トリオン体になれば、どんな傷を負ったとしても大した痛みはないし、実体に戻ったときに傷はない。本当に怪我をしているわけではないから、死につながることも少ない。とは言っても、ゼロではないのだけれど。切られた腕から溢れ出るトリオンが勿体ないなあ、なんて。視線があった彼に、思わず笑みがこぼれた。
『トリオン体活動限界。緊急脱出』
アナウンスが響く。横たわっていた体を慣れたように起こし、凝り固まった関節を鳴らしながら訓練室を出ると、白い紙が視界を埋めた。
「わわ、ぷっ」
「よう、弓月」
「出水先輩!これ、なんです!?」
床に散らばる紙を指さすと、出水先輩はその内の1枚を手に取って、弓月の目の前で揺らした。
「先月の、お前が倒したトリオン兵と任務諸々」
「わああ!なんてもの持ってるんです!?」
「俺だって見たくなかったわ!なんだよ、お前。そんなに任務入ってんの?」
「あー、えっと、ですね……」
わざと入れてもらったなんて言ったら、実は優しくてお人好しらしい出水先輩は、きっと怒るだろう。そう思って言葉に詰まる弓月に、出水先輩は呆れたような、怒ったような表情をした。
「さっきの戦闘も見てたけど、そんなんじゃ死ぬぞ、お前」
「……やだなあ、出水先輩」
弓月がそう簡単に死ぬわけないじゃないですか、とは。出水先輩には言えなかった。無理矢理に口角を上げた笑顔に、痛むはずのない体が、どこか痛んだような気がした。――ああ、いまは実体だっけ。
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痛いなんて忘れたかも