Re:意地悪な人
「お疲れ様、深透さん」
うっそりと微笑みながら、外套を肩に掛けた黒衣の少年は血濡れの黒傘を携えた少女に向かって言った。
少年はひとつ歳上の少女に敬称を付ける。それに含まれるのが敬意か揶揄か定かでは無いが、少なくとも彼らの世界で年齢は何の物差しにもならない。少年は少女の上司で、少女は少年の部下だからだ。
抜けきらないアドレナリンを逃がそうと深透は息を吸って、それから吐く。ぎらぎらと横に伸びていた瞳孔がすぅっと丸に戻って、その眼はゆっくりと太宰の方を向いた。
「もう、太宰ったら。酷い」
「そう?」
「敵多過ぎ。異能遣っちゃったじゃない」
「悪い事ではないだろ。おかげで今日は早くに事が片付いたんだからさ」
とある邸宅で行われた密売取引の阻止、及びその背後にある敵対組織の情報を洗い出すのが今回の任務だった。大抵の場合、背後の存在はこういった場へ直々に出て来ようとしないのだが今回の相手は違った。太宰曰く「成果を急ぐ手合いは時に僕らの想像を超えるんだよ」との事らしい。
彼の予想通り、敵対組織は取引に姿を現した。
彼らにとって想定外だったのは、取引の妨害に来たのがふたりぽっちだった事だろう。少年は悪魔的策略で、少女は怪物的手法で彼らを圧倒した。
およそ50名弱の精鋭で構成された組織は深透の手によって壊滅。密売取引に応じた相手も、太宰による拷問の果てに心身共に地に落ちた。
息絶えた人の山の上に座り、作戦成功を喜び無邪気に笑っている深透は歪そのものだった。まだ温かさが残る人の山。太宰は重なった四肢や胴体の上をまるで足場の悪い階段かのように上って、その頂上にいる深透へと手を差し出す。
「あら、お優しいのね」
「深透さんだけだよ」
「やだ熱烈。太宰のそういう所、私好きよ」
「あっそ。僕は嫌いだけどね」
深透が手を取り立ち上がったのを見計らって、太宰は預かっていた肩掛外套を彼女の肩にふわりと羽織わせる。そして腰を引き寄せて転けないよう支えながら、人の階段を降りる。
「あ」
「どうしたの」
「珈琲のストック買わなくちゃ」
「買って帰ろうか」
「えぇ。ついでにデェトでもする?」
「うげぇ……いッッたァ!?何すんのさ!!」
「何かイラッとしたから?」
「勘弁してよ。君の“イラッと”は死人出るんだぞ」
「んふふ」
上質な絨毯は血で濡れて、周囲には硝煙と鉄の匂いが充満している。そんな中二人は他愛ない会話と、たまに小突き合いを挟みながら邸宅を後にした。