「自分の死に様って考えたことあります?」
「は?」
雲ひとつない青空に似つかわない突然の問いかけに、思わず素っ頓狂な声が漏れる。この女は突然何を言い出すのか。まるで明日晴れます?とでも聞くかのようなノリで海を眺めながら言ってのけた。
「だーかーらー、死に様ですよ!エース隊長はどうやって死にたいですか?」
「生き様ならまだしも死に様を聞かれる日がくるとは思わなかったな」
「そうですか?だって自分の最期の瞬間ですよ?気になりません?」
名前は船縁にもたれかかりながら目をこちらに向け、不思議そうにぱちぱちと瞬きをした。俺にしてみりゃ大切なのは生きている今であって、死に様ってのは結果だと思ってる。自分の行いの全てがその最期の瞬間に繋がっているんだ。終わりを考えたところでどうにもならない。それに、俺の死に様なんてもんは下手すりゃ録もんじゃねぇだろう。
「興味ねぇな。死ってのは誰だっていつか訪れるもんだろ。それまでが満足のいくもんなら俺はそれでいいさ」
「ふーん」
「強いて言うなら、家族を守るためだな!まぁ命と引き換えに守られたって喜ぶような奴らじゃねぇけど」
ふざけんな!なめんなこの青二才が!なんて怒鳴り散らすみんなの姿が容易に想像できて笑えてくる。俺だって逆の立場なら怒るだろうしな。海賊なんてやってんだ、死に様なんて選べるもんじゃねぇだろう。それにいつ死んでもいいように俺は俺なりに納得のいく人生を送っているつもりだ。
「そう言う名前はあんのかよ、理想の死に様ってやつが」
話題を振ってきた張本人なわけだしそれらしきものはあるんだろう。俺の問いかけに名前はうーん、という声をあげて考え始めた。
「私は…」
「私は?」
「大好きな人のために死にたい」
あ、大好きって言っても家族としてのじゃないですよ?と付け足すように言う。家族としてじゃないということは恋愛での意味ってことになるか。
「重いな」
「重いですか?」
「あぁ、重い」
重いというよりは、自分のために死んだと知ったらどう思うだろう。悲しいのはもちろんだがそれだけじゃないはずだ。悔しさだったり罪悪感に捕らわれることになる。
「死んだらもうその好きな奴とも会えねぇんだぞ?」
「うん、でもほら、片思いだし報われる見込みないんですよね」
「にしたってよ」
「耐えられないんです、私は。目の前で他の人と睦まじくしている姿を見続けるなんて」
きっと、素直に彼の幸せを祈ることもできない。海に視線を戻した#name2は眉間に皺を寄せながら言った。いつもの天真爛漫な様子からは想像もつかない。それ程に思い詰めているんだろう。
「報われないなら、せめて彼のために命を使い果たしたいんです。まぁそれだけじゃないんですけど…、変ですかね?」
「…いや、否定はしねぇよ。けど俺はお前に死んでほしくねぇ」
「それは、家族だから?」
「当たり前だろ、お前がどこの誰だか知らねぇがそいつのために命投げ出そうとしたら俺が助けてやるよ!」
「エース!やっと見つけた!」
軽く俯く名前の髪をわしゃわしゃと乱していると背後から俺を呼ぶ声がした。声の方を見ればこの船の頼れるナースであり大切な俺の恋人が微笑みながら手を振っている。あぁ、ちょっと前言撤回。名前の言うことも分かる気がする。きっと俺も、あの笑顔を守るために無茶をしちまう時がくるかもしれない。
「もうすぐで島に着くって!デートする約束でしょ!」
「おう、分かってるって!じゃあな、名前」
「…はい!」
顔を上げいつも通りの笑顔を向ける名前に背を向け、いまだにブンブンと手を振る恋人の元へ歩み出す。
そんな俺の姿を見つめる悲しげな視線に気づかないまま。
(それから数日後、あいつは俺を庇って死んだ)