手にすっぽり収まるモンスターボール。凹凸のないそれは太陽に反射し、艶々している。バトルを終えてベンチに座り、触り心地のいいそれをゆっくり撫でながら、赤毛の男の子のアホ毛をじっと見上げる。
「...さっきから何なんだよ!」
勢いよく振りかぶって眉間にシワを寄せながらこちらを見る。一緒にアホ毛もふわっと揺れる。私の黒い瞳も一緒に揺れただろう。
「え?ああ、気にしないで!」
「気になるだろ!バトルも終わったし、さっさと消えろ!」
ちらっと目尻に視線を移せば、目付きは悪いものの、負けたから気が立っている、ようには見えない。シルバーも、成長した。彼も私と同じようにモンスターボールを大事に持っている。
「まぁまぁそんなに怒鳴らないで」
「...お前のせいだ」
「やだなぁ責任転換ですよ、シルバーさん。私はただシルバーを見てただけですもん」
そう言うと気まずそうに目線を逸らし、こちらに来て右隣に座る。右隣といっても、1人分空いているが。
「それが嫌なんだ、やめろ」
「シルバー、いず、目の保養」
「やめろ!」
「え?じゃあシルバー、わず、目の保養?」
「...やめろ」
「ええ、どっちかにしなきゃダメだよー。なんなら、シルバー、うぃる、目の保養?」
どれもお気に召さなかったのか、シルバーは無言で荒々しく立ち上がり、早足で去っていこうとする。
私も慌ててぴょんと立ち上がる。ベンチはがたがたと揺れた。
「え、もうちょっと話そうよ!」
シルバーの足がピタッと止まる。背は向けたまま。
「他のやつとでも話してろ」
一切こちらには向かず、早口で喋る。
早くここから去りたいという気持ちでいっぱいなのだろうか。
「うーん、まぁ、そういうなら、お暇しようかな。」
「ああ、そうしろ」
ふと視線を後ろの少し離れたところに移すと、友達もとい目の保養であるヒビキくんが仲良しのマリルと歩いていた。いつものように歩いてるのだろうけど、何故だかとても仲よさそうに見える。
「あ!あそこにいるのはヒビキくん!ヒビキくんも目の保養!天使!だからヒビキくんのところへいざ行かん!」
そう意気込んで近づいていってたら、シルバーが「...名前」と私を呼んだ。今度は私が足を止め振り返る。ふわっと花の香りがする。
「ん?なんだい?あ、いず、がいいのかい?」
「それはどうでもいい!」
「ええー、じゃあなにー?」
少し間を空けて、たどたどしくこういった。
「また、俺とバトルしろ。」
なんとまぁシルバーらしい発言。
そう思った反面、嬉しくてたまらない。
「なんという命令形!でもシルバーならいいよ!ウェルカム!」
「うるさい!俺はもう行く!」
ついにシルバーは早足で行ってしまった。
まぁ、でもまたお話しできるね!
2016.03.05
シルバーを書きたかった。
ツンデレを書きたかった。
結論、書けなかった。