私とエース隊長は仲良しだ。隊長といってもほとんど同じくらいに白ひげ海賊団入りしたしね。自分で言うのもなんだけど、本当に息ぴったりで良い相性だと思う。ただし、友人として。私は別にその関係に不満があるわけじゃない。なにを言っても許されるし、持ちつ持たれつ。肩を組んでお酒を飲んでる時なんて最高に楽しいし幸せ。ここでいい、ここがいい、ベストポジションだと思ってた。さっきまでは。
「え、なにごめんもう一回言ってくんない?」
「だから!俺に彼女が出来てんだってば!!」
「かの、じょ」
昨夜不寝番だった私を叩き起こして何を言うのかと思えば、彼女が出来たという報告。嬉しそうに笑って私をハグをするエースに私の顔はどう映ってるんだろうか。きっと彼女ができた喜びでいっぱいで目もくれてないのかも。若しくは私の演技が女優並みか。何も言わない私に構わずエースはぎゅうぎゅうと締め付ける。
「ちょ、苦しいってば!」
「だって嬉し過ぎてよ!前に話してた新人のナースの子だぜ!?」
「あぁ、そういえば言ってたかもね」
数週間前に仲間に加わった新人のナース。確かに可愛い。新人だけあって慌ただしいところもあるけど、一生懸命に頑張る姿は誰が見ても愛くるしい。無条件にでも守りたくなる。うお!おい名前!新しいナースすげぇ可愛いぞ!なんて、彼女を見てエースもそう言っていた。だけど、まさかこんな事になるなんて…。だってエースがあの子が可愛いだの綺麗だの言うのは今に始まったことじゃない。
「良かったじゃん」
「おう!ありがとな!」
軽く放心状態になりながらも、未だにぎゅうぎゅう抱きつくエースの背中をぽんぽんと叩いてやる。
こうしてあっけなく、友情は愛情の前に平伏したのだ。
あの後、私は眠いんだといつも通りの態度でエースを追い出した、と思う。さっきも言ったが放心していてあまり覚えてないのだ。追い出す際に何やらぎゃーぎゃー言ってたがそんなの今の私には構ってられなかった。予想通りというか当たり前というか、あの日から私とエースが一緒にいる時間はめっきり減った。そりゃそうだ。彼女をほっぽって他の女と仲良くするはずがない。今も船の手摺に寄りかかりながら睦まじく笑い合っている。それを遠くから見てる私。誰から見ても明らかな変化だ。仲間の中には鞍替えかー?なんてエースをからかう奴等もいたが、正直今の私には笑えない。全然全くもって笑えない。そしてそれに対して名前とはそんなんじゃねぇ!と返すエースの言葉は毎回私に追い討ちをかけてくる。私は、数週間前に船に乗った女に負けたんだ。勝ち負けの問題じゃないって分かっているけどそう思わずにはいられない。私だって、ずっと…、
「おう名前!こんなところで何やってだよ?」
「っ、サッチ」
「ん?あぁ…、あいつらね」
知らないうちに歪んでいた視界を拭い振り返る。そこにはサッチがいて、私越しに二人を確認すると眉を顰めた。きっとサッチは知ってる。エースとは仲間として隣にいたし、これから先もそれは変わらないと思っていたから自分の気持ちは誰にも言ったことがない。でもきっとサッチには知られてるんだ、この人変なところで敏感だからさ。
「来いよ、このサッチ様特製のココア飲みたいだろ!」
「…うん」
気遣い上手なサッチは空気を変えるように明るい声で私に言った。此処にいても仕方ない、むしろ惨めなくらいだ。頷いた私の背に手をあてながら食堂まで誘導してくれたサッチは珍しく男前に見えた。
「ほい」
「ありがとー」
「いーえ。で、大丈夫か?」
主語がない。でもサッチの言いたい事は分かる。大丈夫か、そんなの私が一番聞きたい。ナースの子を妬みそうな自分が嫌だ。だって結局仲間という関係から一歩踏み出せなかった私がいけないんだから。彼女は、もしかしたら関係が壊れてしまうかもしれないのを覚悟して一歩踏み出した。誰のことも責められない。だけど悔しい。何でなの?私の方がずっと前からエースを知ってるのに、楽しいことも辛いことも、一緒に感じてきた。なのにどうしてあの子なの?どうして!?頭の中でぐるぐる考えていると、ぐいっと頭を引き寄せられた。
「サッチ?」
「悪いな、俺ハンカチ持ってねぇんだよ」
ハンカチ持ち歩いてる海賊ってのも逆におかしいけどな!茶化し半分の台詞とは裏腹に、サッチの大きな手は私の顔を自身の胸元に押し付けている。あぁ、私、泣いちゃってたのか。泣くもんかって、思ってたのに。私はサッチの白いコック服をぎゅっと握りしめた。
「…う、ふっ、…サッ…チぃ」
「あえてハンカチ持つか!そしたら意外ーっつってモテるかも!」
涙には一切触れずに、サッチは私が泣き止むまでずっと抱き締めてくれた。時より、よしよしとか言いながら頭をぽんぽんしてくれる。ちゃんと諦めるから、だから今だけは泣いてもいいよね?
これはサッチ夢なの?
いえ一応エースです。続き書こうかな。