この想いは、決して抱いてはいけないものだった。早恵、と名前を呼ばれるたびに湧き上がる想いを、唇を噛んで飲み込む。今は大切な時期なんだから、部員とコーチという関係を崩してはならない。結束するみんなの間に、亀裂を入れてはいけない。
「悪い、この学校の資料頼めるか」
「はい、まとめておきますね」
この半年で、作り笑いは結構上手になったんじゃないかな、なんて。ひとつ、頷いて背を向ける。すき、すきです。言葉にできない『すき』はいくつになったのかな。真っ白な用紙に、ボールペンでぐるぐると歪な渦を描く。ああ、また潔子にもらったリップを塗らなくっちゃ。飲み込むたびに噛み締めた唇が、いたい。
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諦める