戦いが、終わった。あれほど慌ただしかった本部もいくらか落ち着きを取り戻して、ボーダー隊員の安否確認や被害状況の整理を始めた。その中でわたしは忍田さんに連れられて歩いていたのだけれど、忍田さんは誰かに呼び止められて少し離れたところで、難しい顔をして話している。何気なしに辺りを見渡してみるが、見知った顔はどこにもない。
「わかっ!」
「えっ?」
名前を呼ばれた気がして、思わず声が漏れる。間違っていたら少し恥ずかしいなあ、なんて思いながら視線を巡らせれば、懐かしい白色が、こちらに駆けてくる。
「とう、こ、ちゃん…?」
あの頃とは雰囲気が異なるけれど、きっと冬子ちゃんだ。くしゃりと歪んだ顔は泣いているようにも、怒っているようにも見えて。わたしが名前を呼べば、冬子ちゃんのスピードは上がり、あっという間にわたしたちの距離は縮まった。
「……冬子ちゃん、だよね」
「…っばか!ばかばか、和花のばかぁ!」
大粒の涙を溢す冬子ちゃんが、わたしをぎゅうぎゅうと抱きしめる。苦しくて、少し痛いけれど。わたしを呼ぶ冬子ちゃんの声が震えているから、なにも言えなくて。冬子ちゃんの背中に腕を回して、きゅっと唇を噛み締めた。こうでもしないと、泣いてしまいそうだったから。
「なかないで、」
「お前は馬鹿か」
頭上から聞こえる男の人の低い声と、頬への衝撃。じんじんと熱を帯びる頬と、目の前にある大きな手に、打たれたことがわかった。痛いというよりは驚きに目を瞬かせていると、次いで聞こえたのは慌てたような声。
「ちょっ、何してんの!大丈夫か?痛かったよな、冷やすもの…ないよどうしよう!」
自分が打たれたわけでもないのに、へにょりと眉を下げてわたしを心配そうに見つめる、見覚えのある顔。わたしを打った手の持ち主の顔も、見たことがある。だって、だって彼らは、
「やめろよ真田〜、おれ和花に泣かれるとどうしたらいいのかわかんねえんだよ〜」
ぽすり、温かいものが頭に触れて、思わずわたしは息を飲んだ。――最後のピースが、揃ったのだ。4年も経てば変わることがたくさんあるはずなのに、みんなのことはすぐにわかった。大切な、温かい時間をいっしょに過ごしたみんなだから、気づかないはずがなかった。
「冬子ちゃん…っ」
「うん、なぁに?」
「圭悟、さん」
「…なんだ」
「…っ伊月さん」
「うん!」
「…澪さん、」
「おう」
冬子ちゃんに抱き締められたときから少しずつ緩んでいた涙腺は、とっくに決壊してその役目を果たしていない。なにかが壊れたようにぼろぼろと泣いていると、泣き止んでいたはずの冬子ちゃんも隣で泣いている。反対隣を見れば伊月さんが泣いていて、圭悟さんは少しだけ表情が柔らかくて、澪さんは、やっぱり笑っていた。夢にまで見た光景が、目の前に、手を伸ばせば届くところに広がっている。
ぐずぐずに溶けた視界の奥で、誰かが口を開いた。
「おかえり、和花」
嬉しくて、涙の量が増す。そうなるともう、口から漏れるのは嗚咽ばかりで、言いたいはずの言葉は出てこない。泣き止んだらきっと言うから、もう少しだけ待って。たくさんのごめんなさいと、ありがとうと。ただいまを告げるから。
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ポラリスへと至る道