法でもかけて私をおかしくしているんじゃないか。さっきの思考回路とは逆に、フル回転させる。動かそうとすればするほど、数秒前の感覚思い出してしまい、頭がパンクしそうになる。

「名前、このまま一緒に寝よう?」

そんな私を見て、悪戯っ子のような顔をして、今度は腕を私の首に回して優しい声で私の耳元で誘う。そんなランペルもほんのり耳が赤いけど、今の私にそれをいじる余裕は残念ながらない。

「うう、ランペル近い。」
「自分から包まろうって言ってきたくせに?今更!」
「なんていうか、その、今のちゅーで恥ずかしさが。」
「ふーん?」

ランペルが離れると、今までに見たことがないくらい嬉しそうに悪巧みをしている顔。
あ、これはしまった。と思った時には綺麗な顔がもう鼻の先に来ていた。

「そんなによかったの?もう一回してあげるよ!うしゃしゃ!」
「うわー!!待って!寝る、寝ます!」

恥ずかしすぎて顔を思いっきりそらす。
小さく、うしゃしゃと笑う声が聞こえる。



2019.05.26
いつも押されるのばかりだとつまらないから、最後の方、自分から押してみたランペル。
ランペル本当かわいい。
にしてもこういった文章は恥ずかしい。そしてランペルでこういう文章を書くと自分でも思ってなかった。