「仁王の銀髪って綺麗だよね。」

もうすぐ卒業式の時期で、みんながお互いの思い出話をしている時。底冷えする教室に、感傷に浸る気持ち。太平洋側だからあまり雪は降らないが、低い太陽の光が海を照らす。まさに冬。
ふと思った話を持ち出して、同意を求めてみた。

「銀じゃなくて赤だろぃ。」

ま、君ならそういうと思っていたよ。全然分かってないなぁ。光を反射して近づけないような、でも触れられそうで触れられない、不思議な色。でもまぁ私だけが分かる気持ちなら、分からなくていいか。

「銀色って無垢な感じするよね。」
「え、名前、仁王を無垢だと思って...。」
「んなわけないでしょ、色だけの話だよ。」
「おいお前さんら、黙って聞いてみれば、酷い言い様じゃのう。」

だってそうじゃん。
けらけら笑いながらいうと一発ばちんとデコピン。
おでこって骨が近いから普通に痛いんだよ、なんて思いながら、手綺麗だなぁっとぼんやり考える。
私のおでこあたりに見える長いスラっとした指先、手のひらにマメがチラっと見える仁王の手。
中学1年生のような可愛い手ではない。いつの間にか、私の手の大きさを超えていた。
それにしてもデコピンすら様になるなんて。人間はどうしてこんなにも違うんだろう。


「あー、3月って仁王の月って感じ。」
「さっきからお前さんは何が言いたいんじゃ。」
「仁王について。」
「名前はアホじゃき、救いようがないぜよ。」
「今に始まったことじゃないだろぃ、仁王。名前はバカだ。」
「アホからバカに変えるんじゃないよ、アホ太。」
「名前に言われたくねぇ!」
「悪口のレベルが小学生なり。」

ぎゃーぎゃー騒げるのもあと数日。
私はこの土地を離れてしまうし、いつ次に会うかも分からない男女の仲。きっと高校生になったら私のこともだんだん薄れていくんだろうなぁとか、私いなくても楽しくできるんだろうなぁとか、当たり前のように考えて変に期待しないようにした。
期待して悲しくなるのを知った、中学3年の夏。父の転勤を、ミンミンゼミの鳴き声と共に告げられた。あの時のじめっとした空気と汗ばんだ表情が未だにはっきりと覚えている。

「どうした。」

ぼけっとしていたみたいで、顔を覗かれた。
仁王のゆるりとした動作と眠そうな声で、私の夏がグンっと静かな冬に引き戻される。
仁王の声は夏より冬の方が向いてそうだ。

「なんでもないよ、アホ太は中1からアホ太だったね。」
「そんなアホ太の友達だろぃ?名前。」

もちろんだよ。それにこれからもずっと友達でいたいよ。ずっとバカみたいに話してたいよ。みんなのテニスの活躍見ていたいよ。そんな欲がボロボロ溢れてくる。

「ま、お前さんのことじゃき。距離を置かれるんじゃないか考えてるんじゃなか?」

見透かされてる。なんでだ。

「んー…高校入ったらそれぞれ楽しくできそうだし、中学の関わりなんてどうでもよくなっちゃいそうだよねって考えてたよ。」
「だからお前はアホなんだよぃ。」
「なんでそこでアホが出てくるの!」
「だって、」
変にドライ面しとるが、実は寂しがり屋じゃろう。そうだろぃ、名前は自分で思ってるより友達思いで、そんでもって友達大好きなんだからなぁ、なんて仁王とブン太がごちゃごちゃ話している。

嬉しいとか悲しいの感情もごちゃごちゃだし、視界が霞んじゃって二人の髪の色が合わさって見えちゃうよ。ああ、そうだ、もうすぐ梅が咲く季節だなぁ。


2019.05.15
テーマ"灰梅"
ひっさしぶりの文章!!色をテーマにしてみました。
ちょっと季節外れですが笑
仁王中心にしようかと思いつつ、不思議な関係性にしちゃいました。