小さな門が開いて、そこから何本かの棘のようなものが飛び出している。助けが来たと思っていくらか気の緩んでいたあの人の目が、驚きに見開かれる。その表情を見ると、どうしてだろうか、体が勝手に動いていた。背後からわたしの名前を呼ぶ忍田さんの声が聞こえているのに、動き出した足は止まらない。
べつに、仲間意識というものを抱いていたわけじゃない。実験の影響とはいえ、性格が変わってしまったあの人を利用していたわたしだけど、それでも、

「……っエネドラくん!」

彼は、わたしが恋した人、だから。体中に、息もできないほどの衝撃が走る。痛みはなくて、ただただ熱かった。

「和花、大丈夫だ。すぐに助けを、」
「いいんです、しのださん……っもう、いいんです」

ごめんなさい、忍田さん。わたしを助けようとしてくれているのに、こんなことを言ってしまって。でも、わたしの体はもう無理だってわかるから。こんなに血が止まらないもの、医者じゃなくても間に合わないってわかる。もっとたくさん言いたいことはあるのに、時間は止まってくれない。

「ねえ、えねどらくん」

赤い髪に、2本の小さな角。ミラと呼ばれていた女性に、幼いあの子を思い出すけれど全然違う。あの子は、こんな表情をしたことなんて1度もなかった。ミラ、あなたがあの人を殺そうとしたことに、意味なんてないのでしょう。それでもわたしは、最後にあなたたちの表情を崩すことができて良かった。いつもわたしを守ってくれていた彼を守ることができて、ほんとうに良かった。

「――ざまあみろ、だよ」

最後に笑うのは、わたしたち。





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裏切りに意味はないんだろうな