夜の図書館。人目を盗んでの、秘密の逢瀬。長い付き合いのリリーたちにも、誰にも見つかってはならないこの逢瀬は、わたしが三年生のときから続いていた。
本棚の隙間に隠れて、見つからないように辺りに魔法をかけていく。わたしも彼も、生まれは魔法一族の名家。家を探せば魔法の本はいくらでもあったし、ここは図書館。防御魔法を探すことは簡単だった。ゆらゆらと波打ちながら広がっていく何個目かの魔法を見つめ、息を吐く。隣を見れば、月の光に照らされた彼の横顔。
「……レギュラス、」
淡く照されたレギュラスがわたしの前から消えてしまうような、そんな気がして、気がつけばわたしはレギュラスの腕を掴んでいた。驚いたように少しだけ目を開いたレギュラスは、冷えきったわたしの手を包むように握って、優しく笑った。
「どうしたんですか、レティシア先輩。暗いのが怖いですか?」
「…違うわよ、もう」
くすくす、と口許を隠して肩を震わせるレギュラスに、身体から強ばっていた力が抜ける。冷えきっていた手も、温かくなっていた。
「レティシア先輩、」
「なぁに?」
「僕、今度家に帰ったら兄と話してみようと思うんです」
買い物に行ってくる、とでも言うように軽く告げられた言葉に、少しだけ息が詰まる。驚いてレギュラスを見ると、口許は柔らかく笑みを作っているのに、目だけは真剣さを持っていた。こういうときに嘘や冗談を言わない彼だから、これも冗談ではないことがわかる。え、と微かに漏れた言葉は呆れるほどに弱々しかった。
「逃げてばかりじゃ、だめだと思ったんです。僕の夢は、未来は、貴女と共にあることですから、一歩を踏み出してみようと思いまして」
「レギュ、ラス…」
「……本当は、少しだけ怖いんです。でも、貴女のことを想えばまったく苦ではありません」
そう言って微笑むレギュラスは、初めて見るような男の顔だった。無力に嘆いているわけでもなく、悲しんでいるわけでもない。未来を見て、前へと進もうとしていた。ぎゅ、と手のひらを握りしめる。痛んだけれど、これくらいどうってことはない。熱くなる目頭を無視して、口角を上げる。
「それでも、無理はしないでね。わたしも、頑張るから」
「…はい。レティシア先輩も、無理はしないでくださいね」
腰に回された腕が、優しくわたしを抱き寄せる。彼の後ろから見える月が、わたしたちを包みこむように照らしていた。――時間は、残り少ない。やるべきことは沢山あるのだと、新しく決意する。それでも、今だけは彼と触れていたくて。レギュラスの背に腕を回して、そっと目を閉じた。
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誓う